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4話

ガチャ、とノックもせずにいきなりエリアお姉ちゃんが入ってくる。まるで自分の部屋みたいに無遠慮。もう慣れたからいいけどさ。親しき中にも礼儀ありだよ。


「レン、1月ぶりだな。寂しかったか?」


「寂しかったよー!普段は1週間おきにきてくれてたのに、全然顔見せてくれないんだもん。何してたのさ」


ほんとはあんまりだけど、そんなことは言わない。1月前にエイミちゃんから身請けの話をされてころかな?確かそれから来てなかったはず。あ、そうそう、エイミちゃんほんとに僕のこと身請けしてくれるみたい。この前大きな仕事を終わらせてお金が入ったんだって。今は色々と準備してくれてるらしく、1週間後くらいには僕をここから出してくれるとのこと。


もちろん、他のお客さんには言ってない。特にエリアお姉ちゃんには絶対言わないでおこう。100パーセントめんどくさいことが起こるよ。


「そのことと関係するんだが、今日はレンにビッグニュースがあるんだ」


「ええー、何々?!教えてよ!」


「いいだろう。と、その前に、まずは座って落ち着かせてくれ。レンに会えるから大急ぎで来て足がしんどい」


「もちろん。僕のためにありがとね、急いでくれて」


にこっと笑いかける。


「っ、、、。レンのそういうとこが魔性だというのだ」


エリアお姉ちゃんの手を引いてソファに座る。お酒とおつまみと、それから僕のジュースを頼む。


もう身請けされるからわざわざ稼がなくていいんだけど、このお店にはお世話になったしね。もしここに買われていなかったらと思うとぞっとする。お客さんの話では、容姿が整っていない男性奴隷は扱いも雑で、日に何度も何度も色んな女性の相手をさせられるらしい。その分お金は貯まるみたいだけど、かなりの激務なんだとか。こんなところで病みそうになってる僕なんか間違いなくダメになってたろうな。


お、早速注文が届いた。思えばいつもこのお姉さんが運んできてくれていたけど、全く名前も知らないし、世間話みたいなのもなかったな。


「ほらエリアお姉ちゃん届いたよ。乾杯」


「乾杯」


エリアお姉ちゃんはいつも通りグイっと一気飲みする。この人の肝臓は怪物級だよ。


「エリアお姉ちゃん、急いできたんでしょ。足疲れてない?足揉んだげよっか?」


「はぁ、レンは本当にいい男だな。どうだ、そろそろ私の婿にならないか?」


「・・・前にも言ったけど。気持ちはありがたいけどさ。僕は自分で買い戻すから婿にはならないよ。それに女王様が元商売男みたいな卑しい奴を婿にできるわけがないよ。エリアお姉ちゃんが良くても、周りは誰も許してくれないさ」


エイミちゃんも言ってた、結婚は出来ないかもしれないって。でもしょうがないよね。元の世界だって水商売上がりの女性は、せいぜいお妾さんにしかなれなかったじゃないか。ここでも多分同じようなもんだと思う。みんな威勢よく結婚するだの、婿に来てほしいだの言ってくるけど絶対なれやしないよ。それだったら、正直に結婚は出来ないかもしれないと言ってくれたエイミちゃんの方が随分ましさ。


「ふむ、残念だな。私はこんなにもレンのことを愛しているのに」


「ごめんね。こればっかりは僕のわがままみたいなもんだからさ。エリアお姉ちゃんが嫌ってわけではないんだよ」


「そうか、なら少し足を揉んでもらおうかな。横のベッドへ行こう」


「うん、分かった」


ベッドまで移動して、エリアお姉ちゃんをうつ伏せに寝かせる。僕は足元まで行く。はじめは足裏からだ。思いっきりツボを押してやる。


「じゃあ、始めるよ。痛かったりしたら言ってね」


グイっ、グイっ、と親指で圧をかける。気持ちよさそうにしているが時たま、ぐええっ、と声を出す。あ、やっぱり肝臓悪いじゃん。ちょっと控えなきゃだめだよ。


「エリアお姉ちゃん肝臓悪いんじゃない?一気飲みするのやめた方がいいよ」


「レンが婿に来てくれたら考えてやる。でなければ止めない。レンがいないんだったら早死にしてもいいし」


「またそういうこと言う。・・・僕以外にも男の人探せばいいじゃん。女王様なんだからできるでしょ」


他に好きな人でも出来たら、その人のためにも頑張れるだろうし。そろそろ僕はいなくなるんだから真剣に考え始めた方がいいよ。


「レン以外の男など眼中にない。あんなわがままで自己中心的で、それでいてベッドの上では自分からは動かないくせに文句だけは一丁前だ。レンの足元にも及ばない」


「あのね、僕もお仕事だからやってるだけだよ。本当に婿になったら僕もマグロになるかもね。楽だし」


「レンだったらマグロでもいいぞ。むしろその間レンを自分の思い通りにできるんだ。興奮する」


・・・うわー。


僕は何も言わずに思いっきり肝臓のツボを押す。体調の悪さは精神にも影響するというし、肝臓が良くなればこの変態も少しはましになるんじゃないかな。


「ぐえええ、痛いぞレン。もう少し優しく」


「愛があれば痛みも我慢できるはずだよ」


「が、我慢は出来るが、痛いものは痛いぞ」


「屁理屈ばっかし」


「どっちがだ」


ははは、と笑いあう。多分今日で最後だと思うし、楽しい時間にしてあげよう。


それより、さっきから気になってた話についてだ。


「エリアお姉ちゃん、それでビッグニュースって何なの?」


「ああそれか。いいだろう。話すから一旦マッサージは休憩だ。足が痛い」


「はーい」


そして二人でベッドに腰掛ける。


「実はな、この前王都騎士団が、通称コールズと呼ばれる犯罪組織を捕まえたのだ。そのグループは色々な悪事に手を染めていてな。色んな人種・性別・年齢の奴を仲間にして、仕事に応じて適した人材を投入する。だからレンのように若い奴なんかもグループに属しているわけだ」


これってこの前ヨウお姉さんが捕まえたってやつの話じゃん。


「それって、僕のような男の子もいるの?」


「もちろん男性もいる。いわゆるハニートラップ要員というやつだ。まあ数はとても少ないが。ともあれ問題はそこじゃなくて、お前と近い年齢の奴もいるって話だ。一応年の言ってるやつは奴隷にするにしても働きに期待ができないから見せしめで処刑、というのが一般的なのだがな。若い奴は更生のチャンスもあるし、労働力にもなるから犯罪奴隷として公のオークションに出すんだ。ああもちろん男性は奴隷にはならないぞ。ま、国が斡旋している”お見合い”で結婚するがな」


へー、そうなんだ。男性の扱いについてはちょっと思うところがあるな。っていうか僕ってこの世界の常識何も知らない。村にいる頃は遊んでいただけだし、その後はここに来る人の相手をしていただけ。生きていくのに最低限必要な知識もない、というか前世の知識があるから多少はましだと思うけど、何をすれば犯罪だとか、物価とかそういったことは何も知らない。よくそんなので最初の僕は自分を買い戻すなんて言ってたな。


「人1人を奴隷の身分に落とすのだから、一応私の名の下で承認して奴隷にするわけだが、その中に面白いものがいたんだ。それがこいつさ」


そう言うとエリアお姉ちゃんは立ち上がって、掛けていた黒いコートのポケットから一枚の紙を取り出した。そして僕に手渡す。


その紙を見た瞬間、僕の心臓は激しく鼓動し始めた。息も少し上がっているかもしれない。顔が熱くなって全身から冷や汗が出る。


「ミア、10歳、犯罪奴隷、アール村出身」


内容を覚えていたのか、エリアお姉ちゃんが諳んじる。


「こいつ、レンが大事にしていた女だろう?」

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