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1.プロローグ

「違う、私ではありません」

 アリシアは涙ながらに牢の冷たい鉄格子を両手でつかみ、この国の王太子ジョシュアに訴えた。


「お前はいつもそうだ。泣けば済むと思っている。そうやって人の同情を買って生きてきた。確かにお前の生い立ちには同情すべき点はある。だからと言って人を(あや)めていいことにはならない」


 すべて身に覚えのない事ばかりで、アリシアは必死に首を振る。


「どうして信じてくれないのですか?」

 アリシアの頬を涙がしたたり落ちた。


「マリアベルがそう証言している。現にお前がマリアベルに注いだ紅茶に毒が入っていたんだ。 幸い、マリアベルは一命をとりとめたが到底許せることではない。お前は極刑に処されることだろう」


「……マリアベルの証言だけで……」 

 アリシアの言葉にジョシュアは柳眉を逆立てる。


「そんな杜撰な調べ方はしていない。綿密な調査をした結果だ。王宮のメイドから職員まで何人も証人がいる。物的証拠も残っていた」


 ジョシュアのその言葉を受けて、隣に影のように控えていた側近のサミュエルがアリシアの罪状を読み上げる。


(私は……誰かにはめられたのね。もう何を言っても彼には伝わらないんだ)


 彼の怒りに燃える瞳を前にして、アリシアの心に深い絶望が広がる。

 その隣に立つサミュエルの憐憫と失望の入り混じった眼差し。

 

 そんな絶望の中にあっても、アリシアは元婚約者であるジョシュアを慕っていた。


(一度でもいいから、あなたから愛の言葉を聞きたかった。来世ではきっとあなたと結ばれますように……)


 その三日後、アリシアは断頭台の露と消えた。

ジョシュアに心を残しながら――。





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