表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

キッチンカー

作者: 雉白書屋

 小学生の頃、近所のスーパーの前にハンバーガーのキッチンカーがやって来た。

 初めて見るチェーン店以外のハンバーガーであることに加え、秘密基地みたいな車にワクワクしたが、ちょっとお高めで小学生の微々たる小遣いじゃまあ、絶対に買えないということもないが、ゲームやカード、漫画にお菓子など何かと出費が多く、手が出なかった。

 ちょうど通学路でもあり、毎日横目に未練がましく見つめるのが精一杯。母親に頼んでも、ちょっと高いからダメ。それにちゃんと店を構えていないから食中毒でもなった時に責任取らずにすぐに逃げられそうじゃない、とあしらわれてしまった。(移動式店舗というのはそういう名目ではない気がするのだが)

 同級生の中にちらほらと食べたことある奴が出始め、ある時羨ましさは限界点を突破した。

 そして、反転。俺は食べたくないと思おうとした。


 ――あそこのハンバーガー屋。人肉を使ってるんだぜ。


 今でも覚えている。俺がそう言ったこと。当然、嘘も嘘。まさに酸っぱいブドウ。嘘つき狐。

 でも面白かったのか何なのかその話は学校中に広まった。そして、それと関係があるのかないのか、ある日を境にパタリとそのキッチンカーを見かけることはなくなった。



 だから驚いた。冬休み。大学の寮から実家に帰って来てのんびりぶらぶらしてたら、あのキッチンカーを見つけたことに。

 

 夜、もう閉まったドラッグストアの駐車場。同じ町だがあのスーパーからは離れた位置にある。

 あれからここに場所を移し、ずっと営業を続けていたのだろうか……俺のせいで。

 ……いや、移動式なんだ。そもそも一箇所に留まる必要はないか。オフィス街とか高校の近くとか転々と移動し、案外儲かっているのかもしれない。そもそも、小学校で流行ったあの噂もほんの数ヶ月、いや数週間程度で収まった気がする。

 と、そんなことはどうでもいい。心残りを消し去るチャンスじゃないか。いや、存在そのものを忘れていたから心残りも何もないし

旨いハンバーガーならたくさん食ってきた。

 でも買おう。胃は既に乗り気のようで、腹がグゥーと鳴った。まあ、食ってみたら大したことはないというパターンに終わ……


「……お、うま、いや、うまーっ!」


「ははは、ありがとね」


「いや、旨いっすねホント。びっくりしましたよ。……あの、昔からやっておられますよね?

いや、小学生の頃、見かけてずっと食べたい食べたい思っていたんですけど、それとは関係なく、あーうまっ」


「ああ、そうなんだ。それは嬉しいなぁ」


「あー、うまっ。あ、ははは、いや、懺悔ってわけじゃないですけど昔、親に買ってもらえなくて小遣いもあれだし食えなくて悔しくてつい、このお店の肉は人肉とか言っちゃったんすよね」


「ほー」


「それがまあまあクラスで受けて、で、ちょっと悪いことしちゃったかなって思ってたんですけど、まあ影響なかったみたいで、安心しましたよ。はははははっ」


「君か」


「はい?」


「昔ね、夜ね、あれは塾帰りの子かなぁ。私に向かって言ったんだよ。人肉バーガー殺人鬼バーカってね、ははははは!」


「あ、あははは! でもそれ僕じゃないですよ。小学生の頃に塾なんて通ってませんもん」


「知ってるよ。その子は死んじゃったからね。

その夜以来、肉を変えてから繁盛してるんだ。ああ、お陰様でね。まだまだ続けられるよ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ