94:束の間の休息と覚悟への道
クノロスとウラノスに事実上敗北したグレイスたち。
エルフであるジーンとある人物によってことなきを得たのだった。
目を開くと私はベッドの上に横たわっていた。見渡すとレイアさんもサバトも横たわっているのが見えた。だが、ジーンがいなかった。一瞬、ヤな予感がしたがその勘ははずれた。
奥の方からジーンが薬草を複数持ってやってきた。
「よかった、グレイス。起きたのね」
「ジーン! あなたこそ無事だったのね。それで、ここは? 革命軍の拠点に戻ってきたの?」
「ううん。そこまでは......」
そういうと、もう一人の人影がジーンが出てきた通り口から現れた。
「私の自宅だ。グレイス・アルマン」
「あんた、王国騎士団の」
「キックスだ。だが、よくウラノス様たちの猛攻から全員助かったものだ」
私たちは無事だったの? 始末されそうな雰囲気満々にしておきながらもどうして......。
『お前は一度死んでいる。グレイス・アルマン』
「は? マリス、お前何言ってるんだよ」
『致命傷ですんだものの、息があれば当然始末されよう。だが、私も無駄死になどしたくはない。だからこそ、お前の心臓を止めた』
え?止めた? 私は胸のふくらみをぎゅっと押し付けて心臓の鼓動を聞き取る。ドクドクと手を通して脈打つ心臓の鼓動を感じてホッとするもマリスの言葉にはやっぱり疑問を感じる。
「いや、動いとるやないかい?」
『数分後、私が物理的に動かしたからな。その間の記憶などないだろう。ただ、お前は私の賭けに勝っただけだ。死ねばそれだけの人間というだけの話だ』
「それってお前も死ぬだろ」
マリスはフンと鼻で笑うだけだった。時々彼の行動には悩ませられる。信じていいのか、信じない方がいいのか......。ただ、一点。「彼は復讐を終えるまで私を殺さない」という一点だけは信じていいのかもしれない。 キックスは私たちの言葉を聞いて少し納得した。
「君たちらしい野蛮な方法だ。......そういえば、黒魔術には人を仮死状態にさせる奇妙な魔法があるというが、あの二人は黒魔術を使えるのか?」
「いや、そんなのみたことない......。ジーンは?」
「黒魔術ってなに?」
「ああ、そっか。知ってるわけないのか。ごめん、忘れて。じゃあ、どうやって助かったの?」
そういうと、彼女は少し下を向いた後そのまま頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたたちを置いて逃げたの......」
「いいのよ。あなたの無事がなによりも最優先事項よ」
「逃げた先に私がいたこともかなりの強運だがな」
キックスは腕を組んで呆れた表情を見せた。すると、私たちの声が目覚ましになったのか、サバトが目覚めた。サバトは、頭を抑えながら自分の周りを見渡していた。
「おはよ、サバト」
「あれ? グレイス。 どうなったの、僕たち」
「一応、助かったみたい。ジーンと、キックスのおかげでね」
ジーンは、頭を抱えるサバトにハッと自分の役割を思い出したかのように薬草を潰して水の魔法を利用してポーションとして生成して手渡した。その後、私にも渡してきた。
「苦っ!」
「はは。サバト、残さずこぼさずに飲まないとダメじゃない」
そう笑いながら、私はグイと飲み干す。相変わらず味はしないが、これ以上に味覚がないことに幸福を思えたことはなかった。
「そ、そういうグレイスは平気なのかい?」
「大丈夫。私、マリスと契約してから味覚なくなってるから」
「え?」
「なんだって?」
思わず口を滑らせてしまった。誰にも言うまいと誓っていたことを行ってしまった。サバトとジーンはこちらを向いて目を大きく見開いていた。いや、サバトにおいてはにらみつけていたといっても過言ではない。
「大丈夫、味覚と痛覚がないってだけ。生活には支障ないよ」
「大ありだよ! どうして相談してくれないんだ! 対策だってあったはずだろ!」
『こいつは私と契約した』
「お前には聞いてない」
『その代償として味覚や痛覚といった感覚を失ったのだ』
「もう聞きたくない!」
『失うものは私にも未知だが契約した以上、失ったものを取り返すことはできない。それが契約の条件だ。それを承知でグレイスは私と契約した。そうだろ』
「承知もなにも、受け入れざるを得ないってだけよ」
サバトは私の言葉を聞くより前に、ベッドから飛び降りて私の隣に立つマリスの元に悲痛な顔をしながらたどり着く。
「君は、どうしてそう自由になろうとするたびに遠くに行ってしまうんだ......。君みたいな悪魔が引っ付かなければ!! くそっ! 僕は、どうしてこんなに不甲斐ないんだ!!」
ゆらめくマリスを捉えられないサバトはただ、マリスの立つ真後ろの壁を叩くしかなかった。
『......』
「私はどこにも行かないわ、約束する。こんな戦い終わらせましょうよ。マリスや私、みんなが自由に幸せになれる世界にするために......。そのためにもこれまで通り、隣で支えてほしいの。だって仲間でしょ?」
「仲間......ね。それでも、マリスがいる限り僕は幸せになれそうにないや......」
レイアさんは今だ、ベッドから起きてこない。私たち以上に重症だったのだろう。今はそっとしてあげた方がよさそうだ。ジーンに連れられてサバトはベッドに寝かしつけられた。
しばらくすると、私たちもまた寝かしつけられた。だけど、さっきまで寝ていたせいであまり寝れる気がしない。ベッドに深く腰掛けて物思いにふけていると、マリスが床に座り込み小声で話しかけてきた。
『先ほどのサバトの発言はどういう意味だ』
「サバトは、私のことが好きだけど、あんたが邪魔ってことじゃない?」
『人間の恋愛感情はわからん。恋愛など、邪魔な感情なだけだろう』
「恋愛することこそ、幸せだっていう人もいるよ」
『私には到底無縁の感情だな。私の嗜好はやはり恐怖した姿を見た後に殺すことだ』
「それこそ、相容れない感情よ。それさえなければ一緒に暮らしてあげてもいいのに」
『気味の悪いことを言うな。私は悪魔だ。お前たちとは住む世界が違う。違うからこそ、その世界に焦がれるのだろう?』
「それってあんたにも言えるんじゃない?」
その瞬間、マリスは押し黙った。なんだ図星かと拍子抜けた私に眠気が急に襲い掛かってきた。ベッドに横たわり寝ようとすると、マリスは逆にベッドに座り込んできた。座ったところが少したゆんで、寝ずらい。ふと、彼の方を見ると何を考えているのか、窓の外の星をただじっと眺めていた。




