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LEVELING FOR DEATH ―殺し、死に、蘇り、殺せ―  作者: 鹿紅 順
第一章後編 殺し屋たちの狂宴
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第六十八話 記憶は甦る

◇重い雨の都【おも-い-あめ-の-みやこ】

地名/外域/遺跡


重い雨と雷の作用によって、かつての姿を残した都。

古代王国時代の人の営み、その文化を窺い知る遺構。


金属が多量に溶け込んだ雨が遺跡を濡らし、

そこに雷が落ちることで金属の薄膜が形成され、

被覆により当時の構造が保存されることとなった。


風化により元の建物はとうに朽ち果てたが、

代わりに形を得た重い雨が、その姿を繋いでいる。

   ***




◆自由都市グアド・レアルム、???、ギル・ラーゴット



 衝撃と、遅れたやってきた痛みが、俺を眠りから引き上げる。


「起きろ」


 生憎と寝起きの悪さには定評がありまくってね……と軽口を叩きそうになるが、今はそういう安穏とした場面じゃねえと俺の勘が伝えてきやがる。


 目覚めは最悪と言っていい。暗くてジメジメして陰気臭い場所に転がされている。

 ひたすらにただっぴろい空間。等間隔で立つ石柱は上に伸びて、天井は闇に包まれて見えねえ。奥の方も、どこまで広がっているのか見当もつかない。確かなのは声がよく響くことだけだ。


 これなら場末の連れ込み宿の硬い寝台の方が遥かにマシだ。まあそれ以前に手と足が錠で拘束されている時点でクソなんだが。力を込めても引き千切れそうもない。人並みを外れた探索者のために作られた特注品だろう。


 現状を認識できる程度に頭が回り始めた途端、気を失う直前の記憶が蘇りまくってくる。


 串刺しにされたギルドの女。

 首を捩じり折られたレイモン。


 その次がいよいよ俺ってわけか。


「殺してえなら殺せよ」


 どこの誰だか知らねえが、わざわざ人気のないところに俺を拉致ったのもそのためだろう。


 俺は潔く体の力を抜いて、寝起きの第一声で殺すことを促した。

 いざそうなって、俺の心の中に生を求めて燻る感情は何もなかった。

 驚くことじゃねえ。多分どこかでずっと待ち望んでいたことだから。

 ただ来るべき時が来やがったと、まるで昔馴染みのダチを見つけたかのように死を迎えたかった。


「〝殺し屋〟に殺されるのも、それ以外の誰かに殺されるのも、結果は同じだ」


 ……だが、しばらく待ってみても、人の気配はあるが何もしてくる様子がねえ。


「――何か勘違いしているようだが」ようやく聞こえてきたのは若くねえ、おっさんの声だった。「俺の目的はお前を餌に〝殺し屋〟を(おび)き出すことだ。お前の生き死になんざどうでもいい……とはいえ、今死んでもらっては困る」

「……なるほど。俺の命がどうでもいいって点で、俺とアンタは意気投合してるってことだな。今度一緒に飲みに行くか?」

「残念だが祝杯は復讐を終えてからと決めている。それに……お前に今度(・・)があるとも思えないな」


 ここでようやく首を回し、俺は俺を誘拐した奴の顔を見た。

 そいつはギルドの職員の服を着て、顎ひげを蓄えた中年の男だった。なるほどな、どおりで探索者用の拘束具を用意できるわけだ。


 そして多分、元探索者、なんだろう。

 目の据わり方、纏う雰囲気、虚仮脅(こけおど)しじゃねえ威圧が、男がこちら側(・・・・)だと否応なしに伝えてくる。


 俺が知らねえってことは、普段受付で探索者の相手をしてる斡旋業務の職員じゃねえな。だが数字や書類と睨めっこしてる感じでもない。

 そういや他の都市はどうか知らねえが、レアルムじゃギルドが犯罪の取り締まりを担ってるから、そういう部署で働いてるんだろう。


「ギルドが〝殺し屋〟と全面的に争う気になったのは意外だな。俺は探索者の(ケツ)は探索者に拭かせるもんかと」

「ギルドは関係ない。俺はパリオ・ルッシウス。これはただの私怨だ。俺の復讐だ」

「……ハ、俺の予想を飛び越えてったな! パリオさんよぉ、アンタ私的な復讐とやらで俺を拉致ってきまっくたのか。ご苦労様だな、いったい誰の復讐だ?」

「ヒュリメラルダ・シス、と言ってもお前は分からないだろう。――今日、お前の目の前で、頭を串刺しにされて、無関係の復讐の巻き添えになって死んだ、何の罪もないガキだ」

「――――」


 ……そう、か。俺たちの合同警邏に送り込まれてきたあの女か。

 ヒュリメラルダ・シス……そんな名前だったのか。


 このパリオって男の言うとおりだ。

 ヒュリメラルダは殺される謂れなんてまったくなかった。

 たまたま最悪の時に、俺とレイモンと一緒にいたばかりに死んだ。

 初対面のヨアにいきなり意能を使いやがったことは不快だったが、死んで償うほどのことじゃなかった。


 パリオの手が俺の首を掴んで引き上げる。

 息苦しさは一瞬だった。寝っ転がってた俺は、今度は壁を背もたれにするように座らされる。パリオは屈んで俺の目より高い位置から見下ろしてくる。手は首を掴んだままだ。


「まずは、お前が〝殺し屋〟に狙われるようになった理由を話せ」

「……そんな事話して何が分かりまくるってんだよ」

「理由が分かれば動機が分かる。動機が分かったなら、どの〝誓約〟の〝殺し屋〟が犯人なのか目星がつくかもしれない。もし上手くいけば、連中の〝誓約〟の禁忌になる事項を突けるかもしれない。戦闘において大いに有利になる。……俺とヒュリメラルダは捜査を仕事にしていた。お前はただ洗いざらい話していればいい。脈絡がなかろうと理路整然としてなかろうとだ」

「……………………」


 さて……どうしたもんか。

 俺のしょうもねえ過去なんざ、今更に誰かに語ることに恥も何もないはずだ。


 ――だけど、唇が動かねえ。自分でも理由が分からねえ。


 何かを言おうとして、音に成り損なった掠れた息だけが唇を舐めていく。


「……なあ、素直に話してくれ。お願いだ(・・・・)頼むから(・・・・)


男が俯く。俺の首に添えた手が小刻みに震えてやがる。


「今も、この首に添えた手で、お前を(くび)り殺してやりたいのを……必死に我慢してるんだ」

「………………」

「お前のことは殺したいほど(・・・・・・)憎いが(・・・)、俺の望みは、お前を殺す(・・・・・)ことじゃない(・・・・・・)

「…………」

「あの子の仇を取ってやりたいだけなんだ」

「……」

「…………なあ‼ ギル・ラーゴット‼」


 昨日のことのように、記憶は甦る。

 数え切れない夜を越えてなお、

 数えきれないほど、何度も何度も思い出してきたから。




 俺たちが終わった日のことを。




   ***




◆十年前――〝外域〟中層、ギル・ラーゴット



 調子に乗っていた(・・・・・・・・)


 若かったとか、弱かったでもない。俺たちの過去と今を一言で言い表すなら、この表現が相応しいだろう。

 調子に乗れたお陰でここまでの飛躍があったし、その飛躍さえなければ身の程知らずな選択肢は現れてすらいなかったと確信できる。数いる底辺の探索者の中に埋もれて、夢と愚痴を語るのに忙しかったことだろう。




 自分で言うのもなんだが、俺には才能というやつがあったんだろう。


 代々農家の家に生まれついた俺は、一生を鍬を握ることじゃなく、槍を掴むことに捧げると決心し、十五歳になってすぐ故郷を飛び出した。


 探索者になってからの経験が濃すぎて故郷の思い出は薄れているが、旅立つ時まで、家族からあまり引き止められなかったのが少し寂しかったことだけ記憶に残っている。

 両親は、俺の性分的に止めても無駄だと思っていたのか、男子はまだ下に何人もいたから一人いなくなったところで問題ないと考えたのか。兄弟も、長男がいなくなれば家督が回ってくるから、財産の取り分が減るからありがたいと思ったのか。

 今ではもう分からねえが。


 家の手伝いで貯めたなけなしの金と、粗末な鉄の槍一本だけで俺は外に出た。

 目指すは自由都市グアド・レアルム、探索者の聖地。


 俺はそこで一流の探索者になる夢を見まくった……未知を駆け抜ける冒険、魔物との手に汗握る激闘、目も眩むような美女との出会い……御伽話(おとぎばなし)のような物語に酔いしれ、その陰にどれだけの苦労と犠牲が押し込められているか考えも至らなかった。


 俺は隊商の護衛という名目で馬車を乗り継いで、以外にも簡単にレアルムに到着した。

 その後の日々は……まあ深く語るほどのことはねえ。犯罪に手を染めなかっただけで、一通りのことは経験した。酸いも甘いも。それだけだ。


 状況が変わったのは十七歳の頃、レアルムに来て二年が経った頃合いだった。


 当時の俺はある連中と徒党を組んで〝外域〟に繰り出しまくっていた。探索団に所属していない根無し草の探索者と今まで何度も徒党を組んだ中で、断トツだと言い切れるほど最高に気の合う最高の組み合わせだって確信していた。


 ケイヴ・エルゴ。

 マクミラン・マーガス。

 ドノン・ルピー。

 レイモン・ジギント。

 シャルル・ウォルター。

 ホーエン・アパッチ。

 マルク・ファムール。


 皆、俺と似たり寄ったりの境遇で、レアルムで探索者として上り詰めるヤル気に満ちていた。

 それぞれの蝕業も、前衛に剣、中衛に羽と鍵、後衛に杖と像、どれも申し分ない配剤。


 俺たちはそれまで燻っていたのが嘘のように依頼を達成し、〝外域〟からお宝を持ち帰り、実績を積み上げてメキメキと頭角を現していった。俺は有名な探索団からのいくつも勧誘を受けた。

 人生の絶頂……この世の全てが自分の望み通りに運ぶ全能感。

 これで十七のガキに驕るなってのは厳しすぎる注文だ。勧誘を受けたことが切っ掛けで、ゆくゆくは俺たち八人で探索団を立ち上げることまで考えていたからな。


 ――そしてそういう時こそ人間は間違いやすい。


 調子付いて高い山に登っちまったからこそ、一度転べば落下に勢いが付くとも言える。


「俺たちならどんな相手にだって勝てる」と過信して参加した依頼。


 ギルドの一階、掲示板に張り出された一枚の紙。

 仲間たち七人の期待に満ちた視線を背に受けながら、俺はそれを引き剥がす。

 夢の中で俺はやめろと何度も叫び、あの瞬間に戻れたらと後悔する。


 その依頼は〝皇帝〟と呼ばれる人外が引き起こした闘い、その残党どもの後始末。




 その依頼で俺は、かけがえのない仲間を失った。

◇怒りの矢【いかり-の-や】

武器/弓系統/特殊矢


射られたものを激昂させる効果を帯びた特殊な矢。

作成には付与魔法【積怒】と意能【道具作成】が必要。


射られたものは、この矢を射ったものに対し

激しい怒りを抱き、執拗に攻撃するようになる。

そのため、陽動としてこの矢が用いられることが多い。


特殊矢は付与魔法で様々に効果を変え、

ゆえに弓使いの多彩な戦い方を支える一助となっている。

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