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治癒師は捨てられた。餌として

 チェリーのチョコレートケーキ。

 季節のフルーツタルト。 

 紅玉りんごのアップルパイ。

 マロンとチョコレートのパフェ。

 6色餡のお団子。

 9枚重ねのプレミアムなパンケーキ。

 クロテッドクリームとジャムとスコーン。



『……お腹がすいた……』



 ふわふわシフォンケーキ。

 色とりどりのマカロン。

 フレンチトーストは蜂蜜をかけて。

 コットンキャンディの下に隠れるアイス。

 緑が落ち着く濃厚お抹茶ソフト。

 オレンジのスムージーは丸くて可愛いグラス。

 柔らかいミルフィーユはアメリカンと一緒に。



『痛い、体全部、痛い』



 レタスとハムたっぷりのサンドイッチ。

 梅とおかかのおにぎり。

 鉄板の上で端が焦げてるナポリタン。

 エビチリのお皿には周囲をオレンジの薄切りが飾って。

 パラパラチャーハン。

 ニンニクの効いた餃子。

 紅生姜の乗った豚骨ラーメン。

 おっきくてふわふわのハンバーグ。



『寒い、寒い、冷たい』



 朝のあったかいコーンスープ。

 カリカリのベーコンと目玉焼き。

 卵かけ御飯。

 海苔と醤油。

 家族で囲むお鍋。


 お母さんの作ってくれるお味噌汁。



 ああ、そうだ。

 帰ったら、冷蔵庫に貰い物のケーキが入っていた。1週間ジョギングが続いた自分へのご褒美で食べるつもりだった。

 大きな形のいい、きらきらの苺が乗った、甘さもちょうどいい真っ白で柔らかなショートケーキ。

 わたしのショートケーキ。


 最後に食べたかったな。

 苺のショートケーキ。


 苺の。


 苺の?



 ……苺ってなに?


 ショートケーキって?


 さっきの頭に浮かんだのはなに? 夢? こんなときに?



 魔物の森のそばに、食われてしまえと捨てられた体を雨が打ちつける。

 限界まで祈り続け、力を失った彼女の体はもう動かない。


 降り続ける雨に体温を奪われ、かろうじて保っていた意識も朦朧としている。


 ここで魔物の餌になって死ぬのだと理解していた。

 そんな時に、夢?


 ああでも、なんて暖かい、優しい夢だったのだろう。

 なんて美しい、美味しそうな料理の数々だったのだろう。


 神々がよく頑張ったとご褒美をくださったのだろうか。

 神の苑にはあの料理があるのだろうか。


 そう、あの赤い宝石のような美しい、いちご……。


 苺の、ショートケーキ。


 苺の味が、クリームの優しい甘さが、ふわふわのスポンジが、脳内で蘇ってくる。

 食べたこともないはずなのに。


 そう、食べたこともない……。



 いや、ある!!



 彼女はカッ! と目を見開いた。

 全身に力がみなぎってくる。

 全て失われたはずの力、そして生きる力。

 このまま死ねない、と残り最後の命を燃やして力に変える。



 ショートケーキ、苺のケーキ、チーズケーキにロールケーキにチョコレートケーキ、お茶に紅茶にスタ◯のコーヒー!!


「ショートケーキぃ──────っっっっ!!!」


 渾身の力を込めて、彼女は雨の中立ち上がった。

 ふらり、と体が揺れる。


「チーズケーキ。スフレにハードにニューヨーク……」


 つぶやきながらふらふらと歩き出す。


「お腹すいた……お腹がすきましたよ神様……。なんなんですかこれ、どうしてくれるんですか。頑張った挙句がエネルギー枯渇で餓死寸前で魔物の餌に捨てられるってどういう事なんですか。許さねえ。絶対許さねえ、あのクソども。ぶくぶく太りやがって、自分達だけいいモン食ってるに違いないんだ。殺す。絶対殺す。100回殺す。死んでも殺す。食い物の恨み、千倍にして思い知らせる……絶対だ!!」


 そして天に向かって吠えた。


「ケーキを食わずにあの世に行けるかあああああっっっ!!」


 ドンガラガッシャ──ンッッ!!


 特大の雷が落ちた。

 雨は土砂降りへと変わる。


 再び、彼女はどしゃりと地面に倒れ伏した。

 体温はすでに奪われ尽くされ、最後に振り絞った力ももうない。

 人のいるところまで、せめて雨を避ける場所まで行くには、彼女の命はすり減りすぎていて残っていなかった。


 最後の一瞬に燃え尽きて、もう指一本動かせない。


 世界に今、1人の復讐鬼が生まれた。

 生まれて、そして死んだ。


 祟り神となる可能性もあったやもしれない。




 だがそうなるより前に。


 世界が、先に動き出した。


















 

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