9:少女と旅立ち
少女は自分たちをくっつけた天使を見つけるための旅に出ることにした。
そして彼に感情の試練が訪れる。
重症になったジョンはフロストの元で預けて、俺たちに契約魔法をかけた人物を捜す旅に出るのだった。
ジョンの代わりといってはなんだがと言ってたけど、なんでガラゴなんだ......。
『テイムしたモンスターのいないテイマーなんて見てられねえよ。俺様が着いたからには百戦百勝だぜ、お嬢ちゃん』
「どこからそんな自信がわいてくるのやら......。後、その“お嬢ちゃん”っていうのやめてくんない? 今度こそ骨砕くかんね」
ちょっとかわいい感じで脅して見せるとぬいぐるみのガラゴは小さな手を動かして怯えた。
『わ、分かったよ。グレイス』
不思議な3人で降魔郷から降りた先の人気のいない路地通りを進んでいた。
すると前で3人くらいがこぞって何かに蹴りを入れている。
『おいおい、ありゃ銅級勇士の紋章じゃねえか。関わらない方がいいぜ、グレイス』
ガラゴが俺を心配していうが、そもそも知らないし。
「銅級勇士って?」
『天使警団のひとつなんだが、あいつらがいう勇者って呼ぶには素行の悪い連中の集まりだ。一人一人は大したことないが......』
ガラゴが解説している間に俺はすでに彼らのいじめを止めていた。いじめを止めても俺になんのメリットもないのに! 勇士の一人が俺の小さな胸倉を掴む。
「ああん!? なんだよ、クソガキ。勇者様に文句でもあんのか? それとも一緒に遊びたいのか?」
この人たちにとって俺は、か弱い少女でしかない。ジョンがいればどうにかなってたかもしれない。マリスを使うにしてもうまく使えるか自信がない。
「な、なんでそんなことしてるんですか?」
俺はか細い声で話を聞いてみた。もしかしたらこの子はとても悪いことをしていたのかもしれないし。
「悪魔だからだよ! 悪魔は俺たちの手で倒すんだよ」
いじめられている女の子を見ると彼女の手には羽が生えていた。ハーピィ?だっけ。
彼女の目には怯えと絶望が見えた。
「助けて......」
ハーピィは俺に訴えかける。こんなんじゃ、逃げるに逃げられないじゃないか。
「ねえ、教えてよ。天使ってそんなに偉いの? 人の人生を左右させるほどえらいの?」
「俺たちは市民を守る名誉ある選ばれた人間だ。天使もまた我々人間の守護神。天使は絶対なるものだ! だから俺たちは偉いのだ!!」
気づいたときには、俺はその勇士の一人にビンタしていた。俺はその天使に人生を狂わされているんだ。そんな絶対的なものに生死の自由さえも握られているなんてごめんだ。
「ただでさえ悪魔に自分の死の自由を阻まれているのに、他人の自由を奪うやつをみると腹が立つのよ!」
取り巻きのようにビンタされたリーダーを介護する二人をよそにビンタされた男は怒りを通り越した目をしていた。
「どうやらこのガキは銅級勇士であるジュラル様を敵に回したいらしいな! 勇者の剣をくらえ!」
そういうとのっそりとした剣裁きが俺に降りかかろうとしていた。この剣、なんかすぐにかわせそうなんだけど。軽く剣の腹を払うとバキッと折れてしまっていた。
「えっ......。なんか、ごめん」
「う、うわぁ!? 貴重なオリハルコンぐあぁ! ヤロー、ぶっころs......」
何か言いかけたところで彼は急に青ざめて怯え始めた。後ろを見るとマリスが腕組みをしていた。
「ひ、ひぃ!」
叫び声とともにガラゴが飛び出してきて自分事のように自慢し始めた。
『どうだ! ここにいるのは噂の美少女テイマー「白銀のデーモンテイマー」様だぞ? 覚えて帰れよぉ』
「ちっちゃなクマがしゃべってるぞ? こいつほんとにデーモンテイマーなのか?」
「こんな少人数で本物の悪魔なんて相手したくねえよ! このことは天使警団に報告してやる! 覚えてろ!」
銅級勇士の3人は逃げるように去っていった。俺が何かしたわけでもないのか。全部こいつがやってたんだ。こいつがいなくても俺だって......。
眉をひそめているとハーピィが鳥のようなしわしわの手で強引に握手をしてきた。
「いやあ! ありがとね、お姉さん。実はあいつらウチの常連でさ、いろいろ揉めちゃってたんだよ。ああ、ウチの名前はニコ。お姉さんは?」
ぐいぐいくるハーピィのニコに押されつつ俺は流れるまま自己紹介した。
「グ、グレイスだけど......」
「グレイス! お礼がしたいから今からウチの館にこない? いっぱいサービスしてあげる♪」
童貞陰キャだった俺は女の子の誘いを断れるわけもなく、本当に流されるように彼女について行ったのだった。これっていかがわしいところじゃないよね......。
ハーピィの甘い言葉に乗せられホイホイとついて行く彼女はやはりまだ男の子だった。
次回「ハーピィ館と天使」