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第二十二話 変身

「――あ゛ぁ!? なんだテメェら!」


 敷地を抜けて建物へと入るや否や――厳斉と紅絽絵へと、威嚇するが如き罵声が飛んで来た。

 予想は初めからしていたけれど、目の前でいきり立つ輩を見る限り、間違いなく此処は与太者の巣窟となっているのだろう。

 派手に髪を染め、眉は無く――止めには、今時存在しているのかと言わんばかりに。

 所謂、特攻服を素肌に纏った若者たちが、各々バットやらバールなどを担ぎながらエントランスへと屯していたのであった。


「……ねぇ、厳斉。こんな化石みたいな奴らって、現代でもまだ生きてたんだね」

「あぁ、間違いなく絶滅危惧種だな。只、行政へ訴えた所で、保護指定どころか駆除命令が出されそうな有様だけど」

「不快害虫ってヤツ?」

「何方かと言うと、シロアリやスズメバチへの対処に近いやり方だと思うぞ」

「役所に通報しようにも、此処が役所何ですがそれは……」

「如何やらこの様子だと全員、職員逃げてしまったからな。数ブロック先の軍人呼ぶにも、あの食料のある辺りから剥がすことは難しいだろ」


 キンキラキンの頭を幾つか眺めながら、己と連れの彼女はそのような会話を交わしていた。

 すると――流石にどれだけ知能が低かろうとも、自分たちが莫迦にされているという事実だけは如何にか理解したのであろう。

 額に血管を浮き上がらせんばかりに顔を真っ赤に染めて立ち上がった――世間一般で謂う所の暴走族たちは、それぞれが手元の得物を担いで此方を睨みつけて叫ぶのだ。


「いきなり入ってきやがって、誰だよテメェら!?」

「ふざけた態度取りやがって、バカにしてんのかゴラァ!」

「死なすぞクソボケがァ!」


 相も変わらず一辺倒に――。

 まるで動物の鳴き声のように。貧弱なボキャブラリーで罵倒を続ける男たちには、真っ当な話も通じない様子である。

 辺りには、酒瓶に煙草の吸殻に始まり……。此処まで怪しげな臭いの放つ、得体の知れない空き缶や袋まで転がっているでは無いか。

 正気で在ろうとそうで無かろうと、彼らとまともにコミュニケーションを取ることなどは、既に容易とは言い難いだろう。

 しかしながら、こうした輩を排除しなければ、この建物の探索も十全に済ませることなど出来ないに違いない。

 故に――厳斉は、一つ。警告するかのように、彼らへ向けて言ったのだった。


「其方がこんな所で何をしてるのか知らないし興味も無いが、俺たちはこの場所に調査しに来たんだ」

「……はぁ? 何言ってんだ、コイツ。何の調査だよ、ボケが!」

「だから、まぁ――大人しく、道を空けてくれないか?」

「ザッケンナ糞がァ! ブッ殺すぞテメェ!」


 言葉尻は比較的穏便に済ませたつもりであったが、先のやり取りがいけなかったのか。

 目の前の彼らは、思った以上にお冠であるようだ。

 個人的には、初めから頭を下げて友好的に接したとこで大した違いは無さそうであるという事は――あれだけ怒り散しながらも、己の隣に佇む紅絽絵の乳や尻を凝視していることからも、容易に推測できる次第であった。

 取り敢えず、交渉は決裂した以上――最早、それ以外の方法で対処するしか無いだろう。

 当然のように与太者たちからの視線に危機感と嫌悪感を抱いていたらしき紅絽絵もまた、厳斉と同じ結論へと至ったようであったのだから。


「コレって、所謂――餓鬼に言葉が通じるか、ってヤツ?」

「俺も決して好きではないが、百の言葉よりも一の暴力が解決することもあるって話なんだろ」

「まぁ、アッチは最初っから千の暴力で好き放題してるみたいだケドね」

「既に正当防衛何かが認められる範疇を超えることになりそうだが、このままだとお嬢さんも貞操の危機だからな」

「えぇっ! あんな臭そうな乱暴者たちなんて、絶対相手にしたく無いよ!」


 そう言って。口端を引き攣らせながら身体を捩った紅絽絵であったが、そのことにより一層彼女の肉感的な部位が強調される羽目になったのは言うまでも無い。

 頻繁に共に居る厳斉からしても、彼女の出で立ちはその明るい性格なんかも相俟って、実に健康的で爽やかな様相なれども――だからこそ、その男好きのするたわわに実った乳房や暴力的なまでにまろやかな尻だけを取って見ても、より一層の光景であるのだ。

 したがって、彼女を知らぬ者からすれば――現われ出でたその様は、異性の情欲を掻き立てる極上媚肉に相違ないだろう。

 予想通り――与太者たちにとってもその通りであったらしく、生唾を呑み込んだ輩は我先にと言わんばかりに――威勢良く、此方へと襲い掛かって来たのであった。


「――あのスカした野郎を挽肉にした後、あっちのデカパイでお楽しみだァ!」

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!」

「殺せッ! 叩き殺せッ! ブッ殺せェ!」


 怒濤の如く得物を振り回し暴れる姿は、最早暴徒か強姦魔か。

 しかし、此れである意味――防衛の為に、此方も力を振える理由が生まれたと言えるだろう。


「――先ずは、鉛玉でも喰らって貰うか」

「うっ……今、胸に当たったよね」

「躊躇いなく撃った俺が、怖いか?」

「って言うよりも、射撃訓練なんてしたコトないだろうに良く当たるなぁって思ってさ」

「あぁ、口径も小さいし反動も少ない――要は、慣れだよ慣れ」


 乱戦になること間違い無しの荒れようにより、拳銃で一人二人を撃ち抜いた所で――高潮した熱狂もあり、奴らは決して止まらない。

 つまりは、厳斉も紅絽絵も多勢に無勢を退けるのであれば――己が身に宿した異能を使わざるを得ないのであった。

 下劣な顔を晒して突っ込んでくる暴走族の集団の往く手を塞ぐように、お馴染みとなった黒玉を展開させる。


「――うわぁぁぁあああ!? な、何だコイツ!?」

「やめっ、押すなッ! 吸い込まれ――」

「ヒィィィ! か、かかかっ! た、助け――」


 無策で突撃してきた輩は、待っていましたとばかりに口を開いた闇の底へと意図も容易く沈んで消えた。

 一方、異能を纏って姿を変貌させていた紅絽絵もまた――己の広げた高重力の網を避けて生き残った者達を、的確に叩き沈黙させて往ったのだ。


「ごブッ――!」

「――あ、がッ!?」

「へべッ、ごッ――!」

「――ぎゃボっ!」


 眉間、顎、胸――そして股間をも。

 強靭な鎧を纏って凶悪な身体能力を携えたらしき彼女は、宛ら格闘ゲームのキャラクターの如き、目にも止まらぬ速さで暴徒を肉薄しているではないか。

 拳は暴風をも巻き起こし、蹴りは容易に肉塊を生み出す。

 顔面を叩き潰され、鼻から下を刈り獲られ。胸部にクレーター染みた陥没を生み、股間の一物を蹴り潰された輩など――そのまま股を裂きながら、天井へと頭から突き刺さっていた次第であった。

 最早、その出で立ちは人間凶器。

 人の形をした、災害に等しいほどの凄まじさである。

 ――が、しかし。

 それ以上に厳斉の目を惹いたのは、紅絽絵が纏っていた鎧である。

 否――其れは果たして、鎧と言って赦される代物なのであろうか。


「――くーたんさぁ。その格好で鎧って言い張るのは、どう考えても無理あるでしょ」

「ぅ、うるさいなぁ! 別に性能は変わらないみたいなんだから、ボクの好きなようにデザインしてもいいでしょっ!」

「俺はてっきり、装甲スーツやロボみたいな感じで出て来るかと思ってたんだが……」

「い、良いって言ってるじゃないか! ボクだって、こういう服に憧れるコトもあるんだよっ」


 厳斉からの指摘へと、顔を真っ赤にして主張する彼女が纏っていたのは――日アサヒロイン宜しくぷりちぃできゅあきゅあなフリフリの戦闘衣装(ドレス)であったのだから。

 動く者が己と紅絽絵以外に居なくなったエントランスホールにて、進撃の一頁はこうして幕を明けたのであった。

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