86:戦争の終わりと新たな旅のはじまり
悪魔は地上から姿を消し始めた。
だがそれが戦いの終わりということではない。
グレイスは、街の様子を伺う。
地上に出ると、空が今まで以上に青空が見え始めていた。エルフの村からソルの街まで悪魔に出くわすことはほとんどなかった。冥界の王ディーアの言った通り、ほとんどの悪魔は冥界に帰ったのだ。
「こんなに静かで、きれいな空って久しぶりなんじゃない?」
「そうだね。冥界で交渉したかいがあったってもんだね」
ソルの街にある革命軍の本拠地に戻ると賑わっていた。包帯はまだとれていないものの、兵士や農民たちがこぞって、街の復興活動に専念していた。
そこで、ひときわ目立つ声が多くの人に指示を出していた。
「すぐに動けるものは住宅の復旧活動を! それ以外の者は物資の調達を頼みます!」
「レイアさん!」
レイア・レイスガルドは手を振った私に手を振り返してくれた。おしとやかな雰囲気もありながらその体は恵まれており、筋肉も発達して屈強だ。彼女はその手を差し出した。私は差し出した手を握った。
「おかえりなさい、グレイス・アルマン。そして、感謝します」
「いえ、私ではなく彼らがやってくれたことなので」
レイアさんは、そのまま私の手を握り街の復旧の様子を見せていく。今まで以上に状況は好転しているように感じる。このままいけば普通の暮らしに戻れる日も近いだろう。
「みんながここを守り、再生させたんですね」
「ええ。ですが、まだまだです。ペスートの後遺症に悩まされる人間も大勢います」
「後遺症?」
そういうと、レイアは私の手を放して地下を指さした。あそこにはまだ、病人がいるってこと?
彼女に案内されるがまま下に入っていくと、そこにはレイアとロンドがベッドの上で寝そべり、彼女たちの娘であるジーンと話をしていた。
「ジーン。少しいいかな」
「レイアさん! それにあなた......」
少し気まずそうに私を見ては視線を逸らすジーン。私のことなんてあまり会いたくないだろうに。
「こんにちは......」
私まで気まずくなってしまったものの、彼女はすぐに立ち去って行ってしまった。
だけど、去り際彼女は私にさりげなく小声で「ありがとう」と言ってくれた。......気がする。
「グレイス。おかげで大分よくなったよ。まあ、でもみんなみたいに歩いたり走ったりするのは難しいだろうね」
明るく言うもロンドはすぐに暗い顔をした。私は声が出なくなりそうだった。彼らの身体を少し見ると所々が黒ずんでいる。このことからなんとなくは察しがつくが、思い悩んだ後私は彼らに聞くことにした。
「ど、どうして?」
「黒化の進行は止まったけど消えたわけじゃない。いろいろボロボロなのよね」
エリエは、吹っ切れたように笑っていた。つまりはこれ以上、二人はどこにも行けないし戦うこともできないということだ。いや、それ以前に命が風前の灯火ということだ。でも、エリエは続けて力強く答えた。
「でも、諦めたわけじゃないわ。私たちエルフ族がこの地に根ずくその日までは、生き続けたい。それが部族の長と、その妻である私の役割だと思うから」
「ジーンの成長がみたいってのが本音でしょ。エリエは」
「あなたもでしょ。 それで、あなたはどうするの? グレイス」
「私は......。わからない。でも、一度王国へ乗り込んでみようと思う。戦力拡大の要になるかも」
すべての天使を倒すかどうかは別として、ルシエルと本格的に戦うとなれば私一人では難しいかもしれない。これまでも私一人ではどうにもならないことをみんなでやってのけた。だけど、犠牲が増えすぎた。これ以上の戦いを強要することはできない。なら、戦いのプロである王国騎士団とでも手を組んだ方がいいのかもしれない。
「そうなのね。今のあそこはもぬけの殻だから占拠するの容易かもね」
「なるほど、確かに今の革命軍には戦力がありません。防衛ラインを強化するためにも戦闘訓練をしていない非正規の我々よりも、正規の戦闘兵ということですね」
話を聞いていたレイアが話が入ってきた。でも天使は私たちの街を住民を叩きにくるのだろうか。
「そこまでして天使たちは何を得るっていうのかしらね」
ぽつりと私が言うと、ニーデンベルグが少しくぐもった声で話し始める。
「天使が必要なのは命であり、魂だ。それを得るシステムが崩された今、戦争でも起こして大量殺戮を起こすのが一番魂を食らいやすい状況なのかもしれないな」
「とにかく、善は急げね。私と一緒に来てくれる人はいる?」
「外交であれば私が......。と言っても、相手が話の通じる相手であればいいですけど」
そういって、レイアが手を挙げてくれた。戦闘もそうだけど、頭がキレる。感情的な私より適当な人材だと思う。そして、サバトも後から手を挙げた。
「僕はどこまでもついていくよ」
「ありがとう。心強いわ」
「レイちゃんが出るなら、私はここでお留守番してた方がいいよね」
アリスが少ししょげた顔つきで私たちを見つめる。レイアさんがいなくなるとするとこの領地をまとめられるのは革命軍のリーダーであるアリスしかいない。
「そうね。少し寂しくなるけど、必ず戻るわ」
「うん。ここがグレイスの今の居場所だもんね! 守って見せるよ!」
「居場所か......。いいね、帰れる場所があるっていうのは」
「はい、これ」
アリスは私にローブを渡してくれた。太陽に透かして見せると所々きらめいて見える。一体なんだろう。
「これは?」
「お守り、かな? 竜人のうろこで作ったローブだよ。剣のような刃物は軽く受け流せると思うよ!」
「なにもかも、ありがとう。じゃあ」
私はそれを羽織り、二人と一緒にまた地下から歩き出していった。今度の行き先は王国。
王国に行ってこの戦争を終わらせて、天使との決着をつけて見せる!
そうすれば、私たちは自由になれる!!
街はこれまで以上に賑わい、復興しつつある。
希望を背に、グレイスたちは王国へと向かうのだった。




