92:クノロスとウラノス、そしてセイネプトス
新たにグレイスの前に現れた天使、クノロス、ウラノス、セイネプトス。
彼らは何を思い、なにをするのか......。
「我が名はセイネプトス。偉大なる父にして母である、ルシエルにより産み落とされし天界十二使の長である。我が兄弟たちがたった一人の人間にやられていると聞いたが、それは貴様か?」
セイネプトスという天使は、私に指をさした。
「そうだけど?」
「偉大な父の遺児とともにこの世界を渡り歩いてきたというのに、貴様はそれさえも無下にし反逆ののろしをあげた。今こそ、遺児を我が御許に置き世界を創り変えん」
そんなことを言われても私たちは、端から天使に付き従う気なんてなかった。
それはマリスも同じだ。彼は私の中から普通に実体を自由に出てきて怒りを表した。
『私は貴様らと兄弟になった覚えはない! 私は、悪魔として誇りをもって生きている。ルシエルのものでも貴様らのものでもない』
「あんたらの説教を聞いてる暇はないの。あんたたちと対等に生きることができないのなら、いっそのことあんたらを殺すわ」
そういうと、森の中を浮遊する小さい体の天使であるクノロスが口がどこなのか、いやそもそも顔がどこなのかもわからないが私たちを嘲笑しているようだ。
「おもしれえ奴だなぁ。天使を殺してきた奴ってどんだけ強いんだぁ?」
「他の天使たちが弱いだけだよ。ただ、天使に逆らう者は排除した方がいいでしょうねぇ」
体の細長い方のウラノスは口を大きく開いてセイネプトスに意見する。
セイネプトスは、私たちよりも大きな腕を広げて彼らをまとめる。
「我々の再建する人類の文明に彼らはもう必要ない。君たちに処理を任せよう」
「セイネプトス様、参りましょう。我々のための美しい世界へするために」
そういうと、ウィナスとセイネプトスは立ち去ろうとしていた。だが、ジーンが飛び出してきてそれらを止めようと大声を出した。
「待って!」
二人は振り向くと、ジーンは続けて胸を両手で押さえながら悲痛に訴える。
「一つだけ聞かせて! その世界って、お父さんとお母さんの病気もよくなる?」
セイネプトスは足を使わず、フワーッと草木を掻き分けて戻ってきた。
そしてジーンを見下ろしていた。
「我らと契約し、我らの血となり肉となるなら望む肉体へと再構成しよう。我々にはそれが可能だ。すべてを脱し、すべてを戻す。それが我々の理想郷だ。そこに今ある不幸も不平等もない」
「それは違う人になるってことなの?」
「魂が同じである限り、体が変わろうが同じであろう?」
「意味わかんないよ! そんなの同じじゃないよ! お父さんとお母さんが違う人に生き返るだなんて! 私は、今のまま治療できる方法が知りたいの!」
「エルフもまた、魂の価値の知らぬ愚か者か。殺しても我が主は赦してくれるだろう」
そういうと、ウィナスと相槌をかわして瞬間移動した。ジーンは追いかけるも、そこにはもう二人の姿はなく、ただ瞬間移動の際の強風になぎ倒された巨木が横ばいになっていただけだった。
そんなことも気にせずにウラノスとクノロスは私たちに立ちふさがる。
「ようやく俺たちの出番かぁ。さあ、お望みの殺し合いと行こうじゃねえか!」
「楽しみは僕にも取っておいてね、クノロス」
二人は互いのわき腹から、血を吐き出しながら刀を取り出した。その刀は肋骨のように湾曲しており、刃先は鋭利に美しく輝いていた。ウラノスはまず、レイアさんを目も止まらぬ速さで手中に収めていった。
「瞬間移動!?」
「弱そうだと思ったけど、意外とやるね。君」
「舐めないでください! これでも、元金級ですから」
続いてジーンの元にクノロスがやってくるが、力の差がありすぎる。すんでのところで私たちがひきつけることに成功した。
「俺の速さについてこれるとはやるじゃねえか! 天使を殺してきたってのもハッタリじゃなさそうだ」
じりじりと刀身が私の眼前に迫ってくる。マリスとともに右手で抑えつつ、左手で相手のだいたい腹部あたりに拳を突きつける。
「ハッタリなわけあるか! どれだけ、私たちが血のにじむ思いでお前らを殺してきたかお前にわかるか!」
クノロスは浮いた体をふらつかせるもすぐに立て直す。こいつ、いままでのと違う生物の構造だから弱点がわかりにくい!
「......知らねえなぁ。だが、お前が面白いことはわかった。だから、もっと面白いものを見せてやる! 黒魔術:反祈祷!」
クノロスの身体に見合わない大きな手を広げると魔法陣が現れた。その陣の中から私の目の前で死んだ蛇の悪魔、ゴーゴンが出てきた。これは、ガイウスの技に似てるような。
「またガイウスと同じ死者蘇生系の魔法か!」
「あの土人形遊びと一緒にすんな! これは、人間ではないものを復活させる契約魔法だ。契約はそいつが死ぬまで。さぁ、俺の踊り子人形となり、死ぬまで踊れ!」
ゴーゴンは閉じていた眼をカッと開いたが、瞬間的に私は目を閉じた。レイアさんたちも目を覆い、難を逃れた。ゴーゴンは、私に向かって来た後、その蛇腹のしっぽを首に巻き付けてきた。
「石化攻撃が無理と見て、物理攻撃でしかけてきたか! お前にはもう興味ない!」
そういって、私は彼女の眼に向かって振り向きざまに魔法弾を打ち放った。土の魔法を使用してより硬度の高い銀を生成して撃ったのが聞いたのか、しっぽが緩み、草木にのたうち回っていた。気にせずサバトが自分の持つ槍で彼女の胸を一刺しすると、すぐにぱたりと静かになった。
「どうやら、あの天使の魔術はガイウスみたいに大軍団を錬成したりすることはできなさそうだな。グレイス、あいつが悪魔を解き放ったら今度は僕が引き受ける。だから、彼に集中してくれ」
「わかった!」
「私も、サバトさんと一緒に戦います!」
ジーンは、サバトの手を握りはじめてクノロスの方へ駆けていく。クノロスは少し弱めの悪魔オーガを再生させて応戦していった。私はそれを横目にクノロス本体へ向かう。
「そうはさせないよ。黒魔術:歪界魔武装 ベヒモス! 我が武器となれ」
そういったウラノスは、レイアさんの頭上からブラックホールを出現させた。その瞬間に空間が歪んだように動きがゆっくりになった。ゆっくりとブラックホールの方を見ると、その中から四つ足の巨獣ベヒモスが現れた。だが、その瞬間、ブラックホールの影響か、その巨躯が崩壊していく。そして、ベヒモスは形を変えて巨大なハンマーとなっていた。 そして、ウラノスはそれをふりかざしてレイアさんを吹き飛ばしてこちらへ飛び出しきた。
「こいつ、デカいくせに速い!」
「クノロスは僕が守る......。天使をないがしろにするやつは全部死んでしまえ!」
ここで死ぬわけにはいかない! どうせ死ぬなら、自分が一番幸せな瞬間にゆっくりと眠るように死にたい! ここは私自身が踏ん張るしかないだろ!!
他の天使たちと段違いで強力な力を持つクノロスとウラノス。
グレイスたちは二人を切り抜けていけるのか。




