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LEVELING FOR DEATH ―殺し、死に、蘇り、殺せ―  作者: 鹿紅 順
第一章後編 殺し屋たちの狂宴
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第八十二話 殺し屋たちの狂宴 1

◇少女擬態【しょうじょ-ぎたい】

意能/行動強化系


己の容姿と声音を少女のものに変化させる意能。

効果はあくまで視覚のみであり、肉体的な変化は伴わない。


擬態する少女の姿は無作為につき、選ぶことは出来ない。


ただ、なりたかった姿を模倣するだけの、無害な力。

誰も傷つけない、ささやかな願望。


それすらも、意能に頼ることでしか叶えられなかったのだ。

   ***




◆自由都市グアド・レアルム、地下水路・貯水槽、バビ・ビオラント



「――クソがッ、やられた……!」


 パリオとかいうオッサンが膝をついて地面を殴っとる。

 今のアンタの獣化した力で小突いたら貯水槽にヒビが入るからやめた方がええで、と言いたいとこやけど、そういう空気ちゃうみたいやな。


「いや~最初〝殺し屋〟って聞いてビビったけど、案外戦えるもんやな。ホホルんはどうやった?」

「……強い、が……」


 ホホルんは〝殺し屋〟の実力を認めつつ、喉に刺さった小骨みたいに何かが気になっとるようや。


「戦いながら、なぜかもどかしさを感じた」

「ふうん、そう? ウチは別に普段どおりやったけど」

「私たちのことじゃない」

「……つまり、敵さんのほうが煩悶しとったと? なんで? まあ三人相手にしたら、やりにくくてイラつくのは分かるけど」

「怒りというよりは自虐に近い……本気ではあっても全力ではない(・・・・・・)とでも言えばいいのか……すまない、私にも正確に言葉にするのは難しい」


 スゴいな。そんな難しいこと考えながら戦っとったんか。尊敬するで……。




 地下水路の貯水槽に突入したウチらは前衛をパリオ、中衛をホホル、後衛をウチの陣形で交戦した。

 とか言うと上手に役割分担したように聞こえるけど、自分らの得意な位置がたまたまバラけただけや。でもお陰で連携に支障はなかった。


 けど、戦いの主導権は相手に握られとったと評価せざるをえんかった。


 さすがは〝殺し屋〟、人間のいなし方をよう知っとる。それに一人で複数を相手取る戦いに明らかに慣れとったわ。

 上位の探索者三人がかりで仕留めきれんっちゅうのは敵ながら大したもんやで。


 とはいえ、あの気持ち悪い人形は終始防戦一方やったし、こっちは削りに削ったから、もう少し時間があれば地面に転がすことができたはずなんやけどなあ。

 転移はさせやんように気を付けとったけど、まさか武器を打ち合わせたときの火花で火点けるとは思わんやん。




「撤収、撤収や! ここにおっても何にもならへん。早う皆と合流するで~。ほら、オッサンもいつまでも悔しがってないで帰るで。また戦う機会あるかもしれんやん、多分」

「くっ……」


 オッサンもようやく立ち上がってくれたわ。聞けば仇討ちのためらしいけど、そんなに〝殺し屋〟と戦いたいとか覚悟キまり過ぎやで。頼むから言うこと聞いてえな。ホホルんにその気がないからウチが手綱を握らなあかんのやから。


 まあええわ、とりあえず地上に戻って、それからどうするか考えよ。もしかしたら決着ついとるかもしれんし。その場合オッサンがまたうるさいけど、誰かに押し付けたらええやろ。


 よし!



「…………んで、これどうやって上に帰るん?」



「……」「……」


 ああ、その反応で察したわ。


 帰りの方法をまったく考慮してないフェルムには後で説教や!




   ◆◆◆◆◆




◆自由都市グアド・レアルム、旧区画、ヨア



「みんな……!」


 突如として出現した大きな樹のような魔物。

 一緒にギルの周りを取り囲んでいた人たちは、その魔物から一定の距離以内に近づけず立ち往生している。

 そこに見えない壁があるかのように。


「うふふ」「あはは」


 離れた位置で〝殺し屋〟――メアリーサリーが笑う。その傍らには〝頭陀人形〟もいる。


「ヨア!」ギルとグランドリオが滑り込むような勢いで合流する。「ヤバいことになりまくった。ここから出れねえ」

「キャリカが地下から打ち上げられてきて気を失ってるし、三人目の〝殺し屋〟も樹の頂上にいやがる」


 グランドリオの視線を追うと、枝に引っかかるようにキャリカさんが。

 しかもレアルムで暴れている〝殺し屋〟が全員ここにいる。

 加勢は――望めない。


「……ッ!」


 ――死。


 頭に浮かんだその言葉を、歯を喰いしばって無理矢理追い払う。


 諦めるな。考えろ。考えろ。

 死を頭から追い出せ。生きて帰ることだけ考えるんだ。


〝殺し屋〟を見据える。

 メアリーサリーの二人組は今にも飛びかかってきそうな前傾姿勢だが、〝頭陀人形〟の方は現れたときのまま動き出す気配がない。


「…………」

「「モーサンパッション?」」

「……ああ、問題ない。大丈夫だ」

「不思議ね」「大丈夫と言ってるのに」「全然そうは感じない(・・・・)


 ギル曰く、〝頭陀人形〟は体を上下に裂かれようと即座に回復してみせた能力があるらしいが、


「……不死身に見えても、攻撃はしっかり効いているってことか」


 活路を見出すならそこだ。相手は既に一人が消耗している。

 いかに早く〝頭陀人形〟を片付け、メアリーサリーを倒せるか。


「――クク、お前が考えていることは分かるぞ、ヨア」


〝頭陀人形〟が体を震わせる。笑っているつもりなんだろう。


「……気安く俺の名前を呼ぶな」

「まあそう言うな。知らない仲でもないだろう」


 昨夜の地下水路での事を言っているのか? なんにしろ、お前と知り合いになるのはご免だな。


「話に乗るなヨア。コイツらに休ませる隙は与えねえ、さっさと叩くぞ」

「つれないな、ギル」異形の〝殺し屋〟はギルにも言葉をかける。「あの日以来、初めて人を殺したときにも感じなかった昂奮が今、この終わりかけの肉体を駆け巡っている。言祝(ことほ)いでくれ、俺の大願が成就する今この時を!」

「それが遺言でいいのか? つまらねえ奴だ、な!」


 背面から大量の髪を展開した〝頭陀人形〟にギルが吶喊する。


「ヨア、そっちは任せた!」

「心配しなくても」「貴方たちの邪魔はしないわ」「モーサンパッションを」「怒らせたくないしね」


 向こうからもメアリーサリーが飛び出す。

 ギルと彼女たちは中間地点で交錯し――刃を交えることなく互いにそのまま駆け抜けた。

 ギルは〝頭陀人形〟と、メアリーサリーは俺たちと。


 ――いや、


「グランドリオ、行け!」

「……!」

「キャリカさんと、上のもう一人を!」


 俺は背負った獣噛みの大剣を引き抜きながら叫ぶ。

 可能ならグランドリオと二人でこの少女たちを相手取りたいところだが、キャリカさんは気を失っていて、最後の〝殺し屋〟は健在な以上、放置はできない。


「……バカが、死ぬなよ」

「一言多いんだよ」


 グランドリオが走るのを足音だけで確認しながら、俺は前方へ視線を固定。

 得物の針を引き抜いた少女たちが迫る。


「さあ――」「一緒に」「楽しく」「命尽きるまで」

「「踊りましょう!」」

「二人だけで勝手にやってろ!」




   ◆◆◆◆◆




◆自由都市グアド・レアルム、探索者組合・会議室、メル・ドリー



 ギルドは蜂の巣を突いたような喧騒に包まれた。


 途中まで作戦は想定どおり進んでいたんだ。

 でも、ギルさんたちと〝殺し屋〟が一カ所に集結したうえ、結界のようなもので閉じ込められる予想外の展開になった。


 標的が同じ檻の中にいる……〝殺し屋〟にとってはまさに格好の状況。

【遠見の水鏡】には、ギルさんとヨア君が戦い始めて、その外側でなんとか結界を破ろうと試みる人たちの姿が映し出されている。


「誰か空間干渉系の力が使える奴を送れ! 早くしないと手遅れになるぞ!」


 ギルドの職員が叫んでいる。その横で別の職員が片耳に手を当てて険しい顔をしている。多分【念話】のような意能で協力を呼びかけているのか。他にも何人もこの部屋を飛び出していってる。


「――オイ、ゴラァ! 放せテメエ!」


 一番怒号を上げているのはオーガスタス団長だ。


「グランドリオが死ぬかもしれねえんだぞ! 分かってんのかユルトォ!」


 真っ先に飛び出そうとした団長を抑え込んでいるのはユルト副団長だった。


「ん、落ち着いてオーガスタス兄」


 事もなげに後ろから羽交い絞めにしているけど、あそこは今、莫大な力がせめぎあっている。

 オーガスタス団長はレアルムにいる探索者の中でも上から数えた方が早い実力者。その進値の高さに裏打ちされた身体能力は、僕らなんかとは隔絶している。


 それをたった一人で抑え込むユルト副団長の力もまた。


「行きたい気持ちは分かるけど、オーガスタス兄が結界を破ろうと思ったら力業しかないでしょ、ん? それだと皆巻き添え喰らっちゃうよ。代わりにガヴリンが向かったから、ね?」

「アイツだって結界何とかできる能力無えだろうが!」

「ん、居ないよりましでしょ。あとあんまりペラペラ何が出来る出来ないを言わないでね」


 今、少なくともオーガスタス団長とガヴリン副団長に空間干渉できる能力は持ってないことがバレました。

 探索者の経歴の長さに比例して手の内は知られているとしても、確かに自分から言うことでは……じゃなくて!


「どうしよう、どうしよう、どうしよう……!」


 このままだと皆が――グランドリオ君が、キャリカさんが、ヨア君が、ギルさんが。

 僕にできることはないのか。何かここから力になれるようなことは――


「大丈夫よ」


 強張る僕の肩に手が優しく置かれる。


「ユサーフィさん……」


『終の黄昏』副団長その人は、作戦が始まる前と一切変わらない表情で泰然と水鏡を覗き込んでいた。

 その静けさが理解できなくて、


「……ユサーフィさんは心配じゃないんですか?」


 僕はそう言わずにはいられなかった。

 純粋な疑問か、あるいは冷たさへの糾弾か。

 質問した僕でさえ、どちらの意図のつもりだったか分からない。


 でも、それすらも理解したように、ユサーフィさんは微笑をたたえたままだった。


「あそこにはヨア君がいるからね」


 ――それが僕の問いに対する答えだと気づいたのは少し遅れてからだった。


「彼がこれから為すことに比べれば、これ(・・)は前座のようなものだよ」


 僕にだけ聞かせる囁きの内容は、一人だけで抱え込むにはあまりにも衝撃的過ぎた。

 あの結界の中にヨア君がいるという事実を、この人は違う意味で捉えている。いや、考えている。


「だから――あれくらい喰らい尽くして、早く強くなってもらわないとね」


 最後の一言は、確実に僕に向けたものじゃなかった。

 水鏡の中の向こう――たった一人で〝殺し屋〟の少女二人を相手に大立ち回りを演じる九等級探索者にかけられた期待だ。


 ――この人は。


 ――〝殺し屋〟を、ヨア君の成長の踏み台にしか見ていない。


「楽しいね」


 それは目の前の戦いがなのか、

 それとも先の未来の……。


 僕はもう何も言えず、この状況で無力な一人として、戦いを見守ることしかできなかった。

◇蝶々姉妹【ちょうちょう-しまい】

人物/現代/探索者


姉妹二人だけの徒党を組む五等級探索者。

しかし、四等級も間近と評される実力を有する。


姉のフレズヴィナは蝶のごとく舞う剣技を、

妹のフレンティナは蝶のように誘う幻覚を

それぞれ駆使し、翻弄と幻惑の中に敵を沈める。


なにゆえか、彼女たちは蝶に愛された。

蝶にまつわる魔法に、意能に、祝福された。

やがては鮮やかな布を被り、自らもまたそれを愛した。


彼女たちは蝶になったのだ。

その儚き生までも。

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