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1話

ある日、おかしな世界に転生した。男女比が1対10000ととんでもなく偏っていて、おまけに女性は力も性欲も強い。一方男性は力が弱く、女性に組み伏せられたら絶対に逃げられないし性欲も薄い。


いつ襲われるか分からないといった恐怖から女性を恐れる人や、小さい頃から女性に傅かれて育ったために女性を都合の良い道具か何かだと勘違いしている人がほとんどらしい。だから女性と結婚する人はほとんどいないそう。それで種として大丈夫なのかと思ったけど、人工授精ができるから大丈夫なんだって。斯く言う僕も人工授精で生まれたみたい。どおりでお父さんがいないわけだ。


小さな村の村長の家に生まれた僕は、とても幸せに暮らしていた。村の女性はギラギラした目で見てくるが、襲われたことはなかったしみんな良くしてくれる。むしろ元の世界の価値観を持っているので、そういった目を向けることは微笑ましくすら見えた。


だから近所の家に生まれた僕より一つ下の女の子、僕が溺愛するミアちゃんが僕の胸、おしり、そして股間をじろじろ見ていたからって気にしない。いつもお兄ちゃんお兄ちゃんと何をするにもついてきて、あわよくば僕に触ろうと必死なのもすごく可愛かった。


のどかな村で平和な毎日。こんな日がずっと続けばいいなぁと思っていた。


でも、今から2か月前、僕が10歳、ミアちゃんが9歳になったばかりのころ、野盗に村が襲われたんだ。警備にあたっていた優しいお姉ちゃんは殺され、外で遊んでいたやんちゃな姉ちゃんたちも殺されて。村長の家には金があるだろうと僕の家が襲われ、ベッドの下に隠れていた僕は、恐怖で震えてしまい物音に気付いた奴らにつかまってしまった。連れていかれるとき、死んだ村の人が並べられていたがその中にミアは見当たらず、ちゃんと隠れて生き延びたことに少しだけほっとした。


それからは苦しい日々だった。僕みたいな見目麗しい男性は値段が付くから、と奴隷として売られることが決まった。もちろん非合法だ。この世界では男性が奴隷となることはいかなる理由があっても禁止されている。遠い町まで運ばれる最中、何度も野盗の人たちが僕を舐め回したり、舐めさせられたりもした。この世界の女性はみんな美女・美少女ばかりで、野盗の人たちもそうだった。けれど風呂に入っていないので恐ろしく臭いから苦痛でしかなかった。何度も何度も吐いて、あんまり吐きすぎるもんだから、もう胃液すら出なくなっていた。


ようやく奴隷商に引き渡されたころにはすっかり滅入っていた。僕を見て、これはとんでもない掘り出し物だ、と喜んでいるのを僕はぼぉっと見ていたのを覚えている。普通なら闇のオークションにかけられ買われるが、僕はそうではなかった。奴隷商が持つ独自のルートでとあるお店に買われることが決まったんだ。お店に行くときに奴隷商から、「ここは奴隷の待遇がすごくいい場所だ。生まれ持った容姿に感謝しなさい」と言われた。多分僕は何も返事しなかったと思う。とにかくみんなのいる村に帰りたいとしか思っていなかったから、奴隷の待遇なんてどうでもよかったんだ。


店ではオーナーさんから部屋を与えられた。この部屋だけで生活できるように全てを完備しているから、何があっても部屋を出てはいけないこと。何かあったら部屋にあるベルを鳴らすこと。それから時折やってくるお客さんの相手をすること。この3つを守っていれば衣食住は保証することを言われた。


僕は10歳だけど前世の記憶を持っている。だからここで何をするかなんて分かりきっていた。完全に非合法な風俗店だ。でもやるしかない。だってオーナーさんが部屋を出ていくときに、たくさん頑張れば自分を買いなおすこともできる、と言ったんだ。村に帰るためにはお客さんを喜ばせていっぱいお金を落としてもらう。その方法しかないんだ。僕は覚悟を決めてその日は寝た。


オーナーさんに買われてしばらくは体をきれいにしたり、瘦せていた体型をもとに戻したりして過ごした。そして、多分ここにきて1月くらいたった今日、ついに僕の部屋にお客さんが来た。


扉を開けて入ってきたのは黒いコートに身を包んだ人で、フードを被っていたので顔は見えなかった。その後ろには護衛らしきお姉さんたち。フードの人が下がるよう指示すると、「はい、女王様」といい部屋を出ていった。すると女王様と言われた人はコートとフードを取り去る。


「女王様なの?」


無邪気な笑みで僕は聞いた。でも心の中は違う。ここは非合法な風俗店だ。本来咎めるべき女王がわざわざ足を運んでいる。この人は僕みたいな奴隷がいることも、この店が存在することも黙認しているんだ。僕が本当に何も知らない10歳だったら女王様に当たっていたかもしれない。しかしそんなことをすれば、立場がまずくなるのは僕の方だ。だから僕は私情を挟まず、この人を楽しませないといけない。


「ああそうだ。怖いか?」


「ううん。すごくきれいだなぁって」


すると女王はニヤッと笑い僕の頭を撫でた。それから抱きしめられて頭が胸に埋まる。


「お前は可愛い奴だな。名前は何という?」


「僕の名前はレンだよ」


「そうか、気に入った。夜の内に帰ろうかと思っていたが、レンを朝まで買おう。ちょっと待っていてくれ」


女王は僕から離れて扉の方へ向かう。扉前で控えている護衛達と何やら話をしてまた戻ってきた。


「よし、これで大丈夫だ。朝まで楽しもう」


この人僕が10歳ってわかってるのかな?普通の10歳なんて朝まで起きてたりしないよ。


「うん、じゃあこっち座ろ」


女王の手を握ってソファへと誘う。触った瞬間驚いたような表情を見せたが、すぐににやにやした顔になる。キャバクラのおっさんとかってこんな感じなのかな。


2人ならんでソファに座る。


「女王様の名前ってなんていうの?」


「私か?私の名前を知らぬとは不敬な。ふふ、その態度といい本当に何も知らないんだな。私はエリアという。覚えておけ、これからもちょこちょこ来るかもしれんしな」


「うん、エリアお姉ちゃんね。覚えとくよ。それよりも絶対来てね。いっぱい来てくれたら好きになっちゃうかも」


「なっ!!・・・こほん、まあ、それは今日次第だな。レンが楽しませてくれたら考えてやろう」


意外とチョロいかもこの人。まあ、この世界の男性は女性におびえてたり、厳しい態度をとるのが普通だから、こういう風に積極的なのは受けがいいんだろう。なら固定客を増やすために頑張りますか。


僕はエリアお姉ちゃんの腕を抱きかかえて肩に頭を寄せる。それからエリアお姉ちゃんの顔を上目遣いで見上げる。


「そうなんだ。なら頑張らないとだね」


エリアお姉ちゃん、顔赤いよ。しかも鼻の下伸びてるし。うわー、僕の頭のにおい滅茶苦茶嗅がれてる。っていうかなんか喋ってよ。間が持たないじゃん。


「なんか飲み物でも飲もっか。ジュースとかあるよ。僕は飲めないけどお酒も頼めばもらえると思うし」


「そ、そうだな。ではこの店で一番高い酒を頼んでやろう。レンも好きなものを頼むといい」


さすが女王様、太っ腹だ。


「えー!いいの!ありがとう!エリアお姉ちゃんって凄いんだね!!」


無邪気な感じで興奮気味に喜びながら、腕をちょっと引っ張って顔を近づける。目を見つめながらにこっと笑いかける。


「目がすっごくきれい」


その瞬間、後頭部を掴まれ思いっきり顔を引き寄せられる。


「んーーー!!」


気づいたら激しいキスをされていた。初めてだったんだけど。口の周りがべとべと。これがコイキングキッスというやつか。僕は化粧なんてしてないから口周りが汚れるだけだけど、前世の風俗嬢とか大変だったろうな。今気持ちが分かったよ。


「ぷはっ!、、、激しいよぉ」


「ふーー!ふーー!」


だめだ、目が血走ってる。まだ早すぎるでしょ、来て30分しか経ってないよ。お酒も頼まないといけないし。そうだ、ベル鳴らしちゃお。


ーーちりんちりんーー


その音ではっとなったのか、エリアお姉ちゃんが正気を取り戻した。


「す、すまない。ちょっと急ぎすぎたようだな。酒でも飲んで少し落ち着こう」


「そうだね。まだ夜は長いし」


それから注文を取りに来たお姉さんにお酒を頼んでいる間に、近くのタオルで口を拭いておいた。


お姉さんが部屋を出ていくと部屋が静かになった。さっきまでイチャイチャいい雰囲気だったのに、空気壊されたし。10歳にコイキングキッスなんて変態すぎだよ。ショタコン女王め。


「レンは魔性だな。他に何人も女を手玉に取ってきたんだろう?」


「んーん、初めてだよ。エリアお姉ちゃんが最初のお客さんだもん」


前世でも処女信仰みたいなものがあったからなぁ。この世界でも初めてっていうのはそれなりの価値があるんだろうか?


「は、初めて?!本当かそれは・・・」


エリアお姉ちゃんはごくりと生唾を飲む。音聞こえてますよ。10歳だったらそれが普通だよね。それより早く飲み物来ないかな。


「うん本当だよ。初めてのお客さんがエリアお姉ちゃんでよかったー」


私が初めて、ふふふふふ、とぶつぶつ言っているエリアお姉ちゃんはトリップしてこっちの話は聞いてないみたい。


しばらく待っているとお姉さんが飲み物を持ってきた。何かすっごく高そうなお酒と、オレンジジュースが机に置かれる。お姉さんは僕にお酒は決して飲まないように、と言い部屋を後にした。


「ほらエリアお姉ちゃん、お酒とジュース来たよ。一緒に飲も」


「あ、ああ」


「じゃあお酒注ぐね」


エリアお姉ちゃんはこくりとうなづく。なんかさっきの”初めて”っていうのから急に口数減ってるんだよね。そんなに童貞が好きなのかな。


グラスに注いだのを渡すとグイっと一気に飲み干す。


「おおー、凄い飲みっぷり。かっこいいね。もう一杯入れようか?」


「ああ、入れてくれ」


それから何度もお代わりを繰り返し、追加のボトルを何本か頼んだ。どれだけ飲むんだこの人。


ようやく酔ってきたみたいで、今度はやたらと饒舌になり始めた。


「なあレン。私は今日のこの時間だけで好きになってしまったみたいだ」


「そうなの?じゃあこれからも僕に会いに来てくれる?」


「当たり前だろ。レンのためなら毎日でも来る」


ええ、それはさすがにやりすぎだよ。ホスト狂いの人でもそこまでできる人なかなかいないでしょ。

今日だけで既に、前世の価値で言うと500万くらいは軽くいってるし、途中から計算してないけどもしかしたら1000万いってるかもしれない。


「ほんと?嬉しい!でも毎日朝帰りだと体に悪いし、仕事に影響でないような範囲でいいよ」


「うーん、レンは優しいな。それにこんなかっこいいし。食べちゃいたい」


遂にか。僕もここで童貞捨てるんだな。相手は女王様だし、別にいいけど。こうなるんだったらミアちゃんにあげたらよかった。あ、でもミアちゃんまだ9歳か。さすがに無理だよね。


「うん、いいよ。僕を食べて」


そのまま僕はベッドに連れていかれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日の朝、目が覚めると隣にはエリアお姉ちゃんがまだ寝ていた。この世界の女性は性欲が強いと聞いていたけど本当だったよ。前世の価値観が無かったら僕だって恐怖するくらいのものだった。いざ始まると、休憩せずに何時間するんだっていうくらい長い。エロ漫画じゃないんだからさ。しかも興に乗ってきたのか知らないけど、”レンは私のものだ!誰にもやるもんか!レンも私のものだって言え!!”って連呼してくるし。男性が少ないから独占欲強いのは分かるけど、そんなの僕みたいな商売男以外にやったら嫌われるよ。


なんて考え事してたらエリアお姉ちゃんが起きてきた。


「おはよう。エリアお姉ちゃん。昨日はすごかったね。満足できた?」


「いや、全然。私は全く満たされていない。まだまだレンが欲しい」


ええ、性欲お化けじゃん。僕男なのに立てないくらい足腰がくがくなんだけど。


「・・・さすがにもうできないよ。じゃあまた僕のこと買ってね。そしたら続きしようよ」


「また、買う、か・・・」


とても思いつめた表情をしている。どうしたんだろ?もしかしてお金ないとかかな。それなら残念だけどもう会えないかな。


「なぁ、レン。私がレンのこと身請けするって言ったら付いてきてくれるか?」


え、身請け?驚いたな。


「うーん気持ちは嬉しいけど、難しいかな。エリアお姉ちゃんはとっても魅力的な人だけど。僕は自分の村に帰りたいんだ。そのためには自分で自分を買い戻さないといけない。エリアお姉ちゃんのとこに行っちゃったらもう村には帰れないよね」


「確かに、村で暮らすことは出来ない。だが!定期的になら村に連れていけるし、普段は寂しくないように何でも買ってやる。村以外にも色んな所に連れて行ってやろう。びっくりするぞ、この世には神秘的な風景がいっぱいある。あとご飯もおいしいぞ。うちには専属の料理人がいてな、こいつの腕前が凄いんだ」


これだけ言ってもらえたら嬉しいけどさ。本当は村に帰りたいんじゃなくてミアちゃんに会いたいんだよね。でもそんなこと言ったら、独占欲の塊みたいなエリアお姉ちゃんが、ミアちゃんに何するか分からない。しかも僕が奴隷になってここに買われたことも黙認してるし。身請けなんて人をものみたいに扱いやがって。金や物で釣られるような人間じゃないんだ僕は。身請けなんて誰からも受けたくない。


「ごめんね。やっぱり村で暮らせないと厳しいかな」


「っ、、、。私の権力を使えばレンの一人くらいすぐにでも連れて帰ることができるぞ」


「いいよ別に。でも僕の心は二度と手に入らなくなるよ。むなしいね。それにエリアお姉ちゃんのこと恨むと思う」


「レ、レンに嫌われるのは嫌だ。でも、今連れて行かないとレンが他の女に買われてしまう。我慢できっこないそんなこと。レンには私だけ見ていてほしい」


重い。重すぎるよエリアお姉ちゃん。たった一日でこれとか。さすがにこの世界の女性みんながそうではないよね。エリアお姉ちゃんが特別なんだよね。


「そこまで本気だったら、毎日買いにくればいいじゃん。言ってたよね。女王様だしお金はあるんでしょ?」


「お金は問題ないが。しかし、私は忙しいのだ。あれはその場の雰囲気で言っただけで毎日はさすがに厳しい。今回だってたまたま休みが取れたから来たのであって。次に来れるのは1週間後か2週間後か、もっと先になるかもしれない」


「だったら仕方ないね。僕も自分を買い戻すためにお客さんを取らないとダメなんだ」


こんこん、と扉がノックされる。そろそろ時間だ。


「じゃあまた今度いっぱい話そうね、エリアお姉ちゃん」


「・・・私は諦めないぞ。レンの心を掴むまで何度だって通ってやる」


怖すぎない?前世だったら出禁案件にしてもいいくらいじゃない。ガチ恋なんて相手するのしんどいよ。


エリアお姉ちゃんは黒いコートとフードを被り部屋を出ていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


扉の外、そこには二人の護衛が待機していた。


「おい、レンのことを調べ上げろ。特に住んでいた村のことは念入りにな」


「はっ!」


「あれだけ村に拘るのには訳があるはず。もしかしたらレンの心を掴むチャンスがあるかもしれん。急がねば」


そのまま早足にエリアは店を去った。



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