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91:天使と悪魔の狂想曲

グレイスたちは見事ユピトリスの張った包囲網を破った。

天使とは分かり合えることのできないと悟った彼女は静かに怒りという沼に使っていく。

バァン!


身体を伏せたと同時に大きな爆発音がした。いや、私たちはいいけどこれサバトたちは無事かなぁ?

風呂敷のようになっていたマリスから少し外をのぞくと、地上の風景が見えた。

だが、地上より数メートル上空から落ちていた。


「わああああああ! あれ、痛くない」


「いたたた。グレイス、大丈夫ですか?」


レイアが、鼻息が聞こえるくらい近い距離で話しかけてきた。少しだけいい匂いがした。

匂いなんて久しぶりに嗅いだ気がする。


「う、うん。それよりマリス、他の子たちは?」


『知るものか。生きていたら奇跡だな』


そう言っていると、杖を突きながら歩いてくる人影が見えた。


「マリス、君は加減というものを知らないらしいな」


「生きていたとは、運のいいやつだな。サバト」


サバトは何とか無事だったらしい。聞くと、危機を察知して自分を氷の中に閉じ込めていたみたいだ。

残るはジーンだ。彼女はただ両親の治療法を探しているだけなのに、ここで死んでしまったら意味がない。 私たちは草木をかき分けジーンを探した。


「よかった。草がクッションの役割をしてたみたいで息はあるみたい」


「少し、ほっとしました。エリエ達に顔向けできませんからね」


レイアが肩をなでおろすと、ジーンは目を覚まして咳き込んでいた。


「けほ、けほ......。ここは?」


「大丈夫?」


恐る恐る彼女に近づいて聞いてみると、彼女は少女らしい笑顔で笑いかけてきた。


「うん、大丈夫」


ジーンは私の手を取り、立ち上がると周りを見渡した。彼女にとっては、周りにある見知らぬ木々もじ遠くに見える城の城壁も初めてことでいっぱいなのだろう。私もここに来たことなんてないけど、これまで幾度となく森を散歩していたから庭のような安心感を感じる。


「大人しくしていれば安らかな眠りにつけるというのに! 君たちはそんなに地獄に堕ちたいのか!」


ユピトリスの下半身を失くし、這いずりながらこちらに向かってくる姿は天使というより怪異に近い。

彼の眼差しは鋭くもあるがそこに生気は感じられない。


「ずっと自由のない天国より、少しでも自由を感じる今の方がいいってだけの話よ」


天使とは分かり合えない。彼らと私たちとでは決定的に価値観が違うんだ。それは、私の隣にいるマリスも同じことで......。でも、同じといえるのかな? それでも、今は銃口を天使の方へと向ける。


「あんたには悪いけど、死んでもらうわ。言い残すことは?」


「私たちが作り上げてきた恒久的平和を乱したものにいうことはない」


頭に一発、そして胸の部分に一発ずつ撃つとユピトリスはもう新たに姿や形を変えて現れることはなかった。残骸を囲み、私たちは勝利をかみしめる。


「あーあ、殺しちゃったね。じゃあ、僕は城に戻らせてもらうよ。国を立て直さないとね」


ウィナスが当然のごとく隙間風のように立ち去ろうとするも、レイアの持つ長い刀が彼の首すじすれすれを通る。


「待ってください!」


「なんだい? こんな物騒なものを突き立てて」


そういうと、彼女は刀を収めてウィナスに手を伸ばした。


「すみません、野蛮な止め方をしてしまいました。......彼は、残念ながら私たちとの協議にすらなりませんでした。ですが、私たちと共闘できたあなたとなら平和的解決も可能かと」


ウィナスはレイアの抱くかすかな希望さえも打ち砕くように鼻で笑う。


「なんの冗談? 今の君たち人間には美しさを見いだせない。人間はもっと純朴で愚かで、そして従順な生き物だろ? 君たちこそその武器を下ろし、私に美しい土下座をすれば君たちの過ちだけでも赦してあげるけど?」


そういうと、森の外からザッザッという音が大量に聞こえてくる。音は次第にこちらへ向かっていた。しばらくすると、王国の旗が見え始めた。


「あれは、王国軍? ウィナス、貴様! 僕たちを裏切ったのか!?」


サバトは自分の槍を振り回してウィナスに攻撃しようとするも彼は瞬時に避けていく。そして、ふわっとサバトの槍の上に立って見せた。


「サバトくん、君は勘違いをしている。僕は元から君たちとユピトリスをまとめて殺すつもりでいた。彼は僕の子供たちを愚弄したからね。そう、僕の最高のしもべであり悪魔の子魔人を彼はけなした。美しくないとね」


ウィナスの顔はどんどんと険悪になっていく。眉を顰めるごとに彼の周りに突風が舞い上がっていく。サバトの槍から降りた後、国王軍を率いていたパンドラの元へ向かい、彼の頭をなでた。


「いい子だ。ちゃんと、時間通りに来てくれたね。いつ見ても君の率いる金級魔人軍団いや、神聖天使警団と呼ぶべきかな? 彼らの美しさは惚れ惚れするよ」


私たちを蚊帳の外において彼らは話を続けていく。一体何の話をしてるんだ?


「いえ、我が主いてこその我々です。それよりも、ウィナス様に朗報がございます」


「なんだい?」


「あの方たちが動きました」


「ほう、やっとか」


「あの方たちって?」


蚊帳の外にいるのもつまらなくなったので割って入ると、ウィナスは不気味な笑みを浮かべた。


「すぐにわかるよ。君たちも驚くと思うよ」


そうこうしているうちに、またゴーン、ゴーンという鐘の音が響いてきた。鐘の音は地鳴りのように地面を揺らして音を鳴らしているようだった。しばらくすると光が差し込み、そこから3人の影が現れた。光が消えると、その3人があらわになった。


「お、これが現生人類ってやつか。ずいぶんとデカいな」


一人はいままで見た中で一番小さな天使だった。彼は私たちを見上げて楽しそうだ。

それに対して、私たちの身長の5倍くらい大きくほっそりとした天使は小さな天使に指摘する。


「君が小さいだけだよ、クノロス」


「なんだと? ウラノス貴様はよくオレに楯突くなァ? オレは時を守護って、わわわ!!」


小さな天使と細長い天使は仲がいいのやら悪いのやらわからないが私たちの前で口喧嘩をしている。

だが、それはもう一人の登場で一気に空気が変わった。


「クノロス、ウラノス。人間の前で恥をさらすな。お前たちは下がって静かにしていなさい」


その後ろから現れたのは天使を統べる長のような雰囲気を纏った白い服の男だった。男は、クノロスウラノスという天使をいともたやすく冷静にさせて頭を垂れさせていた。一体何者なんだこの天使は......。



グレイスたちはもう後戻りのできない旅の一歩を踏み出していく。

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