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ツンデレ悪役令嬢とその愉快な仲間たち

作者: 南華

「ディアナ・ローレンス侯爵令嬢! 貴方との婚約は破棄させて頂く!」


かつて乙女ゲームをプレイしていた時に見た光景。


……その時と違うのは、ヒロインであるリーシャの視点ではなく、悪役令嬢のディアナの視点に立っていること。


そして、私は……ディアナ・ローレンスは何も悪いことなどしていないのに、断罪されかかっているということだ。


「……あら、どうしてかしら?」


「この期に及んでしらを切るとはな……リーシャに何度も度を過ぎた嫌がらせをしただろう。婚約破棄では生ぬるい……そうだな、貴方を国外追放とする!」


そんなことを言っているのは、私の婚約者であるこの国の第一王子、ウィリアムだ。

王のいない舞踏会で、勝手に婚約破棄と国外追放を命じるなんて……彼も冷静さを失っているようだ。

周囲にいる舞踏会の参加者は、私に向かって眉を顰めつつも、それは同じだけ王子とリーシャにも向けられている。


自分は何もしていないのに断罪されていることは不快だけれど……とりあえずは王子の外聞を守るために場所を移動した方がいい。


私は自分の気持ちを落ち着けるように、扇子で口元を覆いつつ大きく息を吸った。


「そんなに大声を出さなくても聞こえているわ。はぁ、私に話を聞いてほしいなら場所を移してからにすることね」


私の言葉に、王子も、リーシャも、周囲の人の雰囲気も冷え込む。


……あああ! またやってしまった!!


転生する前からの私の悪いところ。

それは言葉がどうしても刺々しくなってしまうところだ。

特に……心配の言葉だとなおさら。


今だって、「一旦別室へ行きましょうか」と言えばいいところを、私ってどうして……

いつものように、脳内大反省会を開いていると、我に返ったウィリアム王子が顔を真っ赤にして怒りだした。


「お前のそういうところが嫌いなんだ。その言葉と嫌がらせに耐えていたリーシャに何か言うことはないのか?」


その言葉に、リーシャは震えながら彼の後ろに隠れる。

しかしその目は私の方をみて笑っていた。


……確かに彼女にとげとげしい言葉を吐いてしまったことはあるけれど、嫌がらせなど私は一度もしていない。


それでも周囲の人はだんだんと王子とリーシャの方に同情するような雰囲気になり、私に対しては厳しい目が向けるようになってきた。


この世界に転生したことに気が付いた時は、なぜヒロインではなく悪役令嬢に生まれ変わってしまったのだろうと落ち込んでいた。


しかしこの転生で、前世で素直になれず死んでしまった私に、恋に素直になれず断罪されてしまった悪役令嬢ディアナとして、やり直すチャンスをくれたのだと思ったのだ。


結局素直になれない性格は直らずに、前世では推しだった王子には断罪されているわけだけれど。


ウィリアム王子に好きになってもらえなかったことは、もう特に気にしていない。

私と結婚するよりは、明るく素直なヒロイン、リーシャと結ばれる方が幸せだろうと思っていた。


社交界にリーシャが現れてからは更にそう思うようになり、私は王子のことは完全に諦め、他の人達と仲良くしてきた。


だから本当に嫌がらせなどしていないのだ。

むしろ……リーシャのことは色々気にかけてきたのに……


「なんだその睨むような顔は。まだ罪を重くしたいのか? 生涯牢獄の中で暮らしたいのか?」


王子の言葉に、流石に罰が重すぎやしないかと周囲がどよめき始めたところで、彼の後ろに隠れているリーシャが声をあげた。


「ウィル……ディアナ様をそこまで責めないであげてください。国外追放で十分です」


「リーシャ……君はなんて優しいんだ」


結局私はシナリオ通り、国外追放になってしまうのか……

そう思った時、突然一人の人物が割って入って来た。


「国外追放で十分? 君のことをディアナが虐げたなんて証拠はまだ一つも提示していないのによく言うな」


その人はスッと後ろから歩いて来て私の隣に立つ。

そしてそっと肩に手を置いてくれた。

まるで、私がショックを受けているのをわかっていて、慰めてくれるように。


「レイ、まさかディアナの味方をするつもりか?」


「そのまさかだ、兄上」


そう、今味方をしてくれている彼は、私の大切な友達……そしてこの国の第二王子だ。

原作の乙女ゲームでは攻略対象の一人だったけれど、この世界では私と仲良くしてくれている。


「そもそもリーシャ嬢から、ディアナにいじめられたという証拠がまだ一つも出ていない、と俺は言っている」


レイが語気を強めると、ウィリアム王子は慌てたようにリーシャの方を向いた。


「例えば、そ、その、私、先月のお茶会で、リーシャ様に紅茶をかけられて、ドレスを一枚着ることが出来なくなってしまったんです」


そう言って顔に手を当てすすり泣く彼女の頭を、ウィリアム王子は優しくなでる。


「聞いたか、レイ。これが証拠だ」


「その証拠には何も根拠がない。それに……」


レイが続きを話そうとしたところで、私の左隣にまた新しい人がやって来た。

彼は私の肩に載っているレイの手をどかしてから、ウィリアム王子達の方を向く。


「お言葉ですが、その日のお茶会では私がずっと彼女の隣にいたので、そのようなことはなかったと保証できます。むしろ、ディアナ様の目の前で紅茶をこぼしたリーシャ様に対して、ディアナ様はハンカチを貸し、なおかつ後日新しいドレスまで送って差し上げていたはずですが」


この証言をしてくれたのは、私の付き人かつ友人のジョシュアだ。

彼もまた乙女ゲーム内の攻略候補の一人である。


「まぁ確かに、その時にリーシャ嬢にかけた言葉だけを聞けば、いじめているようにも聞こえたかもしれませんけれどね。でも、ディアナ様のとげのある言葉に隠れた優しさを無碍にするなんて許せませんね」


彼は私とレイに向かって小声で話すと、私の一歩後ろに下がった。

もはや野次馬と化している舞踏会の参加者も、私がハンカチを差し出したところを見た人がいたのか、リーシャに疑いの目を向け始めた。


「そ、それはそうだったかもしれませんね……でも、まだあります! 私が社交界にデビューした日、ウィリアム様の目に留まってしまった私に対して、ディアナ様は暴言と共に私の髪飾りを壊したのです!」


「それも事実とは異なるわ」


リーシャが言い切った瞬間、今度は銀色の美しい髪を揺らしながら、否定の言葉と共に王子と私の間に割って入ってくる人がいた。


「……ジュリア」


彼女は乙女ゲームではいわゆるヒロインの親友ポジションであるが、今は私の大親友だ。


「ディアナに任せて黙って見ていようかと思えば、リーシャさんはでたらめばかり言うし、レイとジョシュアは抜け駆けするし」


彼女は私の手をぎゅっと握り、キッとした目をしてリーシャとウィリアム王子に話し出した。


「あの日も私がディアナと一緒にいたからよく覚えているわ。リーシャさんの髪飾りは別の令嬢に壊されていたはずよ。それを見かけたディアナが、その時自分の付けていた髪飾りをあなたにあげたんじゃない! あれは、ディアナが持っている中で二番目にお気に入りの髪飾りだったのに……一番は私があげたものだけれど……恩知らずもいいところだわ」


一度も彼女には髪飾りのお気に入り順位など伝えたことはなかったはずだけれど……少しぞわっとしたが、彼女の言葉は絶大な効果があったようで、周囲の人はかなり私の味方をするような雰囲気になっている。


なんて言ったって、彼女はこの国で唯一の公爵令嬢であり、かつ有名なお菓子屋さんの店主でもあるから。


「『みっともない恰好ね。そんなみすぼらしい髪飾りなんて外して、これを使いなさい』って言ったときのディアナは本当に素敵だったわ……」


うっとりと笑う彼女に対して、リーシャは悔しそうに唇をかみしめる。

今ジュリアが言った言葉も、あの後言って後悔したのだけれど……うっとりした彼女を見ると、今の私のままでもいいのかもしれない、なんて思ってしまった。


「うぅ、それなら! ……昨日、そう、昨日だったわ! 私が城下町でショッピングをしていたら、ディアナ様がいきなり……


「まだ言い訳をする気かい? 彼女は昨日、僕と国境の街まで出かけていたから城下町にはいないよ」


今度はリーシャが言い切る前に、私の左隣にまた新たな人がやって来た。

その声は稀代の天才として名高い錬金術師、かつ私の友人であるノエルのものだ。

彼も例にもれず、乙女ゲームの中では攻略候補の一人である。


「『引きこもってばかりいるから、特別に私の買い物に付き合わせてあげるわ』って言って僕を錬金術で使う道具の店に連れて行ってくれたんだ。デートみたいで楽しかったね」


そう言って、彼が私の手を両手で握りしめたところで、後ろからその手を解くもう一つの手が現れた。


「何を言っているんですか? 俺もいたのでノエル様とディアナ様のデートではなかったですよ」


私達の手を解いたのは、私の家の騎士であるティム。

私の家の騎士とは言えど、その実力は国全体を見ても五本指にはいるだろう。

そのためもうすぐ爵位を授かる予定であり、こうして舞踏会への参加も許されていた。


……そして、もれなく彼も乙女ゲームの攻略候補の一人である。


「……ティムはついてこなくてよかったのに」


「ノエル様が何をするかわかったものではないので」


なぜか二人がバチバチに争い、レイ、ジョシュア、ジュリアも悔しそうな表情をしている中、突然目の前でウィリアム王子の背中からヒロイン、リーシャが飛び出して大騒ぎをし始めた。


「どうして! どうして!! 私がヒロインなのに……どうしてウィリアム様以外みんな悪役令嬢の味方をするのよぉ……わからない、意味わからないわ!!」


そこから先は何を言っているかわからないような叫び声をあげ続ける。

ウィリアム王子が一生懸命彼女を慰めると、数分して彼女はやっとおとなしくなった。


「お前のせいでリーシャが壊れてしまったじゃないか! 事実はよくわからないが、こうして今リーシャを泣かせただけで十分国外追放にあたる! 早く出ていけ!」


そのあまりの言い分に、私は思わずぽかんと口を開く。

扇子で隠せてよかった。

そうでないと、きっととても間抜けな顔を晒してしまうところだったから。


「今すぐここから出て行って支度をしろ! 今すぐだ!!」


ウィリアム王子は怒鳴るように私に言うと、リーシャを連れて奥の部屋へ引っ込んでしまった。

残されたのは……私の友人たちと、王子についてヒソヒソと噂話をする舞踏会の参加者達。

その多くが私に同情の視線を向けている中、ジュリアが喜びを抑えきれないような顔で私を見つめた。


「やったー!! やりましたわ! ついに! ディアナとあのろくでなし王子が婚約破棄!」


おめでとう! と言いながらいまだ繋がれたままの手をぶんぶん振る。

それを止めたのは後ろにいたジョシュアだ。


「人の婚約破棄を喜んではいけませんよ。あと、距離が近いです」


彼がジュリアを私から引きはがすと、彼女は不満そうな声をあげた。


「だって、ここにいる皆、そう思っているでしょう?」


「それは……そうですけれど」


「国外追放、だったか? それなら俺もついていこう」


レイが私に跪き、右手にキスを落とすと、左にいたノエルも同じように私の手を取る。


「レイ王子、抜け駆けはずるいよ。僕も一緒に行く」


「俺もお供させてください」


「ディアナ嬢は勿論、私のことも連れて行ってくれますよね?」


「ふふっ、私もついていくわ! ディアナのいない毎日なんて考えられないもの!」


ジュリアはギュッと私の背後から抱き着いてくる。


ジョシュアもティムも私の家の付き人、騎士としてではなく、国の文官、騎士として期待されているのに……本当についてくる気だろうか?


ジュリアもレイもノエルも、この国で生きていくには困らない地位と名誉があるのに。


あぁ、私には……素直になれない私にも……こんなに素敵な友人がたくさんいたんだな。


「もう、みんな本当に馬鹿ね……」


また口からは本心とは違う言葉が出てしまう。

それでも、五人は意図を汲み取ってくれたのだろう。


涙目になった私の視界には、皆の笑顔が映っている。


「……皆、ありがとう。大好きよ」


その小さな声は果たして届いただろうか?


◇◇◇


「どう? おいしいでしょう?」


「えぇ、まぁまぁ。このごまの香ばしさがよりクッキー生地のおいしさを引き立てているわね」


「うんうん、すごく喜んでくれたみたいで嬉しいわ!」


すごく喜んだなんて言っていないけれど。

本当にジュリアは私の言いたいことを察するのが上手だ。


それは彼女だけではなくて、ここまで私について来てくれたみんなも。


結局あの後、私は国外追放免れた……どころか、王に謝罪された。

そして、無実の罪を着せようとしたウィリアム王子とリーシャの方が国外追放されてしまったのだ。


王や国の重鎮たちにはこのまま首都に残るように懇願されたけれど、もう首都での噂や騒動に懲り懲りになってしまった私は、自ら国外で暮らすことを希望した。


……そして色々あって、折衷案として、国外……ではなく国境付近にある第二王子であるレイの領土に引っ越してきたのだ。

勿論私以外の五人も一緒に。


「それで、そろそろディアナは私と結婚してくれる気になったかしら?」


「ゴ、ゴフッ……」


突然のジュリアの言葉に私は思わず食べていたごまのクッキーをのどに詰まらせる


「ジュリア、ディアナに抜け駆けはしない約束だろう? それにここは俺の領土だ。もし婚約の申出をするなら、俺が一番先にするのが道理だろう」


近くで本を読んでいたレイが私の真横に座り、髪の毛をなでてくる。


「ディアナ、俺をえらんでくれないか?」


「なによ王子だからってちょっと偉そうに……」


ジュリアは不満を口にする。


「はぁ、しばらく戻ってこないから何をしているかと思えば……まさか、私達のなかでの協定を忘れたとは言わせませんよ?」


ドアがバタンと開き、ジョシュアが厳しい目をしてレイとジュリアを睨む。

それから私のそばまで歩いてくると、そっと耳元でささやいた。


「私も結婚相手の候補の中に入れておいてくださいね」


……揃いに揃って何を言っているのだろうか?

前にも同じようなことを五人から言われたけれど、あの時は冗談かと思っていた。


でも……もしかして……


「君のためだったらどんな錬金術でもしてみせるよ……僕にしたらどうかな?」


ノエルとティムも部屋に入ってきて、それぞれ私の周りを取り囲む。


「一生かけて、どんなことがあろうともディアナ様を守ります。だから、俺と一緒に生きましょう」


五人の十個の瞳が私に向けられる。

やっぱり……これって、本気なの?


「ば、ば、馬鹿!!!!!」


冗談じゃないことを理解した瞬間に、頭が真っ白になり、私は部屋の外へと飛び出した。



この地方が後に、一妻多夫妻制が認められているディアナ自治共和国となって独立するのはもっと先のお話。

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反応が多ければ連載も考えています!!

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[良い点] 気持ちのいいざまぁ、が見れました。一妻多夫妻面白いです。 [一言] 面白かったです。
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