82:黒死の悪魔と決死の作戦
最凶最悪の悪魔、ペスートがこの世に放たれた。
グレイスたちは、触れれば黒く変化し灰となって死ぬ瘴気をまき散らす怪物を抑えるべく
地上で観察するのだった。
ペスートと呼ばれた巨大な悪魔は依然、歩みを止めることなく大地を徘徊している。私たちはあれを何とかするために地下から再び地上に出たけど、近づけばやつの瘴気で黒化してしまうし、離れてしまうと見失う。
「どこに向かってるんだろう」
ペスートの背中を見つめ追いかけていると、自分たちの行きたいエルフの村とは反対方向に向かっている。
「どうするんだ? これ以上行くとエルフの村へ向かうのは面倒になるぞ」
ニーデルベングがこちらに顔を向けるけど、あいつを放っておいて冥界に向かうのも違う気がする。
話しているうちにペスートはどんどんをあらぬ方へ向かっていく。
「あいつを置いて杖を取りに行く?」
「そうなると、この街だけでじゃなくて他の街にも被害が拡大してしまう。それは避けたいね」
サバトと私は腕を組み、対策を練るも結局はあれごと冥界に連れていくことくらいしか思いつかない。
「なら、私たちと一緒にあいつも冥界につれていく?」
ニーデルベングが私たちの間に入り、うなずく。
「それがいいだろうな。だが、問題はあいつをどうやって真逆の方へ導くかだな」
ペスートが何を思ってどこに言ってるのかわからない。ここは、近づかずにフェニックスを使って偵察させよう。私は、ポシェットから次元鏡を取り出した。フェニックスは黒い世界を紅蓮の炎で照らして大空を羽ばたいていく。
「フェニックスに見張ってもらって、一旦エルフの村へ行って作戦を練りましょうか」
さらに私はケルベロスを召喚してその胴に乗った。
サバトの手を取ったあと、ニーデルベングに手を伸ばした。
「さ、早くいきましょ。彼ならものの数分で着くと思うわ」
「こいつ、冥界の番犬じゃないのか? 本物か?」
「なによ、ビビってんの? ニーちゃんw」
ニーデルベングをあざ笑いながら文字通り見下していると、彼はグッと自分の腕を掴んできた。痛みがなかったのは幸いだったけど、彼はずっとにらみつけていたので少しキレてそうだ。
「さっさと出せ、グレイス」
「はいはい」
ケルベロスに合図を送ると、彼は足に電撃のようなものを貯めた後周りの背景を置いて疾走する。景色を堪能する暇もなくただ、もふもふの背中を見つめることしかできなかった。後ろにいるサバトやニーデルベングに話しかけようとも風圧で聞こえず、話せずで結局無言のまま村にたどり着いた。
「ハァ、ハァ......。ね、早く着いたでしょ」
「早すぎて息が止まりそうだったけどね......」
私たち3人は、ケルベロスから降りて探索を進めると、壊れた井戸にたどり着いた。
ここが地獄への入り口だ。そこから冥界にいけるといいんだけど。
「地獄から冥界って経由できるの」
「我々の住む天国とこの下につながる地獄はそれぞれ、天界と冥界へと繋がる架け橋や道のようなものだ。いけないことはない」
「冥界に行くには、天界に行くときみたいな条件はないの?」
「条件?」
ニーデルベングが首をかしげると、私たちは顔を見合わせた。天界へ行くに方法はこの世界にいる天使を全員殺すことだとルシエルが言っていた。そのことを話すと彼の顔はさらに曇っていく。
「そんな話、聞いたことがない。俺は仕事で天界へ何度も赴いたことがあるが、条件や試練のような類はなかったぞ。それは、ルシエルの口車に乗せられたのではないか? だが、ルシエルが復活してるとなれば厄介だな」
「知ってるの?」
「伝承レベルだがな」
彼はルシエルを知っているような口ぶりで話していると、フェニックスの光がこちらに向かってきていた。クソ、ルシエルについてもっと詳しく聞けるところだったのに!
「あいつに動きがあったみたい」
「二人でなんとかしてこっちに誘い込め。進路は俺が切り開いておく! あの乗り物だけはもう勘弁だからな」
「なんとかって。結局無策じゃない」
「仕方ない。グレイス、行ってから考えよう」
ニーデルベングだけを置いて、再びペスートのいる方角へと雷鳴をとどろかせながら走っていく。目が乾きそうになるから着くまでは閉じていたが、だんだんとスピードが遅くなっていった。ペスートの近くまで来たのだろうか。
目を開くと、そこには巨大な黒い塊のようなものがうごめいているのがはっきりと見えた。
ペスートだ。周りを見渡すと、ここは以前に父の肖像が描かれた絵画を見た監視塔だった。
「こんなところになにがあるというの?」
「わからない。中を探るほかに道はないよ」
フェニックスは悠々とペスートの遥か上を飛び越え監視塔の周りをぐるぐると回る。
あの中に、なにかあるということかしら。ケルベロスに回り込ませながら塔の中に入っていく。
中は以前よりも死臭がひどい。絵画は燃やされた跡があり、ただれて見えなくなってる。
父の顔を唯一思い出せる場所を失ってちょっと、寂しくなってしまったが感傷に浸っている場合じゃない。ペスートがここでとどまっている理由を探らないと......。もしかしたら、彼を引き連れるものが見つかるかもだし。
階段を上り、天使と戦った塔の最上階にたどり着くと、そこには天使のように見える白骨死体があった。人間の形をしていながら、背中からもう一本腕が生えているように骨が連なっている。きっとこれが羽の部分なのだろう。
「これ、天使の死骸? もしかしてこれを狙って?」
持ち上げて動かしてみると、おそらく目と思われる部分が動いているように見えた。
これが狙いなのは間違いなさそうだ。
「まさか、餌......とか?」
「あまり想像したくないわ。これ、エルフの村の方まで持っていこう。街への被害は最小限にしなくちゃね」
「うん」
天使の死体を持ち上げ、ケルベロスに乗った後私たちは監視塔を後にした。
外に出ると、ペスートはゆっくりとこちらを向きはじめる。
「......やっぱりこいつが狙いだったのね」
あまり遠くなりすぎないように走っていると、突然バリバリと激しい揺れを感じた。
これは、叫び声? 前に聞いた鐘の音にも聞こえるけど......。
「なにか、嫌な予感がする」
その予感は的中した。ペスートの動きが早まっていく。私たちからこの死体を奪おうと必死になっているようだ。今まで見えなかった口の部分が大きく開かれ、そこからなにやら液体のようなものが撒かれていく。 かわすと、その液体は地面を黒く染めていった。
その後、どうなったかまでは見えなかったけど、きっと恐ろしいことが起きたに違いない。
「ケルべロス、もっと早く走って! フェニックスは援護をお願い!!」
目指すはただ一つ。自分の幸せと、自由。そのためには手段はいとわない。だけど、私には仲間ができた。仲間の幸せを守ることも私の幸せなんだ。そう気づき始めたのだから、手段は限られてくる。それでもいい。今は、全力で自分の思う被害が最小限のやり方で希望を紡ぐしかない!!
彼を倒す方法はない。ただ、封印あるのみ。
グレイスたちはニーデンベルグの言葉を頼りに杖を探しに冥界へと旅たつ。




