8朝
翌朝、学校へ向かう道すがら、おれはふと思った。
ジャージのポケットに放り込んだログインボーナスの鉛筆を指で弄びながら、ぼんやりとした頭で考える。戦場での使用は、どう考えても無理がある。使い道がわからないアイテムほど扱いに困るものもない。
(まあいいか、何か役に立つ時が来るんだろ……いや、来るよな?)
そう自分に言い聞かせる。
学校に到着すると、いつものように登校してきた天子が目の前に現れた。彼女はいつものように軽やかな足取りで歩いていて、おれを見かけると少し眉をひそめた。
「おはよう、典正」
「おう」
おれは天子に軽く手を振りながら、いつも通りの無愛想な返事を返す。
「何か、昨日の夜遅くまで起きてたみたいだけど、大丈夫?」天子は心配そうに顔を覗き込んできた。
「ん? あぁ、大丈夫。ちょっと考え事してたからな」とおれは適当な言葉を返す。実際には、ログインボーナスの鉛筆に悩んでいたり、転生大戦のことを考えていたりして、なかなか寝付けなかった。てか眠くならないし。
「あんまり夜更かししない方がいいよ? 眠れないっていうのは身体に悪いし」天子は真面目な顔で言った。
「人の心配する前に自分の心配でもした方がいいぞ」
「何を心配するの?」
と、おれは周りを見渡せば――獣のような目つきで天子を狙っている男子どもがいる。
「げっ」と天子は声を漏らした。
『天子さん! 好きです!! おれと付き合って!!』
男子たちが、勢いよく天子に向かって叫んだ。朝の登校中だというのに、この場で告白とは大胆すぎる。周りのざわめきが一気に高まる。
「……えぇっ?」
天子は目をぱちくりさせて硬直している。おれは足を止めてその場を見つめてしまった。
「良かったじゃねぇか、天子。諦めの悪い男どもに好かれて」
「嫌よ! 気持ち悪い!」
うわぁ、天子の奴ド直球だな。おれだったら諦めてるぞ。
「そんなこと言わずに、天子様! おれと付き合って!」「いいや、おれと!」「いや、おれと!」
「ちょ、典正……助けて!」
「なんでおれなんだよ」
天子は焦った表情でおれの腕を引っ張る。おいおい、これ完全に巻き込まれるやつだろ。
「幼馴染でしょ!」
いや、幼馴染だからといってもいつも一緒にいてやれるわけじゃないし、幼馴染だからといって将来をともにするなんてことない。
しかし、今回だけは助けてやるか。
「お前ら、朝から元気だな。登校の体力、全部ここで使い切る気か?」
おれが冷ややかに言うと、男子たちは一瞬きょとんとした後、勢いを取り戻して声を張り上げた。
「関係ないだろ! 天子さんへの気持ちは本物なんだ!」「そうだ! 他人が口出しするな!」
確かに! その通りだぞ男子諸君! 色恋沙汰に他人を巻き込むなんてあってはならないよな。
「おい天子、やっぱりこういうのは自分で処理するのが道理だぞ」
「無理! 怖い! 典正なんとかして!」
天子は俺のジャージの袖をぎゅっと掴んで、泣きそうな顔で訴えてくる。この状況で俺を頼るのはちょっと違う気がするけど、仕方ないか。
俺はポケットの中のログインボーナスの鉛筆に触れる。……いやいや、さすがにこれで解決するのは無理だろ。
「じゃあ、こうしよう。天子は誰とも付き合わないってことで丸く収める。これで納得しろ」
「ええっ!?」天子が声を上げる。
「だってお前、どいつも無理なんだろ? 本音を言えよ」
「そ、そうだけど……」
男子たちは明らかに不満そうな顔をするが、おれの目をじっと見ると、次第に押し黙った。
「よし、解散な。あとは頑張れ。じゃあな」
おれは天子の手を引いて歩き出す。彼女は「ちょっと待って」と抗議するように言うが、おれの背中を見て黙る。
校門を通り抜けて安全圏に入ると、天子が溜息をついた。
「助かったけど……典正って、もっと他に言い方なかったの?」
「俺にどうしろってんだよ。これで全員無傷なんだから感謝しろ」
「うーん……まあ、ありがとう」
天子がそう言って苦笑したのを見て、俺も少しだけ肩の力を抜いた。これだから、朝は嫌いだ。