90:天使と悪魔の行進曲
ユピトリスの包囲網は手ごわい。
だが、活路を見出したグレイスはレイアと合流する。
木々を次々と殴り倒していくと、また別の空間につながっていた。その空間は先いたところと似ていて、木々に囲まれておりレイアさんが向かいの壁を調査していた。
「レイアさん!」
「グレイス? それに風の天使まで......。どうしてそんな人がこんなところに」
「まあ、いろいろあって今はここから出る手伝いをさせてる。それで、大丈夫?」
「私は大丈夫です。ですが、単独行動しようという話ではなかったのですか?」
多分、ユピトリスの策略なんだろうけどここはレイアさんに聞いてみるしかない。
「初めに別れて戦おうって言ったのってレイアさんじゃないの?」
「いえ......。私はなにも......。どういうことでしょう」
「あいつ、人は惑わされやすい生き物だとかなんとか言ってた。もしかしたらあいつの能力かも」
やはり、私たちを分断させて追い込む気だったのか? 考えを整理していたら私とレイアさんを引き裂くように、木の枝が何重にも縦に重なって波打って移動していく。
「マリス、まずは完全に分断される前にアレをとめなきゃ」
『また振り出しに戻るのはごめんだからな。お前の指図を受け入れてやろう』
マリスが私の中に入り、体中が黒く染まっていく。体の力がグッと引き上げられているように感じる。
この力はまだ私には必要だ。たとえ、どれだけ自分の身が滅びようとも......。私は、フェニックスの力を引き出し、大量にうねりながらこちらへ向かってくる木の枝を粉砕しようと魔力を溜める。
「フェニックス、力を貸して! さらに、私の基礎魔法を私の拳に! 獣装エレメンタル:ジェットスマッシュ!」
炎の勢いが腕全体を通ってジェット噴射のように増していく。前方から迫ってくる枝は腕を境にバキバキと音を立てて崩れていく。折れた枝の一つが他の折れた枝とくっつきだし、ユピトリスのおそらく真の姿があらわになった。彼は、その大きな四つの眼を光らせて私たちを見つめる。
「悪魔と契約して我々に近づこうとした愚かな者たち......。あなたたちは我々の求む魂とは程遠い存在となってしまった。ならば、いっそ魂を天に還し浄化されるといいのですよ」
「あんたたちになろうとして契約したわけじゃない! こいつなんかと、好きで一緒にいたいわけでもないし」
『同感だ。だが、お前と共に歩んだからこそ見れた地平もあった。だが、ここまできて分かった。やはり、悪魔と人間は共存することはできない。もちろん、貴様ら天使もだ。だから、まず邪魔な貴様らを消す!』
マリスはユピトリスに向かって話すも、彼は話を聞かずに体全体から枝を伸ばしていき私たちを攻撃する。
私は彼の言葉に不思議な気持ちを感じていても、それをかみしめられないまま自分の腕を剣に見立てて
その枝を切り裂いていく。枝は、地上に散会して地面に落ちていく。
「確かに、もうこんな生活はこりごりだしね。ユピトリス! あんたは必ず私が殺す!」
すると、ユピトリスはメキメキという音と共に小さな小枝を落としながら胸部からもう一対の腕を引き出していく。そして、その2組の腕を大きく広げて私たちを威嚇した。
「哀れで頑固なものに慈悲はない。悪魔と契約し我々に近づこうとしたもの、魔人よ。消えろ」
「魔人じゃねーよ! 私は、銀髪のデーモンテイマー。グレイス・アルマン様だ!」
ユピトリスの二組の腕を伸ばした。その先の手の指の一本一本が伸びていき、鞭のように私たちを攻撃していく。だが、そのすべての攻撃はレイアさんのかまいたちのような風刃よってすべて切り裂かれていった。
「ほう、中々やるじゃない。レイスガルドの血を引いているだけあるね」
「風使いの剣士、のことですか? 確かにその呼び名はありましたが、もう昔のことです」
ウィナスとレイアはしばらく見つめていると、二人の間を引き裂くように地面から枝が生えてきた。
レイアとウィナスはそれを冷静に、粉々になるまで切り裂いた。
「息ぴったりだな。まるで、元からお互いを知ってたみたい」
見惚れていると、自分の背後から枝が伸びていたのに気づかず、マリスに助けられていた。
『少しは集中してこの悪趣味な鳥かごを破壊する方法を考えろ』
ユピトリスは自身の再生に少し時間がかかっている。
今のうちに何か、策を考えないと!
「いや、そう言われてすぐに思いつくかよ。でも、やることは一つしかない。炎で燃やし尽くす!」
『短絡的だな』
マリスは鼻で笑い始めた。私はこいつを心底憎いと思っていないが、ここまで憎たらしいことができるのはこいつしかいないとも思う。 あれ、でもこいつ、いつからこんなに自然と笑ってたっけ。
「なにをぉ!?」
『だが、お前にしては上出来と言わざるを得ない。ウィナスとレイア、私の合図で風の魔法を最大限の力で周りに解き放て』
だが、天使は悪魔の言うことなど聞くはずもなくマリスに楯突く。
「気に食わないねぇ......。悪魔が美しい天使である僕に指図するなんて」
『死の猶予が欲しければ早くしろ。まずい、奴が動き始めた! グレイス、行くぞ!』
私はマリスに呼吸を合わせてユピトリスの枝の猛攻をかわしていく。そしてユピトリス自身をも飛び越えて、彼をも巻き込みながら周りを覆う樹木の壁に炎を吐き出していく。
『今だ!』
マリスの合図でウィナスとレイアは髪の毛をなびかせてそれぞれ魔法を解き放っていく。
「エレメンタル:エアロブレイク!」
「ストームバースト!」
炎がユピトリスに燃え移る中、地面に落ちていた小枝が風で舞い上がっていく。すると、マリスは大声を上げた。
『死にたくなければ、グレイスのそばによれ!』
なんだか状況が読めたような気がする。私の考えが正しければ、これはまずいかも!
私たちは近くで寄り添いあって、体をうずめた。 瞬間、爆発音が聞こえた......。
爆発後、それぞれが合流し、再びユピトリスと対峙する。




