5-1.勇気の引き金
初めて引き金を引いたその指は、まだ小刻みに震えていた。
手に収まっている銃のグリップ部分は汗でじっとりとしている。
視線の先には黒風の穢れと呼称された化け物。
照準から目を一度外し、目視で異形を見る。
一度は当てることができた銃弾だったが、タビーの心中は不安と恐怖に締め付けられていた。
異形の化け物は、村を目指し、無差別に攻撃しているのだと思っていた。
しかし、先ほどの動きを見て感じた。
明らかに自分に対し振り向き、歩き始めていると。
―――おいおいおい…!あれ俺に向かってきてる絶対…!なんでなんでなんでなんで!
「アーヴィン!!こっち、こっち向かってきてるよコレ!!」
石垣に隠れ、焦り叫ぶタビー。
「今そっちに行く!とにかく一旦そこを離れろ!!」
アーヴィンも明らかに標的を絞ったように動き始めた異形に気付いていた。
彼の声が返ってくる。
ここまで来るのに多少時間はかかりそうだ。
初弾を撃った後、すぐに排夾と装填、所謂ボルトアクションはできている。
すぐに次の弾は撃てる。
「こいつを止めないと…!少しでも、時間、稼がないと…。」
躊躇は依然あるが、タビーは再び銃を構え直し、呼吸を整える。
心臓の鼓動が早まり、耳元で鳴り響く。
風の障壁がその周りを取り囲み、近づく度に不気味な声が聞こえる。
―――こいつ、マジでなんなんだよ…。
周囲の木々が揺れ、風が強まる音が耳に入る。
黒風の穢れの姿がますます異様に見える中、タビーは再度引き金を引いた。
銃声が森の中に響き渡り、弾丸は黒風の穢れに向かって飛んでいく。
しかし、先ほどとは違い、風の障壁に身を固めた化け物は、その風で弾丸の軌道を逸らし身を守る。甲高い金属音が一度、銃声の後に鳴った。
「くっそ!…効いてない…」
風の障壁に阻まれた弾丸を確認したタビーは、次の行動へ。
自身もアーヴィンの元へ移動する。
石垣を離れ、走り出すタビーはユカレイを発見する。
―――あれは…ユカレイさん…!!
「ユカレイさん!!」タビーは駆け寄り、彼の傍に膝をついた。
彼の顔は蒼白で、脇腹に矢を受けていた。
「奥井殿…無事じゃったか…」ユカレイはかすれた声で答えた。
戦いに参加したタビーに対して感謝と敬意の言葉をかけようとするが、その容体は明らかに悪化している。
「無理しないでください…俺、どうすればいい?」タビーは焦りを隠せずに言葉を続ける。
ユカレイは弱々しく微笑みながら言った。
「来てくれたんじゃな。やはり強き子じゃ…ここまでよく…やってくれた…君たちなら、きっと倒しきれる…わしには…わかる…」
ユカレイは最後まで言葉を出し切れぬまま、瞼を閉じてしまう。
意識はすでに無くなっているようだった。
タビーは彼の言葉に頷き、周囲の村人たちに声をかけた。
「誰か…、誰かぁ!!!ユカレイさんを…!早く!…こっちです!!!」
元々ユカレイの為に向かってくれていた村人達が到着、駆け寄り、ユカレイを慎重に運び出す。
タビーは彼を見送った後、改めてアーヴィンの元へ向かって再び走り出す。
タビーの動きに合わせて、背後から黒風の穢れが迫ってくるのを感じ、心臓がさらに速く鼓動する。
―――やっぱり俺に…なんで俺ばっか狙ってくんねん…!
タビーは自分の身を守るために数度、銃を構えはするが、風の障壁がある事で弾が無駄になると理解する。今はただアーヴィンのいる方へと進むしかなかった。
「アーヴィン!」タビーが叫びながら走る。アーヴィンも彼に気づいて駆け寄ってきた。
「タビー、じっちゃんは!?大丈夫なのか!!?」アーヴィンが焦り、問いかける。
「ユカレイさんは…なんとか…でも脇腹に矢を受けてるから…。今、村の人達が運んでくれてる。」
タビーは息を切らしながら答えた。
アーヴィンの顔が青ざめ、目が揺れる。
「そんな…じっちゃんが…。くそっ…!」
彼は拳を握りしめ、石垣に叩きつけた。
タビーは心中を察するしかなかった。
彼もまた、自分に良くしてくれた人の痛々しい姿に不甲斐なさを感じるばかりであった。
タビーはアーヴィンの肩に手を置いた。
「アーヴィン…。今は考えんのはやめよ。このままじゃもっと傷つく人が増える。今は俺たちでなんとかするしかない。ユカレイさんは言ってたよ『アーヴィン達なら倒しきれる』って。な?」
アーヴィンは深く息を吸い込み、そして顔を上げる。
「そうだな…タビー、ありがとう。俺たちでなんとかしよう。」
二人はお互いの顔を見やる。
黒風の穢れを討つ決意を新たにしたのだ。
必ずここでやり遂げなければならない覚悟が全身を震わせる。
そうして、立ち向かう準備を改めて整える二人であった―――。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
タビーが初めて引き金を引いた瞬間から、
彼の中で少しずつ変化が生まれているのを感じていただけましたでしょうか?
異世界に飛ばされた普通の青年が、徐々に仲間のために戦う覚悟を固めていく過程は、
個人的にもとても書いていて感情が入りました。
そしてユカレイさん…
彼の状態については、アーヴィンたちにとって大きな転機となるシーンでした。
アーヴィンとタビー、それぞれの想いがどう交錯していくのか、
次回以降もぜひ楽しみにしていただければと思います。
いよいよ佳境へ向かっています。
黒風の穢れとの戦いの行方、そして仲間たちがどのように力を合わせてこの困難を乗り越えていくのか…。引き続きお楽しみください!
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それでは、また次回お会いしましょう!




