11話
あれからエイミちゃんの待つ応接室に行くまでの間、エリアお姉ちゃんはずっとぶつぶつ言ってる。
「所詮私は、、、レンにとってどうでもいい存在なんだ。年増で、女としての魅力なんて当の昔に消え失せた、悲しい人間なんだ。だから寝取られるのもおかしくない。っ、ああ、くそ、くそっ、、、」
ちなみにさっきの会話を聞いていたミアちゃんも、なぜかダークが入っていた。
「お兄ちゃんが、他の女と子どもを作ってた?はは、ありえない。・・・ありえないありえない。だってどう考えてもお兄ちゃんの一番は私だったよね。なんで私より先に子どもがいるわけ?」
あ、部屋に着いた。
「ふ、二人とも?とにかく部屋に入ろう。エリアお姉ちゃんには思ってもないこと言っちゃったし、ほんとにごめん。ミアちゃんもさ、当時はもう会えないと思ってたから。ごめんって」
・・・はは、全然聞いちゃいないや。しょうがないけど、とりあえず入るか。
ガチャっと扉を開ける。いるのはエイミちゃんらしいし、作法みたいなのは気にしない。
「あ、エイミちゃん。久しぶり、元気にしてた?」
「レン君っ!」
いつものように元気に走りこんでくる。
「ちょっとちょっと、お腹に子どもいるんだから、安静にしてないと」
「そ、そうだったね。もう私だけの身体じゃないんだった。・・・私と子ども、それからレン君の身体なんだ」
エイミちゃんと子ども、というのは分かるけど、なんで僕が入るんだ?よくわからないんだけど。
「・・・その、僕の子どもというのは本当?この間に誰か関係を持った人とかいないの?人工授精もしてない?」
「私はレン君一筋!!あの一回でちゃんと当てたの。誰とも関係をもってないし、人工授精もしてない。病院の記録を見てもらえばすぐ分かるよ」
じゃあやっぱり僕との子どもなのか。
どうしよう。エリアお姉ちゃんとは結婚してしまっているし、これは大問題になり兼ねないぞ。女王の夫のスキャンダルなんて、エリアお姉ちゃんの政治生命にも影響するだろうし。
「エイミちゃん、ごめんね疑ったりして。それで、少し聞きたいんだけど、僕との間の子どもっていうのは他に誰が知ってるのかな?」
「そうね、家のものは知っていると思うよ。お母さんが、男性との子どもを授かるなんて奇跡よ!、ってはしゃいでたから屋敷の人はみんな知ってるはず。他は、、、どうだろう?妊娠が分かってからは、健康のためにパーティーとかは出てないし、私の友達とかも知らないんじゃない?」
そうか、ならなんとか隠せる?これ以上広まらないように黙っていてもらえるか頼んでみよう。
「良かった。だったらさ、申し訳ないけど他の人には僕の子どもだってことは黙っててもらえない?あ、もちろん認知はするし責任も取るよ。けど僕はエリアお姉ちゃんと結婚してしまってるし、僕のせいで政治に影響まで出るとだめだから。お願い!この通り!」
必死な僕とは対照的に、エイミちゃんは落ち着いた感じでにやっと笑う。
「大丈夫だよレン君。レン君が私のお願いを聞いてくれれば、何にも問題が起こらないようにしてあげる」
これはあれだ、逆にお願いを聞かなければ問題にすると暗に言ってるタイプの奴だ。
「ちなみにそのお願いって何?」
恐る恐る尋ねる。
「ああ、お願いっていうのは、レン君に私のところに来てほしいの。もちろん女王様と結婚したままでいいの。ただ住む場所を移してほしいってだけ。ね、簡単でしょ?」
「おい待て!!今のは聞き捨てならんぞ!」
いつの間にかこっちの世界に戻っていたエリアお姉ちゃんが口を挿む。
「レンは私の夫だ。夫を寝取ろうとする女のもとへ送る妻などこの世におらん!!」
「分かりました、女王様。では残念ですがあなたの大好きなレン君が、あなたのことなど見向きもせず、この私を孕ませるほど熱烈な愛情を注いでくださっていると自慢しておきますわ。・・・レン君はどうなってしまうんでしょうか?そうでなくとも元男娼ということで王宮内の風当たりも強いはずなのに、妻以外を孕ますなどと知れたらどっちみち王宮内にはいれないと思いますが」
そうなれば私が匿ってあげます、とエイミちゃんは笑う。
「レン君、もしそうなっても恨まないでね。最初に裏切ったのはレン君の方なんだから。私のもとへ来ると言っておいて、女王様のもとへ行ってしまうなんて。とっても悲しかったんだよ。毎日悔しくて悔しくて。でも、そんな節操無しのレン君も愛してる。だから私のもとへ来ると言ったら全部許してあげる。ほら、エイミちゃんについていく、って一言言ってくれるだけでいいの」
ぐぐぐっと歯をかみしめるエリアお姉ちゃん。多分僕が気づいていないだけで、王宮内には相当な反発があるのだろう。男娼みたいな卑しい男を婿にするなどありえない、と昔廊下で耳にしたことがある。僕の姿が見えると、素知らぬ顔で散っていったけど。
ごめんねエリアお姉ちゃん。僕のために色んなこと抱えてたんだね。全然気づいてなかったや。さっきも言いすぎてごめん。本当に心の底から謝るよ。
そこに、暗い顔をしたミアちゃんが、僕とエイミちゃんの間に割って入る。
「もう、うんざりです。女王様も公爵令嬢も好き勝手して!!お兄ちゃんは私といたいんだ!もう放っておいて!!どれだけ頑張ってもお兄ちゃんの心には私がいるの。絶対にお兄ちゃんは手に入らないんだから諦めて!!」
「誰ですかあなた?見たところメイドのようですが。不敬ですよ、今すぐ処罰してもらいましょうか」
だめ、ミアちゃんに手を出さないで。エリアお姉ちゃんをこれ以上苦しめないで。
もう、僕を苦しめないで。
「もうどうでもいいよ。自由に生きようとしてた僕がバカだった。野盗につかまった時点で終わってたんだ」
なんか疲れちゃった。
「みんなのことを愛するよ。それじゃダメなの?僕を束縛して何がしたいのさ。僕にどうして欲しいんだよ。人のことものみたいに独占欲ぶちまけて!僕の意思は見ないのか!」
みんなが黙る。さっきも怒ったし、これじゃ僕が癇癪持ちみたいだ。
「いいよもう。ミアちゃん、村に戻ろう。何もかもやり直すんだ。あの時から2年も経ってないんだから、まだできるはずだよ」
ミアちゃんが満足げに頷く。
「「そんなことはさせない」」
なんだよ、さっきまでけんかしてたくせに随分と息が合うじゃないか。
「レンは疲れてるんだきっと。しばらく休もう。ほら、部屋に戻って眠っているんだ。その間に話を付けておく」
「レン君、辛いね。すこし休んでおいて。お話は済ませておくから」
「分かった。ミアちゃん、部屋に戻ろう。しばらく誰とも話したくない」
お店で働いてるときも心の調子が悪くなる時が何回かあった。多分それだ。しばらく休めば楽になるはず。
「ミアちゃん、一緒に寝よ。エッチなのじゃなくて、横で抱きしめていて欲しい」
「お兄ちゃん・・・。やっぱりお兄ちゃんを癒せるのは私だけだよ。私は一緒にいるからね」