3-5. ギフター:奥井 旅人
――アーヴィン、レオ、そして奥井旅人が話している間、
村人達との話が終わりユカレイがアーヴィン達の話の腰を折らないよう戻っていた。
そっとリセルの横に腰掛け三人の話を一緒に聴いていた。
「ふむ、腹が膨れて少し気分も良くなったようじゃの。良かった。」
奥井は、この人がこの集落での偉い人なのだろうと察し、会釈する。
ユカレイは椅子に腰掛け直し、穏やかな表情で話を始めた。
「さて、アーヴィン、レオ殿、それに奥井殿。」ユカレイは穏やかな表情で話し始めた。
「災厄が起きると一定の『穢れ』が発生するのは、この地では古くから知られておる。
アーヴィンやレオ殿はわかるな?それでな、君たちの言う魔物の事じゃが…極めて稀なんじゃが、もしかすると、あれは『物体化した穢れ』かもしれん。」
アーヴィンとレオは驚きの表情を浮かべる。奥井もその言葉に耳を傾ける。
「物体化した穢れ…?」アーヴィンが反芻するように呟いた。
「そうじゃ。あくまで推察じゃが今回の大きな災厄が起きた事で、ヤマタの地に満ちる負の感情が集まり、具現化したんじゃないかの。見張りに確認させたんじゃが魔除けの香炉の煙が風にのって森へ行かんのじゃ。黒い風が集まったと言ったな、それはこの地の穢れが一点に集中したという事じゃないかの…。」ユカレイは続けた。
奥井はその言葉に驚き、加えるように質問を投げかけた。
「じゃあ、俺が聞いた『ハルレイ』って言葉の意味は…?」
リセルが答える。
「…そうね。まだわからないけど…もし勇者ハルレインという意味なら、重要な意味を持つかもしれないわ。かつてアルラーミを救った勇者の名前。もしその『物体化した穢れ』がその名前を口にしていたとすれば、何か深い因縁があるのかもしれないわね。」
「ふむ、それについてはリセルの言う通りわからない事も多い。じゃが、それよりも重要な事を忘れてはならない。」ユカレイが再び口を開いた。
「災厄の度に現れる『ギフト』についてじゃ。ギフトとは、異世界からもたらされる物や、知識の書、技術のことを指す。これまでも我々はギフトを活用し、この村の発展にも寄与してきた。これは恐らく世界中でじゃ。」
「俺の服や十手もギフトだって話だよな。」アーヴィンが確認するように言う。
「この宝石類もな!」レオも布袋を開きながら見せる。
「その通りじゃ。」ユカレイは頷いた。
「そして、奥井殿…。君もまたギフトの一つとしてこの地に来たんじゃないかの。災厄と共に現れたということは、君自身が何らかの役割を持ってこの世界に来たのかもしれん。」
奥井はその言葉に驚き、そして戸惑う。
「俺自身が…ギフト?そんな…でも、俺はただのバイク乗りで…。こんなとこ来ちまって…ええ?」
ユカレイは真摯に、だが優しい目で奥井を見つめた。
「ギフトの形や役割は見た通り、様々じゃ。あれだけ大きな災厄が起こったのじゃ、物や書物じゃなく、人がギフトとして送られてきてもおかしくはないじゃろう…。君がここに来たのも、何か大きな意味があるのかもしれん。我々もまだ全てを理解しているわけではないが、時間をかけて解き明かしていくことが必要かもしれんな。」
レオはその言葉に同意し、奥井に向けて頷いた。
「そうだぜ、奥井。ギフトの人って事はギフターってか?」レオが励ますように言った。
「ギフター…、俺が…。」
奥井は改めて異世界に来てしまった現実を突きつけられた。
元居た世界に戻る方法もわからず、魔物や化け物がいるこの世界で、奥井は余りにも覚悟が足りていなかった。彼にとってその事実は受け入れがたく、表情は強張る一方であった。
レオは察した、奥井が失意の中にある事を。そして一転して真剣に伝える。
「なぁ奥井、お前の居た世界の事、もっと教えてくれ。元の世界に帰れる方法なんかわかんないけど、生きていれば何か帰れるヒントもあるかもしれないぜ。俺もこう見えて冒険者だ。お前のその顔見て決めた。何か出来ることがあるなら手伝うからさ。」
「レオ…。なんでそんな優しいんや…?俺にできる事なんかないで…」
「俺もこの森で本当にピンチだった時、アーヴィンに助けられた。今はお前がピンチなんだろ?何かの縁だ。次は俺がお前を助けてやるよ!それに、できる事なんて今考えてもしょうがないと思うぜ。まぁ、その内きっと奥井が必要になる、俺はそんな気がするぜ!っていうか奥井…旅人だっけ、言いづらいしタビーって呼んでいいか?」
奥井は笑って励まされる事にこれほど救いを感じた事はなかった。
「タビー…?タビーね。微妙なあだ名やな。ま、なんでもええよ。ありがとう、レオ。」
レオとタビーはこの短い時間で何となく気が合うやつだな、とお互い思った。
アーヴィンはその光景を見ながら少し納得したように微笑み、口を開いた。
「さて、俺達はこの穢れについて、もっと調べる必要がある。特に…とりあえず名前を『黒風の穢れ』としよう。あれが現れた理由と、あいつの倒し方だ。」
ユカレイも頷き、話を続ける。
「そうじゃな。災厄が起きた時に発生する穢れは、通常なら魔物や自然物に蓄積し少しづつ変化が起こるもの。しかし、物体化した『黒風の穢れ』を放置すれば村にも大きな危険が及ぶ可能性がある。」
タビーは不安そうな表情で尋ねた。
「じゃあ、その『黒風の穢れ』ってやつ、どうすればいいんや?俺、なんもわからんし、役立てると思えんけど…。」
アーヴィンが真剣な表情で答える。
「まずは、俺達で情報を集める。そして、対策も。タビーは出来る範囲でいい、村の警備や備えを手伝ってくれるか。」
リセルも優しい表情で付け加えた。
「そうね、奥井さん。もうタビーさんの方がいいかしら…?改めて、あなたがここに来たのは偶然ではないかもしれないわ。今はできる事からゆっくりはじめましょう。」
タビーは深く息を吸い込んだ。
「わかった。俺にできることなら手伝うな。戦ったりできひんけど…」
レオが肩を叩きながら励ます。
「そうだ、その意気だ!大丈夫、なんとかなるさ!」
ユカレイが最後にまとめる。
「よし、皆、今はしっかり休息を取ろう。黒風の穢れが森を徘徊するだけなのか、何か目的があって動くのかもわからん。こちらもできるだけの態勢を取り、この危機を乗り越えよう。」
アーヴィン、レオ、そしてタビーはそれぞれの思いを胸に秘めながら、一夜の休息を迎える。
外はいつにも増して闇に包まれていたが、彼らの心は、あの黒風の穢れと対峙した時には無かった勇気の光が少しだけ差し込んでいた。
―――
そして夜は更に深まる。
村の周囲に立つ見張りは、警戒レベルが上がり、いつもよりさらに遠方まで陣を広げていた。その中の数人が何かを感じ取り、森の奥へと目を凝らした。
風が止まり、静寂が訪れる中、彼らは微かな異変を感じ始めていた。
うっすらとした黒い霧がゆっくりと村の方へと迫ってくる。
その中心には、穢れの集合体である『黒風の穢れ』の姿が浮かび上がっていた。
それは足取り重く、ゆっくりと一歩づつ歩いていた。
眠りについているアーヴィン達の誰もがその危険に気づいていないが、ユカレイの言う通り、迫り来る脅威は確実に近づいていたのだ―――
今回もお読みいただき、ありがとうございます!
ついに奥井旅人が、自分がギフトとして異世界に転移してきた事実を突きつけられましたね。
異世界での「ギフター」という立場を受け入れきれずに戸惑うタビー、
そして彼を励まし、支えようとするアーヴィンやレオの姿が描かれた回でした。
また、「黒風の穢れ」という脅威への対処。
タビーが聞いた「ハルレイン」の名は、かつての勇者と関係があるのか――?
そして、黒風の穢れは何を求めて動いているのか――?
次回、村に迫る黒風の穢れとの戦いが本格的に始まります。
アーヴィンたちはこの危機をどう乗り越えるのか……ぜひ、続きをお楽しみに!
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引き続き、アーヴィンたちの冒険を見守っていただければ嬉しいです。
では、また。




