65:ソル街襲撃と蛇の悪魔
革命軍とともにグレイスたちは戦況を持ち直すためにソルの街にあるという武器庫へ向かう。
しかし、まだ結成したての革命軍、すれ違うこともしばしば......。
アリスを筆頭とした革命軍と共に行動することになった私たちは、大きな戦いに向けてソルの街にあるという武器庫の襲撃を画策した。
初めてあの街に行ったときそんな噂ひとつも聞いたことがなかった。
「サバト、武器庫についてなんか知ってる情報ないの? あなた、あそこの出身だったじゃない」
「悪い、グレイス。僕はそんなもの聞いたことなかった。ソルエル様にもそんなこと話したこともなかった」
そういうと、レイアが前に出てきて話を始める。思っていたよりも背が高くてびっくりしたけど、彼女は本当に美しい女性といった感じだ。
「無理もないでしょう。ずいぶん昔の話ですから......。おそらくあなたも生まれてないかと、それに天使が私たちに、特に若い世代の子たちにそんな話しないでしょうしね」
天使と悪魔が存在し、魔法がある世界。この世界では天使が絶対的存在で、万物を想像し、魔法を生み出したとされている。でも実はそうじゃない。魔法も、世界も、自然にあるもので神や天使が与えてくれたものじゃない。だけど、それらを自分のものとし、養分とし、食らいつくそうとしている。
そんなの、人間が奴隷や家畜みたいじゃないか......。
「悪魔がうろちょろしてんだ。 少しは静かにして周りを警戒しろ」
バベルがマズルにしわを寄せて小声で私たちを叱責する。周りをもう一度見渡すと、大きな図体で角を持った鬼のような見た目のモンスターがのそのそと歩き回っていた。
「オーガにインプ? 古来の悪魔がうじゃうじゃいる!?」
サバトが槍を構えると、レイアは手を前に出して彼に下がるように命じた。
今は、戦っている場合じゃない。なるべく波風を立てないように......。
「アリスからの指示では、悪魔との戦闘はなるべく避けるようにとおっしゃっていたと思いますが」
「そうですけど、あいつらがいるとろくにソルの街に入れませんよ! それに僕は悪魔どもが我が物顔で自分の街をふらついているのが我慢ならないんです!」
「ちょっと、落ち着きなよサバト! あなたらしくないわよ?」
サバトがここまで怒りに満ちた顔をするなんて......。初めて見た。
それでも私は止めようとするも彼は前へ進む。
「グレイス、止めないでくれ!」
彼の手を掴み止めようとするもその手がすり抜ける。意外なすれ違いにアリスは慌ててなにも声を出せないでいた。サバトの気持ちはわからないでもない。でも、今は感情で動いたら戦争が過激になってしまう......。
すり抜けた腕を黒い腕がサバトを掴む。
『貴様が死ぬなら勝手にしろ。だが、我々を巻き込むな! 戦いが始まれば天使どもは総力を挙げて我々を殺しにくるだろう。多くの人間が賛同し、我々を囲い、火や石を投げるだろう。それでも戦うのなら勝手にしろ。ただ、忘れるな、悪魔は悪意を、恐怖を、怒りを闘争を好み、混沌をもたらすと』
マリスはサバトに静かな怒りを語った。悪魔は混沌をもたらす......。確かに、私がマリスと出会ってから混沌とした状況が多かった。だからこそ、なんとなく説得力があった。私ももっと冷徹にならないと、ここではすぐにすべてを奪われてしまう。
マリスの言葉でサバトは手を振り払うも少し冷静な顔つきになった。よかった......。私と同じタイミングで胸をなでおろしたアリスがマリスに素直にお礼を言った。
「ありがと、マリス。悪魔との戦闘を避けるというのも正解なんだけど、ここは隠密に倒して......」
アリスが言いかけると周りでドサッ、ドサッという音が聞こえてくる。
数体のオークが、近くまで来ていたことを察知していたバベルがそれらをなぎ倒してくれていた。だけど、その顔はいまだにいらつきに満ちていた。戦いというものを忘れて言い合いをする私たちに怒っているのだろう。
「お前ら、どんだけ時間がかかってるんだ。音を立てずに殺すこともできないのか?」
「バベル、あなたねえ......行動するならいいなさいよ」
「アリス、今は喧嘩してる場合じゃないんだぜ? もうみんなでワイワイ旅じゃねえんだ。行動してなにが悪い......」
その時、別のオークが私たちに気づいて角笛を吹こうとしている。まずい。ここは活躍できていない分、私が頑張らないと......。
「ケルベロス! 静かにやつの喉元を掻き切れ!!」
地面に稲妻が走り、ケルベロスは文字通り疾風迅雷にオークの元まで走りだし敵の喉元を適格に嚙みちぎる。これ以上何も起きないで武器庫にたどり着きたいんだけど......。
「みんな、ここからは集中して行くわよ」
引き締まる空気。そうだ。これまでがおかしかったんだ。悪魔が我が物顔で闊歩する街中をこんな風にしゃべりながら行くのは自殺行為だ。もう私は自暴自棄の頃の私じゃない。
物陰に潜み、悪魔の目からやり過ごす。ものすごく地味なやり取りが逆に握る拳に汗がじわじわとにじみ出て緩んでしまいそうになる。
じりじりと武器庫までの距離を詰めていく。だれも見つかっていない。見つかってはいけない。オークの大きな図体の死角を縫って次の死角へ。決して音を立ててはいけない。決して戦ってはいけない。
見つかれば自分で責任を持って処理する。それが私たちに課せられた使命。
「ここね」
アリスがいつになくキリッとした面持ちでその武器庫といわれるツタのような植物が生えまくったボロ屋を見つめる。
「はい。ここさえ押さえれれば、私たちに有利に働くことでしょう。どうします? もう突入しますか?」
「ええ、誰にも見つからないようにね」
アリスが指をさしたと同時に私たちは針金くらいに細い金属棒を武器庫の扉にかかった南京錠にあてがって強引に開けて中に入る。
「ここにさえ入れば、後は武器を持ち出して悪魔を誘い出すだけね」
アリスが朗らかに後ろを向いて話していると、暗闇から細長い何かが飛んできた。敵?
いや、武器庫は外からは侵入できないよう鍵がかけてあった。どうやって? いや、もとからここにいたのか?
よく見るとそれは蛇のようなものだった。二又にわかれた舌をピロピロと出して舌なめずりをしているようだった。暗闇でもうすぼんやりと見える瞳に動きが鈍くなる。
「あぁら、変わったお客さん♥ みんなかわいくてたまらないわ、食べちゃいたいわぁ」
ヘビがしゃべっているわけではなさそうだ。少なくともここにいる蛇よりももっと遠くから......。
その声の主なのかはわからないが、コツンコツンという足音がこちらに近づいてくる。
「大丈夫。まだ食べたり、石にしたりしないわぁ♥ たぁっぷり可愛がってあげる」
数体のヘビが頭に絡みついている。というより、蛇が髪の毛となっているようだ。彼女はもしかして、ゴーゴンってやつか?
「もしかして、あなたゴーゴン?」
「あなた、物知りなのね? 好きだわ、理知的な女性って。でも、すぐ死んじゃうんでしょうね残念。 だ、け、ど、うれしいわよね? アタシに殺されちゃうんだから......」
くねくねと体をくねらせて妖艶にこちらに近づいてくるゴーゴン。私たちは悪魔なんかに罠にはめられたの? とにかく、こいつが周りの悪魔を呼び込む前に倒さないと!
すれちがいつつも武器庫へ潜入できたグレイスたち。しかしそこにはゴーゴンが待ち受けていた。
彼、いや彼女との戦いは視界を使わない戦いになるかもしれない。




