75:竜人と黒魔術
天国へと到達したグレイスたち。
そこには竜の頭で人の身体をした竜人族が数人歩いていた。
一面に白い雲が足元に広がっているこの世界が、天国というところか......。
「不思議な感覚。まるで柔らかいベッドの上を歩いているみたい」
「くだらないこと言ってないでサッサと向かうぞ。私たちは彼らを説得しなければならない」
そうだ。私たちの目的は、竜人族を仲間に引き入れること。争いを止めるため、仲間を増やすため。でも、結局争いが大きくなって、仲間が一人、また一人と減っていく......。この連鎖を断ち切らなくちゃ。
「君たち、ここに何の用だ」
武器を持った竜人の一人が、私たちを警戒して話しかけてきた。
「私たちは、地上で暮らしているものです。今、地上では悪魔と天使、そして人間が争いをしています。私たちは天使からも悪魔からも自由になるために戦っています。そこで、あなたたち」
「断る」
竜人は私たちをにらみつけて話を遮った。これは前途多難だな......。すがすがしいほどの青空がなんだが羨ましい。
「どういうことですか!? あなたたちも天使の食料となっていて、嫌じゃないんですか?」
「どこからその話を聞いた? 私たち竜人族は地上との関係を持たないようにしている。君たちが私たちに出会うとしたらそれは死ぬときくらいだ」
「地上にいる竜人が教えてくれたんです。アリスという少女が今、地上のために戦ってるんです! 力を貸してもらえないのですか!」
竜人は腰に携えた刀を抜き取り、私たちに向けた。どうしてこうなるんだ!
「そのものは......。私たちの掟を破ったものの血を受け継ぐ者! いわば反逆者だ。そいつの仲間だというのなら君たちをここで裁きを下さなければならない!」
刀が振り下ろされると同時に、斬撃が足元の雲を襲う。私とマルファスは別々に分かれてそれをかわす。
『グレイス・アルマン、あいつを殺すか?』
マリスは私の隣に現れて静かに聞いてきた。そんな物騒なこと聞くなよ。
「今になって悪魔らしいこと言うなよ! 戦意を削ぐだけだ! 刀身を砕けば話を聞いてくれるはずだ!」
私はフードを被るような動作をすると、マリスは私の中に入ってくる。黒い力がまた私を包んでいく。
拳の中に回転刃のように風をまとわせる。魔法もマリスがいれば、人一人を倒せるくらいにはなった。これなら、刀くらい折れる!
「黒魔術:影縫い! グレイス、こいつの手出しは不要だ!」
マルファスの影が伸びていき、私と竜人の影を掴んだ。体が動かない!
くそ、あいつどうしてそこまで!
マルファスは動かなくなった竜人に向かって走っていく。暗具であるクナイのような短剣を逆手に持って竜人の首を掻き切ろうとする。だが、竜人はすんでのところでマルファスの術を破った。
「君だけが、黒魔術を習得していると思うなよ? 悲しき種族、魔人よ」
「なに? 俺の影から!?」
マルファスの影の中から現れた竜人は、マルファスの背中を冷酷にも切りつけた。傷は浅かったのか、彼はまだ動こうとする。
「普通の人間なら、下半身が動かなくなってもおかしくないのだがな。やはり、驚異の治癒回復能力があるというのは本当らしいな。さすがは王家の暗殺部隊として生まれた生物兵器だな」
「黙れ! 私は、ただの兵器ではない! アリスのために戦うと誓った戦士だ! 黒魔術:闇はがし」
「敵の魔力を一瞬で奪う黒魔術最高位の技か。だがそれは人間だけの話だ。契約魔法:ギガンテス!」
そういうと、竜人は脇から大きめの石を取り出した。そうすると、石から巨大にゆらめく魔物が出てきた。マルファスの黒魔術はその魔物に標的を移した。
「狙いがそれたか。竜人のくせに忘れ去れた魔法を知っているとはな」
「地上ではこの力は必要ない。ましてや、天使をも狩れる力だ。必要あるまい」
なら、どうして彼らは天使を攻撃しないんだろう。
「あなたたちは天使と共存しているの?」
「私たちは天使のために子を産み、戦い、そして死ぬ。それが定めであり掟だ。『種としての繁栄を望むならこの掟決して破るべからず』これが我らが竜人族の運命なのだ! 決して逃れることはできん!」
「マルファス、一旦力を合わせて戦いましょう。一人で勝てる相手じゃない」
「うるさい! だいたい、貴様も黒魔術を理解していないのにこいつに勝てるわけがない! 足でまといだ!」
竜人は私たちの仲間割れに呆れを示して、刀に魔力を籠め始めた。
「仲間割れか。人間界は醜い。個人の意思や行動に自由があるから争いが生まれる。我らのように運命共同体であればいいのだ。天使という絶対的なものの配下でいればいいのだ!」
「私は醜くても、運命に抗い続ける! 自由のために戦うと決める前から不自由だった! だから、みんなと同じになるために戦い続ける! 行くぞ、マリス!」
『一気に蹴りを付ける』
竜人の持つ刀が私に振り下ろされる瞬間、私は拳を握りしめて風の魔法を纏わせた。さっきと同じように......。少しでいい、真空状態を起こせば旋風刃となって刀身を砕く!
「エレメンタル:エアロカッター!」
「黒魔術:影鞭斬り!」
私の拳が彼の刀身に触れる瞬間、皺枯れた老爺の声が響いた。
「両者とも武器を収めよ!」
金縛りか、それ以上のような電撃が私たちを襲い、意思に反して拳が抑えられる。竜人の方も刀を収めていく。一体なんなんだ!?
奥にある神殿のような趣のある建物から髭のはやした竜人が杖を持って姿を現した。杖を床に一突きすると、私たちは一瞬にして彼の目の前に引き寄せられた。
「君たちは、人間だな。荒々しい歓迎となってすまない。私は、竜人族の長ヨルムガ。革命ののろしは私たちにも届いているよ」
長と言ったヨルムガの一声一声には力があった。
『人間』......。その言葉が自分の心に深く刻まれていくのを感じた。
竜人族、ヨルムガは一人の女性の話を始める。それは、「愛」という名の自由を追いかけた男女とその末路の話だった。




