6話
エリアお姉ちゃん、いや、ド変態女王様に襲われた後、僕たちは馬車に乗って王宮に向かっていた。
こんなきれいで大きな馬車に乗ったのは初めてで、車内は結構広い。僕とエリアお姉ちゃんとメイドさんが一人乗っているだけだから、かなり空間に余裕がある。
だからさ、いい加減僕を膝からおろしてくれないかな。僕は今エリアお姉ちゃんの膝の上に座らされ、背中側からがっちりと抱き着かれている状態だ。横は十分座れるし、おまけにメイドさんにガン見されて恥ずかしいんだけど。あと首元の匂い嗅いだり、耳に息吹きかけたりするのも止めて。こそばゆい。
「さっきのレンはすごかったな。襲った私が返り討ちに会ってしまったぞ。もう身も心も全部レン一色だ。責任を取ってもらおうか?一国の主をレン以外でいけない体にしてしまった責任を」
「婿になるんだから、これ以上責任の取りようなんて無いよ」
「婿か、そうか本当にレンが婿になるんだな!こんなに嬉しいことはない」
さっきからずっとこの調子だ。僕が婿になるという言葉を何度も何度も確認してくる。何がそんなに不安なんだ?僕を身請けしたのはエリアお姉ちゃんじゃないか。
本当に婿になれるかは分からないけどさ。僕がいくら認めたって、周りの貴族が認めるかなんて分かんないだろ?
「そういえばレン、私たちは夫婦になるんだから、家庭円満のためにルールを決めておこう。王宮の書物庫で読んだのだ。お互い不満を溜めないように、どうしても譲れない部分は最初にルールとして決めておくのが良いのだと」
なんか前世でもそんな話あったような。効果の程は知らないが、実際どうなんだろうね。何もしないよりかはましくらいなのかな。
「私はな、何個か希望がある。朝と夜は必ずキスすること、毎日一緒に寝ること、あと、子供は最低でも10人欲しい」
「・・・性欲魔人」
「何を言う。私など普通だ。貴族連中にはとんでもないのがいるからな。、、、そうだ、レンも気を付けろよ。いくら私が守っているからとはいえ、絶対に奴らには気を許すな。政治的にも、レンの身の安全のためにもだ」
エリアお姉ちゃんですらエロ漫画級の変態なのに、それが普通だって?そんなわけ・・・・・・あるか。思えばどのお客さんも負けず劣らず変態だった。趣味趣向は違うけど、それぞれかなりのやばい人達ばっかりだった。一番ひどかったのはどんなだっけ。確かどこかの貴族令嬢さんだったかな。朝まで僕のお尻を舐め続けるだけの人。あれは前世の知識がある僕でも滅茶苦茶引いたね。
「それよりも、レンは何かないのか?」
うーん、僕からか。何というか、あんまりないね。
「そうだなぁ。僕は、、、できるだけ自由にさせてほしい、かな」
本当は、村にいたときのような、自由で平和な暮らし。ミアちゃんと村を駆け回って、いたずらして、怒られて、泣いて、笑って。あの頃の暮らしがしたい。でもそこまでは要求しない。
「そうか、すまなかったな」
「なんで謝るのさ」
エリアお姉ちゃんは僕が男性奴隷として攫われて、男娼として働いていたことを黙認していた。そしてそのせいで僕は自由を奪われた。そのことを謝罪してるんだと思う。
一生謝り続けなよ。そのことについて許す気なんてさらさらないから。
「今1つ思いついた。ミアちゃんと定期的に会わせてよ。奴隷から解放したら会わせないつもりだったでしょ?村の代官にするとか何とか言ってたじゃん」
僕を抱く腕の力が強まる。
「そんなにミアが良いのか?私よりもか?」
分かりきったこと聞かないでよ。
「僕はエリアお姉ちゃんと結婚するんでしょ」
「答えになってない」
そのまま僕もエリアお姉ちゃんも黙ってしまう。カタカタと車体の揺れる音が聞こえるだけだ。
「女王様、間もなく王宮に到着致します」
今まで何も言わなかったメイドさんが声を出す。分かった、とだけ言いエリアお姉ちゃんが僕を膝から下ろす。
「ミアをレンの専属メイドとして雇ってやろう」
え、ほんとに?まさか簡単に要求が通ると思わなかった。今日の夜は認めるまでイかせないようにしてやろうと思ってたのに。
「嬉しいか?」
「う、うん。でも、本当に良いの?」
「ああいいとも。私はレンの喜ぶ顔が見れれば何でもするぞ」
あ、馬車が到着したみたいだ。騎士の格好をした女性が馬車の扉を開ける。
「降りるぞ」
エリアお姉ちゃんが先に降りて、僕が下りるのを手伝ってくれる。そうか、この世界では男性がエスコートされる側なんだ。お店では僕がサービスする側だったから知らなかったよ。
「一旦私の部屋へ行こう。準備が済んだら身内にレンのことを紹介して、その後ミアに会いに行こうか」
騎士さんやメイドさんが大勢出迎えてくれるなか、エリアお姉ちゃんは平然とした様子で僕に話す。本当に女王様なんだ。僕は結構緊張してるのに。
「分かった。専属メイドのこと約束してね」
「もちろん。全て任しておけ」
ふふふ、と笑うエリアお姉ちゃん。さっきまでミアちゃんの名前を出すだけで嫌そうな感じを出してたのに、どういう心境の変化なんだ?
でも、これでミアちゃんと一緒にいれる。まずはそのことを喜ぼう。
僕もエリアお姉ちゃんに笑いかける。
そのまま僕たちは王宮に入っていった。