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71:拠点奪回と裏切りのはじまり

キオナの尊い犠牲により王国の軍隊は退いた。

グレイスたちはそれぞれの思いを胸に戦地に集まる。

大事な人を目の前で二人も失ってしまった。その責任と辛さはとても重苦しいものだった......。


『グレイス・アルマン......何をしている』


「私の服で止血する。心臓も止まっているみたいだから心臓マッサージしないと......。マッサージは小学校とかでも習ってるから大丈夫だってマリス。心配いらない」


本当はわかっている。だけど、まだわからない。


『グレイス・アルマン、残念だが彼はもう』


「うるさい! ちょっと黙ってろ! どんなピンチだってこうやれば皆助かるはずなんだ」


『無駄だ。彼はもう死んでいる。目的は達成した。また会おう、グレイス・アルマン』


ノマドの声も、マリスの声も今は同じようなものに聞こえる。今は誰も邪魔をしないでほしい。

キオナの鼓動が聞こえないのは、きっと他のやつの声がうるさいから聞こえないだけだ。


『おい、グレイス! ノマドが逃げるぞ! 追わなければもう奴を仕留める機を失うかもしれんぞ!』


雑音が聞こえて集中できない。今は、彼を救うことに集中しないと......。


「グレイス! 何をしているんだ!」


私をキオナか無理やり引き離したのは多分、声からしてサバトだろう。


「サバト、止めないで! 私は彼を」


「キオナはもう死んでいる! これ以上、なにかをしてもそれは死への冒涜だ! ガイウスたちと同じになってもいいのか?」


今は、ガイウスの力が憎いほど欲しい。せめて時間が戻ってくれないだろうか。私はただ、涙を流すだけだった。


「......。ごめんなさい、ごめんなさい......」



「君が謝ることはないよ。グレイス、キミは最善を尽くした。キオナだって同じはずさ。でもどうにもならないことはある」


「私は、ただ幸せを求めていただけなのに。今となっては失うものが多すぎて、心が折れそう......」


「立つんだ、グレイス! 君は誰よりも生きなければならない。君自身の願いのためにも、なによりもキオナの死を無駄にしないためにも!」


そうだ。私はこの世界で幸せになるため、マリスと分離して自分自身の生活を手に入れるため戦っているんだ。世界を読み解くため、キオナは戦った。彼のようにいろんなことを知ろうとするこの世界の人たちのためにも私は生きないと......。


「うん。 ......キックスの部隊は?」


「唐突に退却していった。もしかしたら、キオナの殺害が今回の襲撃の目的だったのかも」


「許せない。人の命をなんだと思ってるの......」



立ち上がり、零れ落ちる涙をぬぐうとボロボロになったレイアと、彼女の肩を借りておぼつかない足取りでこちらにやってくるエリエが向かってきていた。



「キオナさんが、亡くなられましたか......」


「はい、今回の王立軍襲撃の目的もキオナ殺害が目的の可能性が高いです。グレイスともそういう話に今なっていました」


レイアに起きた出来事を淡々と話すサバト。サバトの見解にレイアはうなりながら首をひねった。


「なるほど、理屈はわかります。ですが、あまりにもピンポイントでの襲撃です。場所も特定されていました。となると、誰かがこちらの情報を漏らしている?」


レイアはそういうと、エリエはか細い声で否定した。


「私たちの目的は同じはずでしょ? だから、同盟を組んで戦っているんでしょ? 裏切る必要性......あるのかしら」



戦地となった森をかき分け、マルファスも合流を始めた。マルファスはレイアたちから大まかな話を聞いた後、口を開いた。


『我々の隊を確認したが一人消息不明になっていた。そいつがスパイといて動いていたかもしれん……』


「スパイというより、ノマドは他人に化けることができる能力を持ってる。もしかしたらその隊員に化けていたのかも......」



状況は誰も把握しきれていない。ただ、切り倒された木々や荒れた大地が静かに私たちを見つめていた。静かなところにエリエが労うようにみんなに笑顔をふりまきつつ、


「とりあえず......ここで野営しましょ。ちょっと、戦闘が多くて......うっ」


エリエさんがフラッと倒れかけたが、彼女の夫であるロンドが急いで彼女を抱えた。


「エリエ! しっかり......!」


「これは、先ほどの屍人から受けた傷ですね」


レイアが、少し服を脱がして彼女の身体を凝視し、顎に手を当てていた。屍人から受けた傷?

確かに彼女と会ったとき相当の屍人集団に囲まれていたし、傷だらけだったし噛まれていた。

だからって、まさかゾンビ映画みたいに屍人化するとでもいうの?


「屍人から受けた傷があったらどうなるの? ただの傷ではないような言い方だけど」


「わかりません。ガイウスという天使の能力は未知数です。地の力を使うということだけはわかっているのですが......。とにかくここは彼女の言う通り、ここに野営しましょう」


開けた大地に革命軍はそれぞれ散らばって布を広げていき、テントを張っていった。

すると私たちをここまで連れてきた隊員の一人、キンバリーが薪を淡々と運びながら話し始めた。


「ガイウスの部下、強かったですね......。どんなに傷つけても戦いをやめず突き進む。もう、無理なんじゃないですかね。自由を求めるのなんて」


無理なことに挑んでいるのはわかっている。それでも自分の思いを、願いを叶えるためには進むしかない。


「無理にまで戦ってほしいとは言わない。でも、戦わなければこれまでと変わらない世界のまま......。どう生きるかは、一人一人が決めるしかないわね」


自分でも自分の行動が正しいかわからないときがある。それでも、ここでもうひと踏ん張りしないと、前世のわたしみたいに無駄に時間を浪費してきっと後悔する。だから、やれることはやりたい。


「一人、一人がですか......」


キンバリーは顔をこちらに向けず、彼の持つ火打石を見つめてカチカチと鳴らして火をおこし始める。

炎の光に照らされた彼の顔は少し、疲労していた。




絆のない同胞たちに亀裂は走る。

天使はその状況に微笑みを浮かべて見つめていることだろう。

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