78:地天使ガイウスと血の流れる戦い
無事アリス達のいる場所へと戻ることができたグレイスたち。
しかし、そこにまたもガイウス率いる王国軍が攻め入る。
「おかえり! マルファス、グレイス!」
尻尾をぶんぶんと振って喜びを表現してくれるアリスの頭をなでながら私は笑いかけた。
「ただいま! みんな無事だった?」
「うん......。相変わらずボロボロだったけど、ソルの街半分くらいは奪還できたんじゃないかな」
アリスが見渡すと、レイアが胸に手を当ててお辞儀をした。
「改めてアリスさん、並びに皆さん、領地奪還にご協力いただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらもけが人の治療してもらってる身だからね。それで、これからどうする? レイちゃんの願いは達成したけど、やっぱり革命軍脱退しちゃう?」
アリスは目をうるうるさせながら首をかしげると、レイアさんはアリスの手を握って首を横に振った。
「確かに、初めはそのように考えていました。ですが、ここまでくればみなさんも私の部下......いえ、仲間も同然です。けが人は街で休ませますが最低限の協力はさせてください」
「本当!? ありがとう! みんなで、守ろう! この街を。ところで、グレイス。その隣にいる方はもしかして......」
アリスがこちらに向いてニーデルベングを見つめる。ニーデルベングは、彼女が近づくと同時に一歩身を引いた。
「こちら、ニーデルベング。竜人族全員は懐柔できなかったけど、彼が手を貸してくれる」
「そうだったんだ。やっぱり、天使の信仰が根強いのかもね」
そういうと、ニーデルベングはあざ笑うように口角を上げる。
「ふん、お気楽な混血だな。自分の出自も知らずに浅はかな知識で我々を語るな」
「ちょっと! あんたは黙ってて」
「え、グレイス? 混血ってどういうこと? 私の、こと?」
ああ、この子はやっぱり知らないんだ。自分が竜人と人間の間に生まれた子供であるってことを......。そして、彼ら竜人族が純血主義であることも。
「そうだ。おまえは......。な、なんだ地震か?」
街にいまだに転がる小さな瓦礫が、意思があるかのように跳ね上がる。崩れかけていた家屋から石や木材がほろりほろりと落ちていく。この感じ、どこかで感じたことがる。そう思っていると、街の奥から旗が上がっていくのが見えた。
「あれは、王国旗? どうやら、またしかけてくるようですね」
レイアさんは自分の腰に納刀していた刀を抜くと、彼女の部下が一斉に抜刀し始めた。
「まだけがをしているものは避難を優先! 戦って消耗する必要はありません!」
彼女は部下の顔を見ないで、旗の上がっている方一点を見つめていた。だが、それをしりぞけて一人の部下は彼女の真正面に立つ。
「拾われた命は、戦場で返すのが兵士です! やらせてください」
「だめです。今のあなたたちの仕事は戦場で命を散らすことではなく、重篤で動けない住民や兵たちを守ることです! 最前線は私たちに任せてください。大切な部下と街を頼みましたよ」
「......。当主がそうおっしゃるのなら。皆さん、ご武運を」
兵士は頭を下げて後方に下がっていった。レイアさんに続いて私、アリス、サバトが前に出ていく。
王国の軍隊は正面から進行して、私たちの目の前で止まった。そして、ひときわ大きい天使が前に出てきた。五属聖のガイウス......。じきじきにお出ましということか。
「天の国から竜人が革命軍に拉致されたと聞き、返還の申し入れのために参上した」
ガイウスは外向きの言葉で、あくまで戦争はしないというていで話していた。だが、後ろにいるのは剣士や銃士。ついでに私たちを潰そうとしてるじゃないか。それに、王国軍の中には魔物らしき異種族がいる。あれは、オーク?
「なに勝手なこと言ってるの? それに、あなたの後方の勇士たちは何ですか? 思いっ切り戦争する気マンマンって感じですけど?」
アリスが背中に携えた両刃斧構え始める。私も銃を引き抜き、ガイウスの脳天を狙う。ひりついた空気の中、ニーデンベルグが驚いた表情で前へ出る。
「勇敢な勇士の中にどうして、悪魔がいるのです! 何者だ、貴様!」
「こいつはオレが地上をうろついていたのを拾った。人間よりも強い力にオレは心が躍ったな。逆らう家畜を調教するにちょうどいい人材だろ?」
「人間を管理するのは確かに天使様の仕事です。ですが、悪魔はあなた方の天敵のはず! それをなぜ!」
「ええい、だまれ! 竜人の分際で我々のことを知った風に語るな。貴様らのような牙の抜かれた腑抜けの種族に用はない!」
じりじりと近づいていたニーデルベングをオークは、自身の持っていたこん棒を振りかざして顔面を強く殴った。
「交渉なんてはなからする気なんてなかったのか!」
サバトが叫ぶと、ガイウスは手で後ろの軍に指示をし始める。
「交渉は断裂だ。竜人は殺しても構わない。彼は革命軍に堕ちた。これより本作戦は武力での領地奪還作戦に変更する! さあ、命を天に還すとき!」
彼らの動きと共に私も引き金を引くも、オークの持つこん棒によって跳ね返される。
こんな雑魚にかまっている暇なんてない。それはサバトも同じだった。
「あいにく僕は君らに興味がない!」
彼の槍の刃先がオークの角を折る。戦いで練磨されたサバトの技術がさらに磨かれていたみたいだ。侮れないな。私も頑張らなくちゃ。
「久しぶりに地上の空気吸わせてあげる! ケルベロス、フェニックス! 出番よ! サバトをサポートしてあげて!」
雷鳴と共に咆哮するケルベロスと、周囲を焼き尽くすほどの紅蓮の炎を吐き出して羽ばたくフェニックスがサバトを守るように囲む。
「グレイス、別に僕にかまわなくていいのに」
「あきらかにこっちの方が人数的に不利なのよ? そんなに強くなったのかしら? 私のナイト様は」
「ああ......。僕はこれでも、元銀級だ。舐めないでもらいたい。でも、ありがとう! 後ろを頼んだぞ、ケロべロス、それにフェニックス!」
言葉は通じているのかはわからないが、それそれは後方に回り、オークと人間たちを相手していく。私はさらに進む。銃撃が飛び交う中、マリスの目を使って銃士を一人一人撃ち落としていく。
だが、一人混戦の中、口から血を流しながらも茫然とするものもいた。
ガイウス率いる、悪魔と王国騎士の複合軍に翻弄されるニーデンベルグ。
彼はなんのために生き、そして戦うのか。




