4-2.穢れ、襲来
前線をリセルに任せたユカレイは、一度家に戻ってきていた。
それは、タビーを心配しての事だった。
タビーは布団からは出てきていたものの、部屋の隅で膝をかかえていた。
それは、明らかに自身がどうすればいいのかわからないといった風だった。
ユカレイは、いや、一緒にいた皆は察していた。
彼が起きていた事にも皆が気付いていた。
だがタビーの心情を配慮していたのだ。
タビーにとって、その優しさが逆に辛いものとなっていた。
「奥井殿、大丈夫か?」ユカレイは優しく声をかけ、タビーの隣に腰を下ろした。
タビーは顔を上げ、困惑と不安が入り混じった表情を見せた。
「俺…どうすればいいんやろ…、怖くて、動けん…」
ユカレイは深く頷きながら、タビーの肩に手を置いた。
「そうじゃな、わかるぞ、その気持ち。見知らぬ地で、恐ろしいものを目の当たりにして、ましてや君は戦士ではない…。そもそも誰にとっても戦うという事は容易ではない。…しかしな、君がここにいることにもきっと意味があるんじゃ。」
「意味…俺がここに来た意味…」
タビーはその言葉に耳を傾けたが、まだ不安が消える事はない。
「奥井殿、もし可能なら、一緒に戦おう。君なりの戦い方がきっとあるはずじゃ。無理はせず、できることから始めてくれればいい。君がいるだけで、アーヴィン達はきっと、勇気をもらえるんじゃないかのう。」
タビーはその励ましに少しだけ安堵の表情を見せたが、それでも行動に移す勇気はまだ湧いてこなかった。「ありがとう、ユカレイさん。でも…やっぱり怖いんや…」
ユカレイは優しい目でタビーを見つめ、静かに微笑んだ。
「それでいいんじゃ、無理をすることはない。安心なさい、我々が君を守る。」
「私も行くとするよ、もし勇気が沸いたのなら、まずは自分を守る為でいい。武器を取りなさい。我々も皆、怖いんじゃ。じゃがここで負ければ後はどうなる?誰かを失う、何かが壊れてしまう、皆それが嫌なんじゃ。だから戦うんじゃ。」
ユカレイは壁にかかった武器を見やりながら続けた。
タビーはその言葉に再び頷き、少しだけ心が軽くなったように感じた。
しかし、それでも身体は動かず、部屋の隅で膝を抱えたままでいた。
ーーー
森の奥から不気味な音が響き渡る。木々の隙間から赤黒い霧が立ち上り、その周囲に巻きつくように漂う。不吉なオーラが漂う中、黒風の穢れが姿を現した。アーヴィン達は息を呑み、その異形の姿を見据えた。
「皆、準備を!」
リセルが叫び、アーヴィンと仲間たちはそれぞれのポジションについた。
弓兵たちは矢を番え、戦士たちは剣を抜き、盾を構えた。
彼らの顔には決意と緊張が入り混じっていた。
黒風の穢れはゆっくりと、しかし確実に村に向かって進んでいた。
その歩みは重く、まるで自らの存在を誇示するかのようだった。
アーヴィンは深く息を吸い込み、冷静さを保つよう自分に言い聞かせた。
「ここで止めるんだ。絶対に守り抜くぞ。」
彼の声には揺るぎない決意が込められていた。
リセルは弓を手に取り、その冷静な瞳で前方を見据えた。
彼女の隣にはアーヴィンが立ち、矢を番えた状態でスタンバイしていた。
村の弓兵たちも一列に並び、それぞれが矢を番え、射撃準備を整えていた。
黒風の穢れが発せられる赤黒い風が彼らの頬を切り裂くように吹き抜け、木々の間を揺らしていた。普段の虫の鳴き声や、鳥のさえずりは聞こえない。
ただ静寂と緊張が辺りを包んでいた。
リセルは弓を引く指先に力を込め、集中を高めた。
「アーヴィン、二人で狩りをするのは久しぶりね。」
黒風の穢れという、未知の魔物に対して、人を殺す魔物に対して、
狩りという言葉は本来似つかわしくない。
だがそれは、リセルなりにアーヴィンを気にかけ、弟子の平常心を保たせようとした一言であった。
「師匠、今回は流石に獲物がでかすぎです。」
師匠と弟子、この関係だからこその、特有の冗談でお互いの気を紛らせた。
内心の不安を少しでも紛らわせるアーヴィン達、
すぐそこまで『それ』はやってきているー――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに 「黒風の穢れ」との戦い が始まります。
タビーの葛藤、ユカレイの言葉、そしてアーヴィンたちの決意——
それぞれの想いが交錯する中、ヤマタの村を守る戦いが幕を開けます!
次回、「決戦」 へと突入しますので、ぜひお楽しみに!
評価やブックマークも励みになりますので、
もし気に入っていただけたら、よろしくお願いします!
では、また。




