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74:魔人と一緒に天国へ行こう

半ば強制でマルファスとともに自分の故郷へと向かうことになったグレイス。

彼女に待ち受けていたのは、壮絶なめぐりあわせだった。

 行く先々が懐かしく感じる。初めてサバトと出会ったギルド、フェニックスと初めて会った森、そして、フェンリルと......ジョンと出会った森を抜けて、私たちの生まれ育ったカマルの街までたどり着いた。


「ここ、私たちが初めて来たギルドじゃ......」


カマル街ギルドと書かれた看板が片方外れて斜めになったままになっている。人がいる気配はない。ギルドの受付嬢もいない。どこかに避難したのか、それとも......。


「誰もいないわね」


ギルドの中に入っても誰もいなかった。マルファスはギルドの奥にある食糧庫をあさりながら


「ほとんどの人間は国王に駆り立てられ、兵となっている可能性はある」


「そうなの?」


今は緊急事態とはいえ、泥棒まがいのことをしているのは少し嫌な感じだ。ただ、少し高揚感もある。前の世界では体験できないことだしね。変に心を浮つかせながら食料を自分のポシェットにしまっていると、マルファスはこちらに返答した。


「階級のある勇士はほとんど強制だ。貴様の両親も生きていれば駆り出されていただろうな」


「マルファスは私の両親が階級持ちだって知ってるの?」


「......昔、見たことがある。貴様に似てバカだったがな」


彼の言葉はいつも棘があるように聞こえる。なんで私に対してだけなんだろう......。


「また喧嘩でもしたいの?」


「フン、私は事実を行ったまでだ。......よし、この辺でいいだろう。さっさとアルマンの地とやらに向かうぞ」


ギルドを出て、カマルの街を横切っていく。見たことのある街並み、街灯が私たちを出迎える。ただ、人気はない。そして、私の生まれた領地へとたどり着く。


「私の家が天使の一番近くの場所にあるなんて、皮肉ね」


『天使の集う天国へと悪魔が闊歩する......。これ以上に最高の皮肉があるか?』


マリスは急に現れて、カタカタと音を鳴らして笑いだす。相変わらずこいつのこの笑い方は好きになれない。こいつとは長い付き合いだけど、幸せになるためには、彼と分離しないと......。


「このあたりに天国への入り口があるはずだ。探せ」


「いちいち命令、しないでくれる?」


「これでも革命軍の副官なのだがな」


私たちは私の生まれた家の周りを調べた。天国への道しるべがどこかにあるはずだ。両親になにかそのへんについて話なんてしてたっけ......。父の書斎か?


「父さんが集めていた本にヒントがるかも。2階見てくるね」


「わかった。私はもう少しこの周辺を見てくる」


私はマルファスを自分の家の庭に置いてボロボロになった階段を上がって2階を目指す。


「ここでウィナスに出会ったのよね......」


階段から玄関を見つめるとあの頃を思い出す。あれからどれくらい年月が経ったのだろう。4年くらい?それとももっと?


『あの時は力など到底かなわない相手だと考え撤退したがな』


「私たちはもうあの時ほど臆病でも弱くもないはず......。きっと勝てるわよね」


『だからこそ、勝つ策を見つけるのだろう? 父親の書斎はどこだ?』


「そこの端」


入ると懐かしい匂いがした。父の匂いだ。かすかでも覚えている。彼のまなざしを、ぬくもりを......。私は本棚をあさり、あらゆる書物を読んだ。


『なにか見つかったか?』


マリスが腕組みをしながら私を見つめていた。いや、手伝えよ......。


「せかすなら自分でも探したら? ......『魔人についての研究』? なにこれ」


古くなった書物だから読めない字がかいてあるかと思ったけど、私でも読める字だ。でも、この書き方は日記に近い書き方だ。これって父の研究?


『天国への道を差すようなものはないぞ......。おい、それはなんだ』


「父が研究してたものみたい......。魔人についての」


『魔人......。パンドラが言っていた悪魔と人間の融合とかいう......』


「ああ、いたわねそんなのも。書いてる感じによると、悪魔と子をなしたというより悪魔の血を瀕死の子供に分け与えたって......。これって、改造手術ってやつ? それに『実験』の内容がほとんど拷問じゃない」


『貴様の父親はとんだ外道のようだな』


「......。国のためとは書かれてるけど、擁護できるものじゃないわ」


ページをまためくると今度は、魔人と呼ばれるもののリストが載っていた。

そこには、パンドラの名前と共に、自分の身近にいる人物の名前も書かれいた。


「これって......」


「私たちの出自を知ったようだな。グレイス・アルマン」


本をパンと閉じ、部屋の外を見るとドアに寄りかかりながら剣を取るマルファスが映った。


「マルファス? あなたは一体何者なの?」


「その本で見たとおりだ。貴様の父、レイド・アルマンによって生まれた忌み子。国の利権によって作られた魔人の実験態とでも言えばわかるか? そして私は、貴様の父によって一度殺されている」


嘘、でしょ......。父が殺した? なんのために。


「なに、言ってるの?」


「そう簡単に大量の死にかけた人間がいるわけでもない。ましてや、成人では歯が立たないと思ったのだろう。彼の父は子をさらい、殺し、悪魔の血を持って魔人として生まれ変わらせていた。だが、貴様の母と出会い、貴様が生まれ、研究を辞め国に離反するように離れた場所に住み始めた。王国は彼らを殺そうとしなかった。なぜかわかるか?」


淡々と語られる事実に私はただ茫然と立ち尽くすしかなかった。母は、誰かのために怒れる優しい人だと語ったがそれも母の前だけだったのだろうか......。

 それにしても、もし私が生まれ、悪魔だとはっきりするまで平和なひと時が続けられたのは後ろに天使がいたからってことになるじゃないか......。


「もしかして、ここが天国や天界と近いから天使と父がつながっていた?」


「そうだ。貴様の父は、天使という力をほしいままに国から逃れてきていた。だが、貴様が生まれた。皮肉なものだな。貴様が悪魔とともに生まれたがゆえに天使は彼らを見放した」


「それが今の状況ってこと?」


「ああ、そして私がお前を殺す理由だ」


マルファスは、取り出した剣を私の首筋にそっと撫でていく。スーッと何かが落ちていく感覚とともに怖気が止まらない。


『貴様、はじめからこの状況を狙っていたのか?』


マリスがマルファスの剣を持つ手を掴むも、彼はマリスを無視して私に近づいていく。

刃はさらに深く首に入っていく。


「ああ、そうだ。グレイス・アルマン、貴様の血が天国への入り口を開く。あの本にはそう書かれていた」


「文字が崩れて詳細には読めないって」


「私以外文字は読めないのだ。多少の嘘を言っても気づかないだろう。アリスには悪いが恨みは消えないのだ」


「アリスに近づいたのも、それだけのため?」


私はマルファスを正面から見つめる。刃の力が緩むも、血が足元へ流れ行くのを感じる。


『グレイス! 死に急ぐつもりか!? 私の許可なく、死ぬのは許さんぞ!』

「あんたはちょっと黙ってなさいよ」


「......そうだっ! 恨むなら貴様の父を恨め! 貴様を殺して竜人の元へと向かうのは私一人だ!」


「私は父もあなたも恨めない! でもこれだけはわかる。私を殺しても、恨みは消えない! 悔いが残るだけよ!」


「うるさい! アルマンの血を根絶やしにして、あいつの幸せを少しでも絶やすことが私の宿命! 貴様の父が私たちにしたことを知らぬから恨みなど感じないのだ! やつは私たちをモノ以下に扱い、いたぶり、無為に殺してきた!」


「私だって、悪魔だと罵られて家を追い出されて、人を食らうというフェンリルの餌にしようとしていた恨みがある! だけど、私は恨めない! 私が恨むのは、父をそこまで考えるようにさせてしまった国と、天使だ!」


すると、マルファスは剣を収めた。わかってくれた、のか?


「簡単に言うな。だが、そうかもしれないと思ったからアリスの元で戦い、ここ来て......。ちょっと待て」


話しているとマルファスが先に異変に気付いた。彼の視線を追うと、私の血が父の書斎の床を魔法陣のような模様を描いて流れていた。


「これ、よくわからなかったけどよく見たら床に魔法陣が刻まれている!?」


「陣が完成されていく......。もしや、これが天への門の鍵?」


魔法陣は光始めると、書斎の床が開く。下には明かりが灯っていた。

下に降りると、人ひとりが通れるほどの洞窟が長く続いていた。しばらく歩いていると、虹色に輝くゲートのようなものが見えた。


「これが、天へと通じる道なの?」


「そうかもな。おい、グレイス」


「なによ」


「貴様が何をしたいのか、何をしようとしているのかは知らん。どこでくたばろうとも、殺されようとも知ったことではない。だが、私の......そしてアリスの邪魔をするようであるなら殺す」


その言葉に反応したのか、マリスはマルファスの胸倉をつかみにらみつける。


『......。簡単に言うなよ、小僧。貴様にどれだけの恨みがあるのかはどうでもいい。だが、グレイス・アルマンを殺すのは私だ』


「二人とも、喧嘩はやめてよね。これから竜人族に会いに行くんだからちょっとはおとなしくしててよね。ただでさえ誤解されそうなメンツなんだから」


二人を諫めつつ、私たちは天の門をくぐっていった。







魔人とは、悪魔の能力を受け継ぐため人工的に血を入れられた人間であった。

非人道的な実験の最中に作られた存在である彼らと彼らを創った男の血を継いだ娘は歩み寄ることはできるのだろうか。

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