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72:戦いの愚かさと向き合う心

戦いは一時的な休息を迎えた。

次が来る前にグレイスたちは態勢を立て直すためにも食事をとることにした。

時は静かに流れ、風は禿げた大地を撫でて、少なくなった木々に優しく触れていく。

食事の準備も整い、給仕が始まる。


「みんなの分あるからちゃんと並んでね? 今日はレイアと私が料理担当してるから今回はおいしいはず!」


アリスが意気揚々と鍋をかき混ぜるとほのかにいい匂いがした。まだ、匂いの機関は完全には失われていないみたいだ。味はわからないけど、匂いさえあれば食べられる。私も革命軍に交じって列に並ぶ。


「グレイス、あれ! なんだろう」


後ろに並んだサバトが空を不思議そうに見上げて指さす。あれは、星でいいのかな?

星空がやけに広く見えるこの場所を陣取ったおかげで一段と美しい光が私たちを照らしてくれている。


「こうやって、ゆっくり星を眺めるなんてしたことなかったわね......」


「ホシ......。なんだかいい響きだね。夜は悪魔が出るからって外なんて出させてもらえなかったし、ここまでの旅路ではずっと、下ばかり見ていたし、奇妙な雲と気味の悪い色の空が広がっていた......。こうみると、自分の悩みや怒りも小さく感じる......」


すると、レイアも上を見上げてぽつっと話し始める。


「綺麗ですね。この景色を私たちは守った、ということでいいんですよね?」


「きっとそう。私もこんな空見たことなかった。って、レイちゃん! ちゃんと給仕してよね?」


アリスは上を見上げるレイアに軽くしかる。レイアはハッとして、キンバリーに食べ物を渡した。


「あ、ああ......。すまない。ほら、キンバリーお前の分だ」


レイアはキンバリーの持っていた空の器にスープをゆっくり注ぐ。何のスープなのか私にはわからないけど、きっと黄金色に輝かせて湯気を立たせているんだろう。でも、キンバリーの気持ちはこの空のように晴れやかではなそうだった。どこか、まだ気持ちにモヤがかかっているよう......。


『アリス、給仕くらい私にやらせてくれないか? いままで私が何もできていないせめてもの償いに』


キンバリーをせかすように横からマルファスは忠犬のように片膝を落として話しかけている。どこまでもアリス第一主義なやつだ。


「別にいいよ。私はマルファスが役に立ってないって思ったことないし、それに言われなくてもあなたには皿洗いの手伝いをやってもらうけどね」


アリスもアリスでなんだか彼をよく知り尽くして手のひらで転がしているような目つきだ。どういう生き方したらあんな感じになるんだろう。


「あ、グレイス! はい、スープだよ。私たちの自信作だよ。 それに今日はドッパブレンっていう今じゃ貴重な主食も手に入れられたからお腹も膨れること間違いなし!」


「ありがとう。あれ、レイアその手は?」


レイアの手を見ると布を包帯のようにぐるぐる巻きにしていた。


「え? ああ......気にしないでくれ」


「これなら、料理のときのケガだよね? レイアの包丁さばき、超下手なんだから」


「上手い下手は関係ないです。私はただ、部下を労いたいから料理を振舞っただけです」


どうやら、顔に反して不器用らしい。アリスの言葉に顔を伏せるレイア。

まあ、私も前の世界では料理なんてしたことなかったし......。気持ちはわからなくはない。



「がんばって作ってくれたんだよね! おいしくいただくよ」


私は、二人から食事をもらってから少し歩いて、ちょうどいい切り株の上に座った。


『ここまで静かなのは久しぶりかもしれないな』


ふいにマリスが私の近くに座り始めて空を見上げた。彼の目を見ると少し安堵を感じる。


「そうね。ねぇ、マリスも実体を持つようになったんだからごはん食べれるんじゃない?」


『かもな。だが、前にも言ったように我々悪魔は貴様ら人間のように食事を必要としない』


マリスに食事を分け与えようとしたけど、彼はそれを手でよけて拒否した。なんだよ、せっかく人間様の食事が食べられるかもしれないのに......。こっちは食べれられても味がしないのに。


「やっぱ、味がしねえ」


『フン......。悪魔わたしとの契約の代償だな』


水のように味のしないスープを飲み干し、パンと同じ感触の食べ物を食いちぎって周りを見渡していると、やっぱり気になるのはキンバリーだ。

私は、立ち上がり彼の元へと近寄った。


「ねぇ、ごはん、食べないの?」


「殺したんですよ? 人を......。その人が食べるはずだったものを食べるなんて僕には......。ねえ、もうやめましょうよ! 天使なんか敵いっこないですよ。ほとんどの人は天使が人を食べていることを知らない。この戦争の意味も分からず流れ弾に巻き込まれて死んでいる人だって......」


「あなた、優しいのね。でも、私たちは真実を知ってしまった。人間が人間らしく生きるためには、神の力に等しい相手を倒し、今の体制を変えないと」


それでも、彼は意を決したように立ち上がり拳を震わせて私を見つめた。


「僕は、みなさんのように割り切れない。ガイウス様のお力を間近で見ましたよね!? それは、大地の力を借りて死者をよみがえらせる能力。こんなの奇跡以外の何物でもないじゃないですか! 僕には、病で死んだ母がいます。それを見通してか、天使様は救いの手を差し出した! 革命の血で穢れた私を! だから、目の前に現れた希望に僕はあなたたちの居場所を......」



「そんなことって......。でも、どうしてそのことを私たちに?」


キンバリーは申し訳なさそうにうつむきながら話を続けた。


「目の前の希望や奇跡にすがることもできた。でも、同時にその奇跡が何百、何千という同じ人たちの犠牲の上に成り立つものだと知ったら......どちらが正しいかとか、どちらにつけばいいかとかがわからなくなったんですよ!」


「本当にあなたなの? ねぇ、マルファス教えてよ。行方不明になった人の情報とかさ」


内心、彼を許せないという気持ちと彼じゃないという希望が混在した。彼の一言一言から湧き出るやさしさに賭けたかった。もし彼がスパイだったとしても、彼は悪くはないと思う。悪いのは、人の心の弱さにつけこんで手駒のように操る天使たちだ。


深く考えているうちにマルファスが口を開いた。


『行方不明になったということはただの報告にすぎない。それに、私は言ったはずだ「かもしれん」と』


確かにそうだった。この戦いに嫌気がさして単純に逃げ出したという可能性もなくはない。

そう思っていると、キンバリーはポツっと話し始める。


「マルファスさんのおかげで私に怒りの矛先が向かなかったのは少し、ほっとしていました。ですが、同時に怖かった。だからもう、みなさんを裏切ることはしたくない......。だから、私は抜けます」


予想通りの言葉だった。彼の優しい心が、怒りや憎しみそして苦しみで満たされる前に、解放しよう。それが、自分の掲げる『自由』の一歩だと信じて......。


「アリスは脱退とかそういうのは大丈夫?」


「うん、別に。うちのモットーは『来るもの拒まず、去る者は追わず』だから! この戦いは元から厳しい戦いになるってわかってたし」


その言葉を聞いて、キンバリーは深々と頭を下げて自分の荷物をとって消えていく。


「それでは。みなさんの旅路を祈っています......」


「うん。あなたも、気を付けてね......」


彼にかけられる言葉はそれくらいしかなかった......。これから先は彼自身の戦いだ。無事を祈ろう。

少しうつむき、肩を落としているとアリスが気持ち新たに提案してきた。


「こっちも増員しないとね......。じゃあ、ちょっと早いけど竜人族うちらの手、借りちゃう?」


そういえば、アリスは竜人族だった。彼女の住む故郷も知らないまま、過ごしていたけど一体どこにあるんだろう。


「アリス、あなたの故郷って?」


そういうと、彼女は天を指さした。


「天国だよ?」


????? え?


「えええええええええええええええええ!?」



一人一人が幸せのために戦う。

一縷の希望を胸にグレイスたちは竜人族の住む天国へと向かう。

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