68:戦争と正義の行方
戦いの幕があがる。
キックス達がマルファス率いる別動隊に向かって侵攻している。
グレイスたちは彼らと合流しようと急いでいた。
ソルの街の武器庫への潜入、制圧はほぼ完了した。後はこちらにも拠点をつくることだけだった矢先、私たちの元へ革命軍の一人が悪い知らせを届けに来た。彼の名はキンバリーというらしい。彼は私たちを引き連れて、マルファスやエリエさんたちのいる部隊へと走り出す。
「キックス達どこから私たちの情報を聞いたんだろう」
「まさか、情報が洩れてるとでも言いたいの? グレイス」
アリスが表情を曇らせて聞き返してくるけど、私自身確証はない。でもあまりにも手際が良すぎるようにも感じる。
「城から出て数週間も経っていないのに、ここまで正確に私たちを狙ってくるのって確実に私たちの作戦が読まれているか、内通者がいるかのどちらかじゃない?」
私たちの推理に疑問を感じたレイアは少し間を開けた後、口を開く。
「......内通者がいるとして、メリットというのはあるのでしょうか」
「いや、反乱分子なんだから内通者に監視と偵察を目的としておけば十分メリットでしょ。そうしたら、相手の挙動もわかるじゃん」
「それで、戦争は止められるのでしょうか?」
「止めるというより、より有利に進めるため?」
「なるほど......。これまで我々は長く戦争というものをしてこなかったので内通者の存在を考慮していなかったのですが、考える必要がありそうですね」
戦争をしていなかった......。穢れのない大地を血で濡らそうとしている私たちは本当に正義と言えるのだろうか......。天使がいたから、戦争がなかったのか。それとも、戦争は元からなかったのか。それは私にはわからない。だからと言って家畜のように扱う天使を許すわけにはいかない。自由を掲げて戦う今、踵を返すわけにはいかない。
「ここです! まずい、ガイウスの屍人たちがもう進行し始めている!」
キンバリーの言葉に驚きを隠せない。アンデッド......。いわゆるゾンビみたいなもんだとは思うけど、外面では普通の人間とは変わりない。
『アリス! 少し、厄介になってしまった。手伝ってほしい』
「マルファス、あなた本当に厄介事を持ち込んでくるのがうまいみたいね。みんな、加勢するよ!」
アリスの合図で私たちはマルファス達とともに屍人集団を返り討ちにしていく。だが、彼らには痛点がないのか、刺されようが腕がはじけようが果敢に攻め込んでくる。肌が腐っていればいいものの、見た目は人間と変わらないため余計に気分が悪くなる。
『ガイウスの屍人人形たち、中々しぶとく戦ってくれるな。だが、私の当初の目的を果たさなければ......』
聞き覚えのある声を頼りに目をそこにやると、そこには大きな蛇に乗った仮面の男ノマドが大きな鎌を持って戦場を物色していた。
「ノマドォーーーーーーーーー!!!」
『グレイス・アルマン、今貴様に用はない! お前たちにふさわしい相手を送ってやる! 勇士の屍人! かつてこの世界を護った英雄たちよ! 今こそ、悪を討ち取れ!』
黄金色に輝く紋章を胸元に掲げた亡者たちは、おそらく死んだ金級勇士たちだろう。あの紋章を見たことがある。父親が昔つけていた気がする。
「こんなにも沢山......。王国軍の軍勢でも面倒なのに、ガイウスはこんな大軍を抱えているの?」
その中にもキックスは目を輝かせて彼らの指揮を執っている。以前よりも淀みのない瞳で私たちを見つめる。
「国を乱す悪魔たちに炎の制裁を! 皆の者、命を天にささげた者たちよ! 今こそ、我らが天使のために剣をとれ!」
キックスの高揚にすべての屍人が動き出す。私たちもばらばらになってうち構える。屍人は剣がなくなれば拳で、拳がなくなれば口でととことん私たちを追い詰める。私は、銃を使って彼らの脳天を撃つ。すると、彼らは再生せずに土くれとなっていく。
これは早く、みんなに伝えないと! 近くにいるのはサバトくらいか......。
「なるほどね。やっぱ、ゾンビには脳天直下ってことね。 サバト、みんなにこのこと伝えて! 敵の弱点は脳天! そこを狙って倒して!」
「本当かい!? ......わかった!」
そういうと彼は屍人の頭のみを氷漬けにして、その頭を砕いた。結構グロいことするな......。そうした後、彼はみんなの元へ走りだす。私も頑張らないと。
「くそっ! どんだけいんだよ!」
魔力が銃に吸われて力がうまくコントロールできない。たまにふらつくこともあったけど、ここで倒れる訳にはいかない。そもそも私は死なない。マリスがいる限り、私は倒れない!
「グレイス!」
突如、エリエさんがバジリスクの足につかまってこちらまで飛んできた。久しぶりに見た彼女の服は少しボロボロになっていた。バジリスクも少しケガをしていた。
「獣装って知ってる?」
「なに? なんの話?」
屍人に囲まれ、エリエさんと背中合わせとなる。この状況で何を言ってるんだこの人は......。
「知らないよね。じゃあ、これが最後の修行ね」
「最後? 何縁起でもないこと言ってるのよ。勝手に話を進めないでよ! それにあなたには子供がいたはず......」
すると彼女の腕に牙が食い込んでいるのが見えた。すると、屍人はその腕に嚙みついた。
私の言葉が聞こえていないのか、彼女はさらにガイウスの魔法について語る。
「土の魔法の最上級、リバースデッド......。屍人を生み出す魔法は相手が屍人に噛みつかれたときに穢された大地の呪いをうけてしまう。完全にやられちゃった。だから、最期」
ゾンビに噛まれるとゾンビになるとよくゾンビ映画で言われるものだけど、それが眼前に広がっている。彼女の儚い笑みは私の心にズンと影を落とした。
「わかった......。教えてください、師匠」
「よろしい。テイムしたモンスターたちの心と通わせて、武器に力を宿らせる。それが獣の装い、獣装よ」
力を武器に? それって、ゴーゴンと戦ったときに感じたあの力のことなんじゃ......。
「武器にモンスターの力を? あ、あのときのやつかな。 エリエさん、私前にそれやったこそあるかも! 以前に剣を使ったときにケルベロスと同じ力が宿ったの」
「ほほう! なかなかやりますなぁ。じゃあ、師匠の獣装お見せしますか!」
彼女は急に元気な顔と声で私を励ますように立ち振る舞う。きっと、自分の最期を悲しみで終わらないようにしたいんだと思う。そんな彼女にどう答えてあげたらいいんだろう......。
誰も逃れられない戦争という名の地獄の業火。
グレイスたちはその火をかき分け道を進む。




