70:戦う理由と目的
始祖たる天使、ルシエルの目的はなんなのか。
そして、キオナの戦う理由はなんなのか。
「悪いけどグレイス、ボクは君たちに守られるほど弱くはないし、覚悟はしていた」
キオナは落ち着いた声で私を優しく包み込む。それでも相手は天使を創ったと言っても過言ではない人物だ。一人で挑むのは危険だ。
『私の目的の邪魔だ。エルフよ、消えろ』
ノマドは大きな鎌を使ってキオナの命をひたすらに狙い定める。
私はそれを何度もそれを払い落としてく。
『いつまで、一体化しているつもりだ? グレイス・アルマン......。キミとてわかっているはずだ。それに頼ると、自分の身体が蝕まれていくことに』
『奴の言葉に耳を貸すな、グレイス・アルマン! こいつは我々の敵だ。ここは、全力をもって叩き潰すだけだ!』
「分かってるわよ! だから!」
ノマドを足で払って、バランスを崩させたところに一気に銃をお見舞いする!
だが、その行動が読まれていたかのように、倒れたノマドに近づいたところにあのロングライフルのような銃を使ってこちらの顔を吹き飛ばそうとしていた。
「あぶな!」
「グレイス! エレメンタル:ブリザードテンペスト!」
キオナは自身の魔法が最大限かかる位置までノマドに近づき、氷の魔法を唱えた。
ノマドは身を引いたものの、彼の持っていた銃の銃口は凍り付き使い物にならなくなった。
『今の私でも2体1は不利か......。 仕方ない、ガイウスに作らせた屍人を使うか』
そういうと、彼は地面に魔法陣を描いた。そうすると数秒地鳴りが起きた後、一人の女性が現れた。彼女を見た途端、何が起きているかはっきりわかった。それを追い打ちをかけるように彼は彼女の名を告げた。
『王国最強の魔法使い。金級勇士、風使いのジュリア......。我ら、天使の眷属となりて厄災を振り払わん! さあ、私のために時間を稼げ!』
私はそのきれいな儚い銀色の髪を知っている。やわらかでいつでも抱きしめてくれる優しい躯体を知っている。それは紛れもなく母だった。
「天の、御心のままに。命を天に......」
「母さん......。ノマド、貴様!」
『私は彼女に手をかけていない。 彼らをたぶらかしたのは私かも、しれないが』
そういうと彼は仮面をかぶった。すると、彼の姿が神父のような姿となった。どこかで見覚えのある姿に首をかしげた。
『「勇士様方のご息女であることは間違いないのですが、残念ながらこの子には生まれつき悪魔が宿っております! しかも、魔力を吸う悪魔が! 彼女は呪われております!! 神父である私がいうのです! 間違いありません!!」と言えば、誰もが君を恐れた。君の両親も、信心深く、敬虔な方々だった。事実であることは間違いないのだが......』
「お前だったのか、初めに俺を悪魔呼ばわりした神父は! 俺の第二の人生めちゃくちゃにして何が狙いだったんだ!」
「落ち着け、グレイス。 君がどういう生まれだったのかは知らない。今となってはどうでもいいことだ。今大事なことは君のお母さんが敵として前に立ちはだかっているということだ。命を何とも思っていない奴らによって勝手に復活させられて......。ボクなら彼女の魂をあるべきところに返すことができる! だから、一緒に戦ってくれ!」
キオナの声でハッとした。人の命を道具や食料としか思っていない人間たちが目の前にいる。そのせいでこんな世界になってしまったんだ。だから革命軍が戦っている。私も自分のためだけじゃない、誰かのために戦う!
「分かった。私の母の魂を救うため、今は戦う! 行くよ、マリス」
『フン、ノマド......。私を地に落としたツケは高くつくぞ』
『下民どもが、所詮私が与えた力のなれはてにすぎない力で粋がるな』
ノマドは大きな鎌に炎を宿し私たちめがけて大きく横へ大きく振りかぶる。それをキオナは呪文を唱えつつ大きな氷の棒を作りながら近づいていく。
「大天使の片鱗、研究させてもらおうか!?」
『エルフには到底解読できぬ力だ。 反転魔法もその一つのはずだった!』
キオナの長い氷の棒はすぐに打ち砕かれていく。だが、その破片一つ一つをさらに応用してヌンチャクのようにして相手の腕に巻き付ける。
「魔法を知ること。それがボクの生きがいだった。幸い立地もよく苦労はしなかった。ただ、一つを除いて......。それが禁術、反転魔法陣だった。基礎魔法には5つそれぞれが相反する力であるにも関わらず、相手を使役する契約魔法には対応するそれがない。おかしいと思った。古い文献を読むにも、君たち天使が邪魔だった」
私が天使を潰してきたことで、その文献が見れるようになったってことなのかな。それなら少しうれしいんだけど......。
腕が身動きの取れない状態に陥ったノマドを私が拳で殴ろうとするも母さんが邪魔をする。
「悪魔め、天使様に指一本触れさせない......」
「母さん! どうしてあなたは私のところからいなくなったんですか? 優しくしてくれたのに! どうして悪魔だと信じ込んでしまったの? 確かに、私には悪魔がいます。でも、それが私なんです! 私はあなたにただ、抱きしめて欲しかった......」
意識のない母に抱きつき、隙を作ろうとするも振り払うように母、ジュリアは風の魔法を使って私を遠くへ追いやる。時には地面に叩きつけるようなこともしてきた。どうして、こんなことに......。
『無駄だ、グレイス・アルマン! その女はすでに我々のものだ。命を天にささげた崇高な戦士。悪魔に耳を傾ける』
「黙れ!!! 私はあんたを許さない......。私の存在すべてをかけて、母さんを取り戻す! キオナ!」
「いわれるまでもないさ。反転魔法陣:土くれへの鎮魂歌」
『やらせるか!』
ノマドは懐から小型の拳銃を取り出して、その引き金をキオナの腕めがけて撃つ。
私は必至でそちらへ行こうとするも、母親の使う風によりすぐに吹き返されてしまう。弾丸は、キオナの左手を破壊した。だが、魔法は母に対して少し効き目があったのか動きが止まった。
「キオナ!」
「ボクは大丈夫! それよりノマドを抑えててくれ! 魔法詠唱に集中できない」
ノマドは小型拳銃をさらに何発もキオナに撃つ。何発かは彼の足に当たるが彼はびくともしない。うち、何発かは私が割って入っていき空中にから打ちさせる。
『私の邪魔をするな!』
「何度も言わせないでよ。あんたが邪魔してるんでしょ? 天使だか何だか知らないけど、人の弱みに付け込んで甘言で人をだますあなたたちの方が悪魔じゃないの?」
『黙れ! お前たちはいずれ私と......』
そうしているうちにキオナの詠唱は終わり、母の身体は朽ちかけていた。
「グレイス、少しだけ......少しだけなら話せるよ。ボクには生まれた時から父や母がいなかった。こうやって話せる君が羨ましいよ」
「ありがとう......。お母さん、私」
朽ちていく身体を支えるように母の元へと駆けつけていく。このぬくもり、とても懐かしい......。
「なにも、してあげられなくて、ごめんなさい......。でも、最期にあなたの姿を見れてよかった」
「......いか、ないで。もっと......私」
いろいろ話したいことがあるのに、話すことができない。目の前で再び死にゆく母に、優しい微笑みで私を見てくれる母が、とても辛い......。
「髪、お母さんに似てきたわね。でも、こうして誰かのために立ち上がって誰かの代わりに怒れるところ、お父さんそっくり......」
彼女は、土となり、そして風となった。風使いの魔法使いとして栄誉ある死に方だったと言えるかもしれない。だが、天使は余韻に浸らせてくれない。
ドタッ......。
「キオナ!」
キオナが血を流して地面に崩れていく。拳銃で撃たれた跡から生生しく流れる液体と、今にも意識が飛んでいきそうな彼の顔から状況は最悪だということを知る。
『キオナと言ったな。私がこの世界に再臨したとき、私の叡智にたどり着いた賢人としてキミの名を世界に刻んでやろう』
銃声が一発、解き放たれる。マリスを使っても早い弾丸。自分の銃を使ってもそれらを避けていく軌道。そして、その弾丸はキオナのこめかみに直撃した。
『だが、その叡智を知るものは私一人となった』
知識とは独占するものではなく、広めるものである。
戦場に悲しみにくれる余裕はなく、ただひたすらに前を向き死者の思いを胸に抱くのみ。




