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83:冥界への道と蛇の杖

これ以上の大地の黒化を防ぐため、冥界にあるという万病に対抗できる杖の奪還へと向かうグレイスたち。だが、元凶であるペスートを放っておいても被害は大きくなる一方であった。

 ケルベロスは私たちを乗せて、エルフの村へと向かう。だけど、状況は非常に厄介だ。

ペスートは勢いを増して私たちを丸ごと飲み込もうと、目と鼻の先まで奴自身の身体が伸びてくる。


「ぎゃー-----!! キモい! マジキモイんですけど!!」


エルフの村が見え始めると、ニーデルベングが目を丸くしたまま茫然と立ち尽くしていた。


「早く手を伸ばして!」


「なにがあったんだ!? まあいい、こっちに誘えただけ及第点だ。 そのままあの穴に突っ込め!!」


ニーちゃんこと、ニーデルベングは私たちを指揮して自分が開けた穴の方へと導いてくれる。

エルフの村の小さな井戸はもう跡形もなく、周りを犠牲にして大穴となって私たちを待ち構えていた。でも、よく一人でここまで入り口を広げたな......。 地獄にたどり着けたので、一旦フェニックスだけ鏡の中で休ませてさらに駆け抜けていく。



「あんた、中々やるわね」


「竜人族をなめるな。お前たちがいなくともこれくらいの仕事はこなせる」


下へ、下へ潜っていくと明かりはどんどん減っていく。真っ暗になったかと思うと、今度は地獄が近くなったのかほのかに先が明るくなっていった。ドドドドとペスートが追いかけてくる音が聞こえる。後ろを振り向くと、そこには穴をむりくりに下っていく怪物がぼんやりと見えていた。


「早くしないと、食べられちゃうんじゃない? 僕ら」


サバトの不安をよそにニーデルベングは首を横に振る。


「だめだ。もっとひきつけろ! 地獄まで確実に誘い込むんだ!!」


すると、開けたところに出た。異様な雰囲気とそこら中に漂う死臭。枯れた大地、絵にかいたような気味の悪い空模様。間違いない、地獄にたどり着いたんだ。


「ここが地獄か。地上と変わらないな」


ニーデルベングは、初めて見た地獄の風景を目を細めて見渡していた。

今の地上のひどい有様は、確かに地獄というにふさわしいかもしれないけど、元もここまで悪くはないだろ......。それにしても、熱気のようなものが酷い。まるでサウナだ。


「この気持ち悪い感じのどこがおんなじなのよ。あああ、のどが......」


 手で熱さを和らげるように仰ぎながら、ケルベロスに先に進むように合図をしてこの居心地の悪いこの地をさまよう。ペスートは地獄に来てからというもの、先ほど見せた凶暴性はなく徘徊しながらこちらに近づいていく。目的は変わっていないようだ。


「それで、冥界に行くにはどうすればいいんだ?」


ニーデルベングの言葉でハッとした。

特に何も考えずに来たけど、何のたよりもなく地獄を彷徨うのは危険が伴う。

早急に、冥界への入り口を探さないと......。

冥界に詳しい人間......。そうだ、この子なら!!


「ケルベロス、私たちを冥界の入り口まで案内してくれる?」


 三つの頭が同時に首を縦に振ると、迷いのない足取りで暗くて、死臭の漂う空間の方へと向かう。あたりにはケルベロスと同じか、それ以上の大きさのヘビがうねうねと闊歩している。

だが、彼らはまるで私たちに興味がないように自分の生活にいそしんでいる。ただ、ペスートがぬるぬると歩きはじめると、すぐに視界から消えていった。地獄の住人でさえも彼を恐れているようね。


「彼らも、あれとは関わりたくはないようね」


『まさに、触らぬ神に祟りなしということか』


「祟りみたいなあんたが言う?」


マリスと漫才をしているとだんだんと、視界が黒い霧に覆われていった。

冥界が近くなっているのか、生物の啼き声がそこかしこに響き渡る。気分が悪くなる......。そうこうしているうちにケルベロスの歩みが止まった。


「ここは......」


目の前の川を挟んで、大きな扉を見つけた。あれが、冥界の扉というやつなのだろうか。

どうやってこじ開けようか。というか、生きた人間が入っていいものなのだろうか。

そもそも、この川は渡って大丈夫なものなのだろうか......。多くの不安が波のように押し寄せる。 

瞬間、黒くてどろどろとした手のようなものが自分の目の前に現れた。

すかさず銃を取り出して、それを対処するもひるまずに私の身体を取り込もうとする。


「これは、もしかしてペスートの腕!?」


「グレイス!」


即座にサバトが氷の魔法をかけて、その腕を凍らせる。凍らせた腕をニーちゃんが豪腕で潰していく。潰したそばから黒い瘴気が漏れ出す。これを、吸ったらまずい!!


「くそ! こいつ、破損した体からも黒化させる霧を生み出すのか!」


ニーデルベングは自分のしっぽで口を覆い隠していた。だが、すでにしっぽは黒化が進んでいた。ニーデルベングは、すかさずそのしっぽを引きちぎった。


「うぐっ......!!」


「あんた! なにしてんのよ」


「大丈夫だ。成人の竜人ならある程度再生能力がある。少々、痛いがな」


「いや、トカゲかよ」


確かに、言ったそばからニーデルベングの引きちぎられた尻尾の根がふさがれていた。

一方ペスートの方はというと、それ以降私たちを襲う気配がなかった。

時間が止まっているようだ。


「ここで、立ち往生している暇なんてないのに。突破する方法が見つからない」


サバトがぼやいていると、急に冥界の扉が開き始めた。入れってことかしら。

ケルベロスも、ここからは自分の足で行けと言わんばかりに、私の背中をその三つの鼻先で押し出す。


「わかった。ここまで連れてきてくれてありがとう。今はゆっくり休んで」


そういって彼を鏡の中に休ませた。さてと、後は、この先を進むだけだな。

私は、先頭に立ち冥界へと続く橋を渡る。生きているのに、死を連想させるものが頭をよぎりだす。ナイフ、ライフル、悪魔、天使、ロープ、ビルの屋上......。


『死の幻術に惑わされるな、グレイス・アルマン。ただ、前を見ろ。お前が見たいものを私に見せろ』


マリスは意図的に橋から見える川の揺らめきを見せないようにし、そしてせせらぎを聞かせないようにしていた。サバトやニーちゃんがどうなっているか見えない。でも、前に進んでいることだけはわかる。端から伝わる足音に励まされながら冥界の奥へと進んでいく。



「あれは?」


扉のすぐ先に、岩に刺さった杖がそびえ立っているのが見えた。杖は普通の杖よりも禍々しく、蛇が杖に巻き付いたかのようなデザインが施されていた。まざまざと見せている様子から罠のような気もするが、背に腹は代えられない。私は、一歩踏み出してその杖を撮ろうとした瞬間闇から腕が伸びてきた。


「これはまだ、君に渡すときではない」


威厳のある女性の声が聞こえると、そこには黒いドレスをきた大きな女性が、小さな杖を指でつまんで私たちを見下ろしていた。その後、近づくにつれて女性は私たちと同じくらいの大きさになって私の目の前に立った。顔立ちは、美しくもどこか危険なものを孕んでいるかのような視線に喉が詰まる。


「そう固くなるな。 少し話そう、下界からの旅人は久しぶりだ」



薄幸そうな笑みを浮かべて彼女は、私たちを奥へと招き入れる。彼女の友好さが逆に怖い。でも、あの杖を手に入れないには前に進めないと自分を奮い立たせた。



冥界の女性に出迎えられたグレイスたちは、怪しみながらも彼女の誘いに乗り冥界へと入っていく。

彼女はなにもので、グレイスたちに何をつげるのか......。

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