表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LEVELING FOR DEATH ―殺し、死に、蘇り、殺せ―  作者: 鹿紅 順
第一章後編 殺し屋たちの狂宴
84/108

第八十四話 殺し屋たちの狂宴 3

◇魔剣錬成【ま-けん-れんせい】

蝕業/極意


〝剣の蝕業〟の凝縮にして究極の顕現。

己の生き様を集約した一振りを錬成する。


何を屠り、何を食み、何を糧にしたのか。

結果は武器の種類に、また武器が宿す力に現れる。

ゆえにだろうか、嘘偽りない真の姿に

彼らは時に打ちひしがれるのだという。


魔剣錬成で生じた武器は、武器奥技系意能などを

十全に使用でき、その姿は極意の終了と共に消え去る。

   ◆◆◆◆◆




◆自由都市グアド・レアルム、旧区画、ヨア



「――あはは」「――うふふ」


 癪に障る笑い声だ。


 俺の周囲をくるくると乱舞する少女二人。

 息の合った――なんてものじゃない。

 いかに連携といっても、個の異なる人間である以上、そこに紙一枚分の隙も生じないというのはありえない。時間が経てば経つほど、動きに慣れて間隙を見出す可能性も高くなる。なのに――


 初めから一匹の(・・・・・・・)生き物だった(・・・・・・)――そう言われても頷いてしまうほど、少女たちの動きは接ぎ目(・・・)がなかった。

 その高度な連携に対し、当然のように俺は対応できない。

 一撃、二撃と防御が間に合ったところで、間断ない攻撃の連続の前には、いつか膝を屈することになる。


 ――だけど。


「……コイツ!」「針が通らない?」


 何度目かの攻撃が俺の体を直撃するが、少女たちの持つ鋭い針は薄い皮膚すら突き破ることができなかった。


「シッ――!」


 今度は俺が、その驚愕の隙に獣噛みの大剣をねじ込む。

 少女たちは両手に持つ針、計四本を交差させて剣を防ぐが、さすがに武器の重さが違う。ギシッ――軋む音が鳴る。針が衝撃に耐えかねて破壊される前に、彼女らは自ら後ろに跳んで力をいなすことを選んだ。


 傷を与えたわけでも、有利をもぎ取ったわけでもない攻防。

 だが――〝殺し屋〟が無名の探索者に押し返された、紛れもない一瞬。


「いける……!」

「へえ……」「見違えたわ」


 熱に浮かされたような声に冷たさが混じった。

 俺が手応えを感じたことが、少女たちの逆鱗に触れたようだ。


 放たれた矢のように勢いよく吶喊してくる双影。

 繰り出された二つの拳を、こちらも両の掌を前に突き出して受け止める。

 凄まじい衝撃、殺しきれなかった威力が俺を後退させ、ザリザリと靴底が地面を滑る。


「……ッ……」

「なんなの……」「……冗談でしょう」


 後ろの見えない壁に叩きつける算段だったらしい突進は、その道半ばで勢いを止められた。


「「昨日はあんなに弱かったのに‼」」


〝ありえない〟〝自分のより進値の低い奴が〟〝力で伍するなんて〟

 そう顔に書いてあるぜ。


「……ハッ、いつの話だよ」


 俺は得意満面に言ってやった。


「それはもう――三日前だ」




   ◆◆◆◆◆




◆数刻前――自由都市グアド・レアルム、探索者組合、ヨア



「ヨア君、ちょっと来てくれる?」


 作戦が始まるまでの、長くもないが短くもない空き時間。

 俺はギルドの誰もいない階段に腰かけ、これから装備の確認に時間を費やそうと思ったが、そこへユサーフィさんが現れた。


「どうしたんですか?」

「今から君の特訓を始めようと思って」


 特訓?


 パンッ


 それっていったい――と言葉にするより先に、ユサーフィさんは両の手を合わせて打ち鳴らした。











 鼻孔をくすぐる乾いた風。燃え殻のように白く力尽きた大地。

 空には雲も太陽も星も雲もなく、ただ無のような暗黒が世界に蓋をしていた。


 ――見たこともない空間に俺はいた。


「……っ⁉」

「大丈夫。私の魔法で飛んだの」


 少し離れた場所にユサーフィさんが立っているのを確認して落ち着きはしたものの、跳ねる心臓を完全に押さえつけることはできなかった。


 荒野でも砂漠でもない、何かが根本的に終わっている(・・・・・・)――そんな印象を抱かざるをえない場所。


「驚いたよね。でも、ここなら何があっても迷惑をかける心配はないから都合が良いの」


 ユサーフィさんはここに飛んできた時の距離そのまま、いつものように何事もないような雰囲気で説明を続けた。


「君はこれから捕縛作戦に参加する以上、〝殺し屋〟と直に相対して戦う可能性があることは、私が言うまでもなく覚悟していると思うけど、今の君の戦い方じゃ正直言うと勝ち目はない。勝ち目がないどころか、後に尾を引くことになる……今回のように周りの目がある中で戦うならね」


 俺は湧き上がる疑問を口に出すか迷ったが、まずは話を聞くべきだと思い沈黙を続ける。


「ヨア君の基本的な戦い方は、真正面から堂々とぶつかり合うのみ――この認識であってる?」


 頷く。ユサーフィさんの言うとおり俺には魔法のような飛び道具や意表を突く意能に乏しい。真っ向から斬り合い殴り合いを挑むしかない。


「けれど、他者にはない君だけの強みが二つある」


 ユサーフィさんは指を二本立てる。


「一つ目――意能【捧命】による蘇生。正直この意能さえあればいくらでも悪用……じゃない、格上すら倒せるような作戦を立てられるわ。何といっても死から復活できるんだから」

「……今、悪用って言いませんでした?」

「言ったけど取り消したよ?」


 取り消せば大丈夫という考え方はどうなんだろうか……。


「けれども」ユサーフィさんは指の一本を折り曲げる。「この力は衆目に触れさせるには刺激的過ぎる。探索者も、そうじゃない人にも。考えてごらん、皆が一度死んだら終わりのところを、君だけが何度でも続きから、それも進値減少でやり直せると知ったら?」

「……羨ましい、ってなるんじゃないですかね」

「おめでたいね。あるいは人が良いというか。私なら、そうだね――危険因子と見なして抹殺するか、封じ込めて永久に秘密にするか、体中を開いて(・・・・・・)調べ尽くす(・・・・・)か。どれも、人類のためだと平気で言いながらね。君にとって愉快なものが一つでもあるかな?」


 ブルブルと俺は首を振った。殺されるのも閉じ込められるのも掻っ捌かれるのも絶対に嫌だ。


「だから前に言ったように【捧命】のことは引き続き秘密にしてね。……二つ目」


 ユサーフィさんは残った一本の指を揺らす。


「君は進値の上昇を経ずに意能を獲得することができる。これもまた、刺激的」


 そう、レアルムに来てから身に着けた知識の一つ。

 魔法と意能は、進値が上昇したときだけでしか新しいものを習得することはないのだ。一部例外もあるらしいけれど。

 だけど、進値を上げることは、それだけ進値上限……人外に近づいていくということでもあるのだ。


 大多数の探索者は壁にぶつかったとき、それを打ち破る新たな力を手に入れるため仕方なく(・・・・)進値を上げざるをえない。


 だが――俺は、その原則すら無視して、今まで意能を習得してきた。


【獣創】、【自然回復強化】、【足蹴】。


 どちらも共通するのは、戦いの最中、脅威に対抗するために発生したこと。

 傷つき弱った状況を逆転できるように、傷という害から逃れられるように。

 それは誰もが望んでも手に入らない、【捧命】に匹敵するほどの祝福であると、ユサーフィさんは言った。


「――けれども、こっち(・・・)は誤魔化して隠し通す余地はある。自分の進値、魔法、意能を他人に教えなければいいし、探索者にとってはそうする事が当たり前だから不信がられることもない。疑念を抱いたところで、確認しようと思っても君の服を無理矢理引っぺがしたうえで、意能を習得する前後の進値を見ていないといけないしね」


 なるほど、と相槌を打つ。

 俺が自覚していない、俺の強み……きっとそれが今から行う事に関係してくるのだろう。


「君には二つ目の強み――経験によって意能を獲得する特訓をしてもらいます。勿論、ある程度、不自然に思われないぐらいに進値も上げてもらうけど」


 俺に否やはなかった。強くなれるならむしろ望むところだ。


「……でも、今からそんな時間があるんですか? もうあと少しで作戦が始まるんじゃ」

「ここは時間の流れも融通が利くのよ。今はとても遅くしている状態。といっても作戦までの猶予時間はあと三日間ぐらいだね。まあちょうどいいかな」


 俺が抱く疑問なんてとっくに解決済みらしい。

 それにしても時間を操るなんて、ユサーフィさんの力は想像もつかない。俺も進値が高くなれば時間を遅くする魔法を使えるようになったりするのだろうか。


「それじゃあ時間も無いからチャキチャキいこう」


 パチン、とユサーフィさんが指を鳴らす。


 すると、何もいなかった空間に巨大な鳥のような魔物が出現した。一対の翼に、二対の脚。嘴の内部には人間のような歯列が並ぶ四ツ目の怪鳥。


 唖然とする俺と同様に、魔物の方も何が起きたか理解していないようで、首をギョロギョロと動かし威嚇の声を上げていた。


 四つの目がユサーフィさんを捉える。

 魔物は当然のように襲いかかった。




「ヨア君――」


 ユサーフィさんは魔物の巨体を、


 片手一本で難なく受け止めると、


 ふぅ、と軽く吐息を吹きかける。


 それだけで魔物は奇声を上げながら全身をのたうち回らせ、地に伏した。


「――まずはこの魔物を一匹殺してみようか」




「…………」


 あまりにも、


 あまりにも多くの事が一瞬で起こって、同じ速さで終わったせいで脳の処理が追い付かない。


 鳥の魔物は、その羽の大部分が抜け落ち、露わになった皮膚には大小さまざまな黒い斑点が広がっていた。きっと羽で覆い隠されている箇所も蝕まれているんだろう。ときおりピクリと体を震わせるだけで、もはや動き出す力はないようだ。


「首は落とさなくていいから、ここの後ろのところに切れ目を入れる感じで。それなら大した力も要らないでしょう」

「……は、はい」


 場とは似つかわしくない優しい声に戸惑うも、俺は魔物の胴体を登って獣噛みの大剣を振りかざした。


「……ごめん……」

「? 何か言った、ヨア君?」

「……いえ」


 ――足元で大地が血を吸っていくのを見下ろしながら俺は自嘲した。


 おかしな話だ。今まで探索中に魔物を殺して謝ったことがあったか。

 なのに、俺は、なんで今さらになってごめんと言ったんだろう。


 けれど、その自問自答すらも頭の片隅に追いやられてしまう。

 魔物を殺したことで俺の進値が上がり、それに伴う言語化できない快感が肉体に流し込まれたからだ。


「どう? 今ので何進値になったかな」


 俺はふわふわする頭で服の胸元を覗き込み、「24です」と答えた。


「うん、だいたい狙ったところまで上がった。……短時間で急激に進値が上がったから頭がふらついているね。初めてだから仕方ないけど、これからは慣れるようにしておいてね」

「……え?」

「今からヨア君は私と戦って――何回も(・・・)死ぬんだから(・・・・・・)


 ユサーフィさんは言う。


「死ぬ度に君は【捧命】の力で蘇る。殺して、死んで、甦って、また殺して――数え切れない繰り返しの過程の中で意能を身に着けていくの」



 ――世間じゃよく言うでしょう?


 ――死ぬほどの経験(・・・・・・・)が人を大きく成長させるって。


 俺は、これから何度も死んで蘇り、減った進値はさっきのように魔物を殺してまた上げる。


「ゆっ、ユサ――」

「まずは君が戦った〝殺し屋〟の武器への耐性を付けようか。【貫通耐性】と【刺突耐性】がいいかな……」


 ニッコリ笑うその人の右手には既に鋭利な刺剣が。


「君は王たちの人外を倒すんだから、〝殺し屋〟ごとき、片手間で下せるぐらいに強くならないとね。特訓も、死ぬ気(・・・)で受けてもらうよ」


 言い終えるや否や。


 その姿はもう俺の懐へと踏み込んで、


「――――⁉」

「少なくとも――私に両手を使わせるぐらいには、頑張ってね」


 一瞬の後に俺の眼球を突き破り脳を貫く必死の一撃を皮切りにして、俺の特訓は開始したのだった。




   ◆◆◆◆◆




◆自由都市グアド・レアルム、旧区画、ヨア



 壮絶過ぎて所々記憶がぼやけているものの。

 ユサーフィさん直々の特訓は俺の実力を短期間で爆発的に底上げした。


 進値を上げるだけならまだしも、多様な意能の習得。

 まさしく俺の強み……俺だけにしかできない特訓と言えた。

 この三日間死にまくったおかげで、俺は以前とは考えられないほどの意能を習得した。


【身体超強化】、【捧命】、【咆哮】、【獣創】、【自然回復超強化】、【足蹴】、【麻痺耐性】、【毒耐性】、【刺突完全耐性】、【貫通完全耐性】、【斬撃耐性】、【打撃耐性】、【精神操作耐性】、【呪詛耐性】、【即死耐性】、【怪力】、【闘気】、【神経反応強化】――


 あらゆる攻撃に対する耐性の獲得に始まり、俺自身の攻撃能力を向上させる意能もいくつか習得できた。

 進値も、最終的に26にまで上昇している。

 特にメアリーサリーの得物である針に対しては【貫通完全耐性】として強力な守りを得た。ユサーフィさんが言うには、もはや意能の乗らないただの攻撃で貫通する傷を負うことはないとのこと。


 これが俺の与えられた力の全て。


 ――たとえ自力で手に入れた力じゃないとしても、今この戦いだけは……!


「ヂィッ!」


 メアリーサリーは俺に捕まれた拳を強引に振り解く。

 後退しながら無数の針を投擲し、それは四方八方から俺に襲い来る。

 だが、それはもう効きやしない。俺の防具に、体に触れる傍から弾かれていった。

 怒りを充溢させて少女たちが叫ぶ。


「ムカつく……!」「ゴミはゴミらしく」「退場してればいいのに!」「この私たちが」「本気で戦わないといけないなんて!」


「「――【殺生王礼賛】‼」」

◇選ばすの槍【えらばず-の-やり】

蝕業/極意/〝剣の蝕業〟


たった一つ、選んだものを貫かない槍を生み出す極意。

〝剣の蝕業〟の究極、魔剣錬成、その具現の一つ。


その他の点においては普通の槍だが、

選択した物体の強度に関わらず、

存在しないかの如くすり抜けて、向こう側を刺し貫く。


ギル・ラーゴットの過去の象徴であり、

罪が形を成した存在として、長らく忌避されてきた。

だが過去を受け止め、向き合う覚悟を得た彼にとって、

この極意は、仲間を守る確かな力となることだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ