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5.二話 マリアベルの入学①

 翌年、マリアベルが入学してきた。


 彼女は寮に入らず自宅通学を選んだ。両親から溺愛されている彼女にとっては当然のことだろう。


 マリアベルが選んだのは同じ普通科で、あっという間にアリシアの友人もマリアベルのそばに侍るようになった。


 そして当然のようにジョシュアとマリアベル、アリシアの三人で昼食を食べるようになる。 


 話題の中心はマリアベルで、アリシアは楽しそうに話す二人の間に入っていけない。笑顔を浮かべて聞いているだけだった。


 それでもアリシアはまだ満足していた。


 なぜなら、家でも学園でもマリアベルだけはアリシアを虐げなかったから。


 確かにマリアベルはアリシアの持ち物を「いいなあ」とは言ったが、取り上げたのはトマスであり、デボラであった。


 マリアベル本人ではないし、彼女だけがアリシアに暴力を振るわなかった。



 しかし、マリアベル入学から二か月が過ぎるころ、状況は変わっていく。


 午前の授業が終わると、同じクラスの友人リリーから声をかけられた。


「アリシア様、最近カフェテリアであまり殿下とお食事なさっていませんね」

「週に一度はご一緒していますが?」

 アリシアは、リリーの発言が何を意図しているのわからなかった。


「殿下はマリアベル様と毎日お食事を共にされていますよ」

 リリーが心配そうな表情をアリシアに向ける。


「え? それは……本当に?」

「まあ、私の言うことを疑うのですか? では今すぐカフェテリアに見に行ってみたらいかがです?」

 そう言ったリリーの顔には心配より、あざけりの色が濃くなっていた。


 彼女に馬鹿にされていたのだと、気づいた。

 きっとリリーを友人と思っていたのは自分だけ。


 それでも気持ちは焦り、アリシアはカフェテリアに足早に向かう。


 後ろから女生徒がクスクス笑う声が聞こえてきて、ぎょっとして足を止め振り返るとリリーを中心とした女子グループだった。


(私は侮られていた……)


 ふと涙が浮かびそうになったが、気の弱いアリシアは言い返すことも出来ず、カフェテリアに向かう。


 アリシアがカフェテリアに着くころ、ちょうどジョシュアとその学友と、マリアベルが席を立つところだった。


 マリアベルはいつの間にかジョシュアの友人たちとも仲良くなっていたようだ。


 アリシアはジョシュアに彼らを紹介されたことはない。


 肩で息をつき、カフェテリアについたアリシアにいち早く気付いたマリアベルが屈託ない笑いを浮かべ、手を振る。


「お義姉さま!」


 そのよく響く声で、カフェテリアにいる全員が振り向き、肩で息をするアリシアに注目した。


 アリシアは多くの生徒たちの視線に、思わず逃げ出しそうになる。


 ジョシュアはアリシアの姿を認めると彼女のもとへやって来た。


「残念だけど、私はこれから授業があるんだ。また今度一緒に食事をしよう」

「はい、その時はぜひ」

 縋るような気持ちで答えると、彼は頷いた。


 そして、友人たちを引き連れて去っていく、マリアベルまでその後に続くのを見て、アリシアは彼女を引き留めた。


「マリアベル、ちょっとお話があるの」


「何かしら? お姉さまからお話なんて珍しいわね」

 マリアベルは無邪気にほほ笑んだ。


 アリシアはマリアベルと共に、ひとけのない庭園にある四阿へ向かった。

 ベンチに腰掛けた途端、マリアベルが口を開いた。


「どうかしたの、お姉さま? お顔の色が悪いけれど」

 心配そうに尋ねてくる。


「あのね。マリアベル。お願いあるの。私がいないときは殿下と食事を共にしないで欲しいの」

 マリアベルはびっくりしている。


「え? あの、それはどうして? だって、殿下と二人で食べていたわけではないわ。今日はちゃんとご学友もいらっしゃったわよ? 私は常識知らずな真似をした覚えはないわ」

 まるで正論のように聞こえたし、『今日はご学友も』という言葉にもひっかかりを覚える。


「ではマリアベルは、いつから私抜きで殿下と一緒に食事をするようになったの?」

 アリシアの問いかけに、マリアベルは首を傾げた。


「えっと、いつだったかしら、私が一人で食堂へ行くと殿下がいらして……。そうね。時間があえばいつもご一緒しているわ。もちろん、二人きりの時はほとんどない」


「え? ほとんどないって。二人きりの時もあるの?」

「時にはね」

 悪びれない彼女が信じられなかった。


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