81:戦争という病
ガイウスはグレイスの目の前で悪魔「ペスート」へと変貌した。
彼の行く先々は黒く変貌し、砂のように崩れ去っていく。
それを見た革命軍はなす術もなく......。
「それではみなさん、がんばって」
「待て、パンドラ!」
私は魔人、パンドラを追うように走ろうとしたが、レイアが手を引っ張り止めた。
「これ以上の深追いはやめましょう。それより、先にあれをどうにかしないと......。とりあえずは拠点に戻って態勢を立て直しましょう」
彼女の言う通りなのだけれど、うまく呑み込めない。それでも、頭を冷やしたいから彼女の言う通り、拠点へと戻った。だが、拠点の資材では私たちはおろかレイアの部下さえもろくにいやせないことが分かった。フェニックスを従えているというのに不甲斐ない。
「ほとんどの住民が地下壕にいます。そこに救護班がいるのでまずはそこに行きましょう」
レイアの守った街であるソルエルの街には元々いた人間だけでなく、エルフ族もけが人はすべてそこにいた。サバトも私もその光景を見て血の気が引いた。多くの人間が地上の悪魔のせいで体が黒ずんでいっている。
「ここにも悪魔の影響が......」
「僕たちが平気なのが不思議なくらいだよ」
確かにサバトも私もレイアやアリスさえも肌はまだ黒ずんではいない。なにか、彼らと私たちに違いはあるのだろうか......。
「なにか、条件があるというこでしょうか。私たちにあって、彼らにないもの」
「それは、逆だろうな」
マルファスが地下壕へと降りてきた。彼は冷静な面持ちで語りだす。
「彼らは以前にガイウスの瘴気に充てられ、屍人になりかけているところだった。エリエもその一人だ。今は、その娘が献身的に看護しているが長くはもたないだろう。一番黒ずみが激しいのは彼女だからな」
そういいつつマルファスは私たちをエリエさんの元へと連れていく。多くの人間やエルフが雑魚寝しているところを横切っていくと、そこにはベッドのようなものが二つと一人の女の子が立っていた。
「あなた、エリエさんの娘?」
「そうよ。あんたは?」
前に見た時はすごく小さかったように思える。アリスの時と同じような感覚を思い出す。エルフの村を離れて時間がそれだけ経っていたということなんだろう。でも、そうだとしたら私の身体の成長ってどうなってるの。 あまり変わっていないようにも感じるけど、特に胸とか......。
「グレイス、グレイス・アルマン。覚えて、ないよね」
「知ってる。パパとママと苦しめた悪い人......。でも、私のこと覚えてないでしょ」
......。言い返せない。エリエたちを巻き込んだのは間違いなく私だ。それのせいで今、その娘である彼女が......。名前ももう思い出せない彼女が苦しんでしまっている。
「ごめんなさい」
「ジーン......。私は、ジーン。で、あなたたちはパパとママをなおせるの?」
「治したい。でも、今はやり方がわからない」
「そう......。この黒化現象は多分、さっきの化け物を倒さないといけないかもしれないと思う」
彼女はテーブルから黒いものを取り出した。これは、花??
「なにこれ」
「この子で試してみたけどどんな治癒魔法でも治せないし、フェニックスの尾は効かなかった」
「エルフ族の考えとしてはこれは呪いの類なんでしょう。だから、呪いの根源であるあのガイウスを倒すという結果にたどり着いた。そういうことですね」
レイアが話すと、ジーンは黙って頷く。彼女にはなにか立ち入れない距離感を感じる。今までだったどんな敵よりも絶対不可侵な壁が鼻先に広がっているようだ。だれも信頼していないのだろうか。
「エリエもロンドも私に出会いさえしなければこうはならなかったのかもしれない。自分の命を捨てて、子供を捨ててどうしたかったの......」
ふと、自分はひどいことを言ったような気がする。その瞬間、私の顔に平手が振りかざされていた。
パチンという音と共に私の視線は横に触れていた。痛みはなかった。体の痛みはないが、どうにもならない心の痛みが強く根深く刺さる。
「あなたが村になんてこなければ、私たちは村を追われずに済んだ! それにパパもママも幸せでいられた! なのに、どうして......」
そういうと、まだ意識があったのだろうロンドが口を開き始める。
「君のせいではないよ、グレイス」
ロンドはベッドに横たわり、その下半身を見せた。完全に黒くなり、固まっている。今にもフゥと息を吹きかければ脆く崩れ去りそうなヒビを作りながらギリギリ足の形を保っている。
「私たちが立ち上がったのは、私自身の意思だ。もっと、多くの世界を見たい。エルフを絶やさない未来を創るため、子供に最良の未来を見せるため戦うと誓ったんだ。娘のためなら己の身体なんて......」
「パパ、無理しないで! ねえ、なんとかしてよ! 私の命の恩人なんでしょ! パパたちの友達なんでしょ! どうにかできないの!」
「そう、責めるなジーン。呪いは、呪いの元を祓うことでしか浄化できない。彼を倒すしか......」
だが、それに対しては都市伝説や神頼みに近い考えだ。倒せば本当にこの現象が治るのか疑問しかない。それもレイアは思っているようで終始、うなりながら頭をひねる。
「あまり合理的判断とはいえませんね。仮に倒せたとしてもこの黒化現象が治るとも限りません。もっと確実性の高いことを考えましょう。ですが、そんな方法あるのでしょうか」
多くの人間が頭を悩ませる中、ニーデンベルグが口火を切る。
「一つだけあるかもしれない。冥界には天界から強奪された万病を癒す杖があると聞いたことがある。天界十二使は冥界に行けばすぐに魂ごと消滅してしまうからいけないと悩んでいたような......」
一縷の望みをかけるとしたらそれしかないだろう。でも、今度は冥界か......。振れ幅が大きすぎてこの身体は持つのだろうか。地獄に行ったときのあのひりついた肌触りを思い出しただけで体中が震えてくる。でも、行かなくちゃ。みんなのために、そしてジーンのためにも......。
「それでいこう。これも確証ないけどね」
「俺もいく。言った人間としての責任がある。だが、冥界は危険だ。他の人間は待機しておいた方がいいだろう」
とは言ったものの、サバトもアリスもそれを許さない。
「僕も行く! 君に万が一のことがあったら嫌だ!」
「私も私も! グレイスは私たちが守るもんね」
「アリス、君はだめだ」
そこにしかめ面をしたマルファスが止めに入る。
危険と聞いたらこいつは確かに意地でもアリスを行かせないだろうな。
「君は革命軍のリーダーだ。君がもし死んだら誰がこの統率の取れない軍の指揮を執る。君いてこその革命軍なんだ。わかってくれ」
「マルファス......。わかったわ、仕方ないね。じゃあ、3人で行ってきてもらえるかな」
「ああ」
サバトはすぐに自分の槍を持ち、私の横に立つ。頼りないこともあるけど、隣にいてくれるだけで心が安らぐ。私も、アリスに親指を立てて
「任せて」
そして、ニーデンベルグはアリスの目の前に立ち、静かに話し始めた。
「お前の分まで彼らを守り抜く。君に拾われた命、無駄にはしない」
「うん、よろしくね。ニーちゃん」
「は? ニーちゃん? 俺はお前の兄貴か?」
「だって、”ニーデルベング”なんて長い名前言いずらいんだもん」
地下をもう出ようとしていた私たちは、彼階段を上がりつつニーデンベルグに急かせる。
「ふふ、早く行くわよ。ニーちゃん」
「置いていくぞ。フフフ......ニーちゃん」
ニーちゃんこと、ニーデルベングは少し眉を落とし、先へ行く私たちを追掛けてきた。
なんだか、面白いやつになったな。これもアリスのなせる業なんだろう......。
ニーデンベルグの機転で冥界へと旅経つことになったグレイスとサバト。
彼らはエリエを、黒化した革命軍や住民を助け出せるのだろうか。




