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LEVELING FOR DEATH ―殺し、死に、蘇り、殺せ―  作者: 鹿紅 順
第一章後編 殺し屋たちの狂宴
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第八十話 半分成功、半分失敗

臭い払い薬【におい-ばらい-やく】

道具/消耗品/魔効液


強力な消臭効果を持つ魔効液。

どれだけ掃除しても取れない臭いに、

専門業者が用いる道具として有名。


また、人の臭いに敏感な魔物に対し、

痕跡を消すため探索者が携えることもある。


作成は容易く、また服用するものではないため、

この魔効液は初心者が練習によく作らされる。

   ***




◆自由都市グアド・レアルム、旧区画、ギル・ラーゴット



「…………」


 今思い返してもあの台詞は酷かったな……絶対ワザとだろ。


〝――あ、言い方が悪かったね。攻撃を喰らって死んだように見せかけてってこと〟


 まあ要するに、あえて攻撃を受けたように見せて、〝殺し屋〟の油断を誘えと。獲物を狩った瞬間が一番油断しているやら何とやらだ。

 ただ問題なのは、どこからどんな攻撃が飛んでくるか。

 目に見えにくい細い髪の毛、少女二人の連携攻撃……考えるべき可能性が多すぎる。


〝――そういうときはね、相手の手段を搾ってしまうの〟


 俺がユサーフィ副団長から受けた指示は〝旧区画の広場のど真ん中に居ろ〟だ。

 一切何の遮蔽物も無い場所で、棒のように立っていろと。いや実際は座っていたけどよ。


 あまりにも無防備が過ぎる、俺の命を何だと……と思いきや、これは意外と理に適っていた。

 俺の姿が丸見えってことは、向かってくる〝殺し屋〟も俺からは丸見えだ。加えて、俺を囲むように『鉄血一座』、『紅蓮の戦旗』の加勢が潜んでいる。

 伏兵に気づかずにのこのこ現れるバカなら話は簡単だったが――おそらくは人形野郎に音で気づかれているだろう。何十人もの息遣いや衣擦れを完全に無音にすることは不可能だ。だが〝殺し屋〟も迂闊に飛び込めば袋叩き似合う。


 だから連中はもう一度アレ(・・)を使うだろう――ホーエンを焼き殺したっていう光の柱を。


〝――私は一度しか見てないけど、アレは自分自身に空から光を落としていた〟


〝――だから自分諸共巻き込ませるか〟


〝――標的の真下(・・・・・)で発動すると思うよ〟


〝――真下なら、ちょうどおあつらえ向きの場所があるよね〟


 つまり光の柱を使わせるために、この配置にする必要があったわけだ。

 そして特殊な攻撃方法であるがゆえに〝殺し屋〟の位置も俺の真下の地下水路とおのずと判明する。


 となると大事なのは、その光の柱を防御する手段と、光の柱を使って油断している〝殺し屋〟を攻撃する役目だが……。

 防御手段の目途はついていた。じゃなきゃ俺が焼け死んで終わりだからな、この作戦。


〝――で、できるよね、グランドリオ君〟


 メル君にそう問われたグランドリオは苦虫を噛み潰したみてえに頷いていたな。

 ユサーフィ副団長が言うに、〝殺し屋〟は【断絶時宮】ってぇ魔法を記憶した巻物を使って光の柱を防いでいたらしい。……なんでアンタ一回見ただけで分かるんだか……。


 それじゃあ同じ魔法を使える探索者を俺の傍に隠しておけばいいよな……ってそんな都合良く……居たんだなこれが。

 当のグランドリオは秘密にしていた切り札がバレたことにいたく不満を漏らしてたが。


〝――さて、残る〝殺し屋〟への攻撃役は、キャリカちゃん、君にお願いしようと思うの〟


 この案にはさすがにキャリカも及び腰だった。

 それ以上にグランドリオが猛反対した。


 コイツに相手させるには危険すぎる――虫も殺せない奴を〝殺し屋〟にぶつけるのか――この超弩級バカには無理だ――とか何とか捲し立て、最後はボロクソに言われたキャリカが掴みかかるところまでいったが、ユサーフィ副団長の答えは変わらない。


〝――キャリカちゃんの役目は攻撃直後の隙を突くこと〟


〝――だから、攻撃が始まってから地下水路に突入していたんじゃ遅いの。〝殺し屋〟の探知に引っかからず事前に近くに潜伏する必要がある〟


〝――それが可能なのは今のところ、君の【霧化】だけ……髪を揺らさないほど小さな粒に変じて移動できる貴方だけなの〟


 もちろんそのまま行かせることはしない、とユサーフィ副団長がどこからか取り出したのは一振りの剣だった。

 片刃の拵え、峰に沿うように硝子の管が引っ付いている。中には紫色の雷が管の両端を行き交うように絶え間なく弾けていた。


〝――これ、魅雷の剣(みかづちのけん)っていうんだけど、これで斬った相手は痺れて丸一日動けなくなるの。これでちょっと斬るだけでいいから。あ、刺しちゃダメだよ? 接触時間が長いと心臓まで止まっちゃうから〟


 そんなおっかないものを……、とキャリカの表情が雄弁に物語っていた。


〝――ちなみにこれ〝遺産〟の武器だから。バレたら遺産封印監視機構が飛んでくるから、取り扱いには注意してね〟


 そんなおっかないものを……、とその場の全員が思った。


 ともかく、追撃が来ないっつーことは、キャリカは上手くやったらしい。

〝頭陀人形〟と〝双星〟のほうもウチの大隊長たちが手ずから相手をする。簡単に下せるとは思わねえが、負ける可能性は微塵も想像できなかった。


 ――これで終わりなのか、本当に?


 一息ぐらい吐けるかと思ったが、胸のざわめきが収まる気配はねえ。


 その不安を裏付けるように、俺たちが立っている地面が揺れ始める。


「……! 地震か?」

「――違う、離れろ!」


 俺はグランドリオを抱え込むようにその場を飛び退く。


 ――直後、巨大な何かが大量の土砂を巻き上げながら地中から出てきやがった。


「何だ……?」


 それは、大きく距離を取ってもまだ見上げるほどデカい木だった。

 節くれだった幹から左右に伸びた枝に葉は一枚もない。どころか内側へ折り曲げるように気味悪く動いている。乾いた音を立て亀裂とともに剥がれた表皮がぼろぼろと零れ落ちた。

 ありゃあまるで――


「虫……?」


 俺が言いたかった言葉をグランドリオが呟く。

 確かに虫だ――よりにもよって大量の足で地面を這い回る百足に似てやがる。


 だが、見た目の質感は完全に木だ。年月を重ねてなお存在感のある大樹というより、今にも枯れて倒れそうな古木の印象を覚えた。

 極めつけは幹の先端のデカい花。花びらが筒みたいに丸まってる。開いたらどうなるか想像したくもねえ。


「毛色が変わってきたな……こいつぁさすがに応援が来るだろう」


 明らかに尋常の生物じゃねえ、魔物だ。レアルムに侵入を許すなんざ、十年前の……マルクを仲間に殺させちまった事件の切っ掛け――〝皇帝〟の引き連れた軍勢以来だろう。


 なぜか百足は足をゆっくり蠢かせるだけだったが、もし暴れだしたらここら一帯の破壊は免れない。一刻も早く討伐すべく探索者が駆け付けるだろう。


「俺たちも後退するぞ。味方の攻撃に巻き込まれねえようにな」

「テメエに言われなくても――」


 跳躍しようと地面を踏みしめたグランドリオの足が止まった。


「――キャリカ⁉」


 驚愕に見開かれた瞳の視線を辿ると……百足の木の中腹あたり、枝の一本へ、風に飛ばされて引っかかったボロ切れみてえにキャリカがぶら下がっている。

 全身は土に塗れ、ピクリとも動かねえ。生きてるのか……死んでるのか、項垂れて顔が俯いてるから息があるのかは分からねえ。


「――あうううぅ……‼」

「今度は何だよ……⁉」


 声がする。上からだ。


 頂上の花びらを掻き分けて女のガキが顔を出す。しかも首輪と鎖付きときた。こっちはユサーフィ副団長とグラトナ大隊長が遭遇したっていう〝殺し屋〟か!


「戻れツェラ! ああもう、なんで言う事を聞かねえ……!」


 花びらの中から鎖が引っ張られるが、女のガキは意に介さずこっちを睨みつけている。今の声が片割れの方か。報告にあったとおり男か女かも分からねえ声だ。


 ――現状、半分成功、半分失敗ってわけか。


 光の柱を使った〝殺し屋〟は狙いどおり俺の真下の地下水路に居た。

 そして奇襲したが失敗。

 だが結果的に今こうして地上に引きずり出すことはできた。


「下がるのは撤回だ」俺は槍を振り回し感触を確かめる。「嬢ちゃんを助けるぞ」

「……俺が助けるから下がってろ。テメエが死んだらここまでの意味がなくなるだろ」

「分かってる。――けど言ったろ。命を懸けて、生きて帰るってな」


 愛槍、問題なし。

 意能、全開放。

 極意(・・)、起動。


「もう誰も、俺の目の前で死なせねえ」


 目の前のマルク(アイツ)から逃げ出した罪。

 償えないのだとしても、せめて、同じ罪を重ねない。

 それだけが俺の贖罪だ。




   ***




◆自由都市グアド・レアルム



『終の黄昏』魔法部隊、大隊長フェルム・ギャリンジャー。


 彼女の習得している魔法、意能を組み合わせて生み出した地面掘削の魔法。

 三つ同時に放たれたそれは、狙いすました地点へ狙いどおりに、一直線の道を掘り抜いた。


 一つには大隊長のバビとホホル、ギルド捜査課長のパリオが突入。


 同じく大隊長のグラトナ、ナギオン、イライザが突入した別の貯水槽は、しかし空振りに終わった。




 残るは最後の一つ。




 ――地下直通の狭い穴を、紫電が駆け抜ける。


 長大な距離を瞬く間に零にした彼女――『終の黄昏』副団長、エルマキナ・ウォーハートは衝突と言っていい勢いで床に着地する。

 衝撃で散った雷が周囲を明るく染め上げた。

 それこそがエルマキナの攻撃の一つ。纏っていた雷を周囲へと拡散することにより軽度の火傷・感電を相手に与える。


「…………」


 真紅の外套からバチバチと音を立て雷の残滓を吐き出しながら、エルマキナはゆっくりと立ち上がった。

 静かに周囲を睥睨する動作に合わせ、薄紅の髪が左右に揺れる。


 着地時の放電の反応から、周囲に敵が存在しないことは分かっている。

 しかし、油断はできない――エルマキナは軽く右手を開いた。掌中に赤色の雷撃が弾け、赤雷は剣の形をとる。


 愛用する〝神器〟剥離剣は、やはり威力が強大過ぎて使用できない。最悪、この貯水槽から地上までが崩落する危険すらある。

 今、エルマキナに随伴者がいないのも、彼女の戦闘能力が高すぎるゆえである。手加減しなければ仲間を傷つける恐れがあり、手加減して下せると思うほど〝殺し屋〟を甘く見てはいない。


 歩くたびにカチャリ、カチャリと鎧が音を立てる。たまに赤雷の剣の切っ先が地面に擦れ、火花と焼け焦げた軌跡を生んでいく。


「――――」


 だが、その歩みも止まる。

 エルマキナの視線の先、人影が二つ、冷たい地面に横たわっていた。


 今一度、周囲に極微弱な雷を放射し、反応が無いことを確認してから、彼女は剣を消して横臥するソレの傍に膝をつく。

 息は無い。既に死んでいる。下着だけの姿に剥かれた少女二人。どちらも頭部を鋭利な凶器で貫かれていた。女性の柔らかな脂肪の下には鍛えられた筋肉がある。女性が体を酷使するような職業など探索者以外考えにくい。

 不思議なことに衣服は剥ぎ取られているが、財布は近くに捨てられていた。中身は重たいままだ。


 エルマキナは違和感を覚え、死体と、散乱する遺留品を丹念に確認する。

 そうして調べ尽くし、


 ――ない。


「探索者証が、ない」


 探索者の身分証明ともいえる金属片。

 嵩張るものではなく、大抵は首に提げておくものだが……。


「――!」


 エルマキナはハッと何かに気づくと、再び紫電を纏い、来た道――直上の穴目がけて跳躍した。




 だが、彼女が地上に辿り着く頃には、とうに手遅れになっていた。

◇魅雷の剣【み-かづち-の-けん】

武器/〝遺産〟


斬りつけて相手を痺れさせ動けなくする剣。

遺産階級:制限(※収蔵後、強奪)


その形状から誤解されがちだが、

これは電撃により麻痺させるのではなく、

「停止」という命令を肉体に書き込むのだ。


古来より、脳から流れる微弱な雷によって

生物の肉体が動くことは、なぜか知られていた。

その仕組みを逆手に取ったこの〝遺産〟は、

ゆえに生物にのみ覿面(てきめん)に効果を発揮する。

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