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第6話 とあるおっさんと先輩後輩になった少女

 魔物を倒し、和夫を追いかける形で結菜が飛び去ってからしばらく。


「先輩、どうでしたか? 私、上手くやれていたでしょうか?」


 結菜が追いついたところで、和夫がそんな風に尋ねてきた。


「……おっさん、マニュアル全部覚えたの?」


 それに対して、結菜は別の質問を返す。


「一応、記憶力には少し自信があるんです」


 そう言って、和夫ははにかんだ。


(一万ページ近くあるマニュアルを、昨日の今日で覚えたっての……? そんだけでも十分とんでもないけど……それですぐに魔法が使えるかっていうと、絶対無理)


 マニュアルに、魔法陣の基本形は描かれている。

 だが、実際使用するに当たってはそれをそのまま描けば良いというものではない。


 魔法陣には状況に応じて変えなければならない種々のパラメータ部分が存在し、彼我の距離や威力の調整、風向きや気温等の様々な要因に合わせて細かい調整が必要となるのだ。

 それらの調整具合は、経験を積むことで学んでいくのが普通の流れ。


 また、そもそも《魔印》をコントロールすること自体感覚的な慣れが必要で、最初は思うように魔法陣を描けないのが普通である。


(魔法少女適性の高さ的に、あの魔法構築が可能なポテンシャルがあるってのはわかる……けど……)


 魔法少女適性とは結局のところ、パソコンでいうメモリのようなものだ。

 それが高い程一度に展開出来る《魔印》の量が増え、より大規模な魔法をより短期間で構築することが可能となる。


 が、当然ながらメモリを大量に積んでいることとそれをソフトウェア……つまり魔法を構築する本人が上手く扱えるかどうかは別問題である。


(ただ単に適性が高いだけじゃない。抜群の理解力、そんで何より魔法少女としてのセンスが図抜けてる……おっさんなのに)


 チラ、とミルクの方に視線を向ける。

 特段驚いた様子もなく、ふいよふいよと結菜たちに追従して飛んでいた。


(さてはその態度、アタシと引き合わせる前に魔法の出力テストまでやってたな……?)


 険のある目で睨むも、ミルクは涼しい顔でヒゲを風に揺らすのみである。


(これは、ただの色物ってわけじゃない……いや、それどころか)


 今、結菜はハッキリと自身の認識を改める必要性を感じていた。


(魔法少女の頂点を狙える逸材)


 胸の高鳴りが、全くなかったといえば嘘になる。


(アタシの後ろを……任せられるかもしれない存在)


 それを、小さく深呼吸することでどうにか表に出ないよう制御。


「確かに、マニュアル臭い陣だったね。あの階位の魔法にしたのは……アタシに対する答えだったんだよね? にしても、あの距離でレベルニが相手なら一六〇ステップから四〇〇ステップの威力補強と、二八〇〇ステップから三一四四ステップの照準補正は丸ごと抜いても十分だったよ。あと、五〇〇〇ステップ辺りはもうちょい効率化出来るから後で教えたげる」


 口にしたのは、新人に対するアドバイスではない。


 というか結菜でさえも最近になってようやく安定するようになってきた、魔法陣の構成そのもののアレンジに関するものだ。

 元々変更することが前提となっているパラメータ部分を弄るのとは異なり、ステップの省略や効率化等の根本的な部分の改変は魔法の発動自体を阻害する可能性を伴う最上級テクニックなのである。


「なるほど、勉強になります」


 それをわかっているのかいないのか、和夫は素直に頷くのみ。


(このおっさん……おっさんであることにさえ目を瞑れば、きっと私の最高のパートナーになり得る)


 結菜は今や、和夫を自分と対等な存在であると認めていた。


「……これからよろしく、おっさん」


 故に、和夫から視線を逸らしながらのぶっきらぼうな調子ではあったが、そう告げる。


「はい! よろしくお願いします、先輩!」


 チラリと横目で見た先では、和夫が大変にいい笑顔で頭を下げたところだった。


(けど……)


 もちろん、今も和夫は魔法少女のコスチュームのまま。

 その笑顔は割と脂ぎっている。


(おっさんであることに目ぇ瞑れるわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)


 内心で、そんな風に叫びながら。


 これからの日々で訪れるであろう葛藤を確信して、盛大に嘆息する結菜であった。

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