64:悪魔と共闘
グレイスの前に立ちはだかる。悪魔という名の障壁。
自分自身にかけられている疑念と恐怖を断ち切れ!
「俺たちはお前ら悪魔が出ていくまでここに居座り続けるからな」
そういうと、農具を武器に見立てて人間たちが私たちの前に座り込んだ。アリスが座り込む人間たちに一人一人呼びかけていく。
「ちょ、ちょっと皆さん! 話が違いますよ? そもそも我々は悪魔から皆さんを守ってきたじゃないですか」
「それが胡散臭いと言っているんだ! 私たちの領土を奪って仲間は自分たちしかいないといいつつ、私たちを取って食おうとしているんだろう!」
「取って食おうとしているのは天使の方ですって! それは皆さんにお伝えしましたよね?」
アリスと人間たちが口論を続けていく。これじゃ平行線じゃないか。こんなのいざ、戦いに行くとなっても亀裂や考え方の違いでいくらでも裏切りが起きてしまう。このままじゃ、革命軍が分断されることもあり得る。
「ていうか、そもそもなんでアリス達が革命軍だなんてものをやってるの? エルフたちも村からソルの街に移住してまたこっちに移住してきてるし、いろいろ説明が足りないよ」
さすがに私を取り戻すためだけに革命軍を設立しただなんて思えないし、こんなに考え方も種族も違う人たちが一つになってるのが原因でしかない。
「うるさいぞ! 悪魔はすっこんでろ! 元々はお前たちのせいでここまで追われてきたんだろうが!」
そうだそうだと、他の人たちがうなずく。私のいない間に何があったの?
というより、もっと昔からの因縁くらいでないとここまでこじれていないような。
「竜人としては人間の皆さんとは再び友好的な交流を図りたいと思っていますし、それは他の種族も同じです。だから、今だけグレイスの力を借りることは許容できないでしょうか」
「無理だ無理だ! 天使様が降臨された前の話を持ち出されてもこちとら知らんのだよ! 俺たちは彼らから人間以外の種族は悪魔のしもべだと教えられたんだ。外にはびこる奴らもお前らも変わらん!」
「じゃあなんで、私たちに従ってきたんですか! その理屈なら私たちも目の敵にされるはず」
「それは......とにかく国の敵となったお前たちとは一緒にいられん! いっそのこと殺してくれ!」
『ならば、ここで死ぬか? いい死に様を見せてくれそうな貴様をここで見せしめに殺してやってもいいんだぞ』
マリスが人間の一人の顎を手でクイッとやって自分の瞳に合わせていた。人間は人語を介する悪魔に驚いて顔をこわばらせる。
『いいぞ。もっとその表情をみせろ。グレイス・アルマンより豊かな表情で助かる』
このままじゃ軋轢を深くするだけだ。私はマリスをその人から引き離す。
「驚かせてどうするんだよ! それじゃただの脅迫だ!」
『ならばどうするというのだ、グレイス・アルマン。世界は貴様の、いや我々の敵となっているのだぞ! すべてを潰さなければお前の言う自由はやってこない。貴様がいる限り彼らに安息という名の自由はこないぞ』
「わかってる。それでも、私は彼らの自由を奪いたくない。殺したいという覚悟があるなら私を殺せばいい! 私は小さいころから死にたいと願っていた。だからこそ『死』を覚悟して戦っている! そこまでの覚悟があるのか、あなたたちは!」
私はいままで死にたいと願って彷徨っていた。死にたいと口にしておいておきながら結局死ねなかった。死なせてもらえなかった。でも、死ななかったからこそ仲間と出会った。両親を殺した天使に対抗するため生き抜くと覚悟を決めた。今だから、いえる。私には目標のため死を覚悟して戦うと!
私の心が伝わったのか、レイアの領民の一人が心のうちを叫ぶ。
「私も街を取り戻すため藁をもすがる思いで革命軍に頼った! それこそ悪魔と契約する覚悟さえあると思い込んでいたさ! でも、実際に巻き込まれてわかった。そんなの怖いに決まってる! だから、あんたらを拒絶した。今の生活を崩したくなかった。でも、今のままじゃダメなんだ。私たちは街に誇りを持っている! レイスガルドの繁栄を取り戻すため今ならいえる。私は、悪魔と契約してでもあの地を取り戻したい!」
「俺も」
「私も」
座り込んでいた人々が次々と立ち上がり始めてその人に賛同する。みんな、怖かったんだ。恐怖が他人を拒絶していただけなんだ。
『覚悟というのは、麻薬なのか? 私には彼奴らがすぐに死を覚悟したのが理解できない』
「麻薬......。確かにそうかもね。これだけは死の恐怖を克服した人間にしかわからないのかもね」
『人間といいうのは案外恐ろしい生き物なのだな』
マリスが少し口角をあげていた。初めて笑った? いや、いつも笑っているけど真似していたり相手を怖がらせるためじゃない、心の底から笑っている感じがする。気のせいかな......。
マリスを横目に微笑んでいるとアリスが手をたたいて注目を集めさせる。作戦の続きを話そうとしているんだろうな。彼らのせいでめちゃくちゃになっちゃったし。
「さてと、みんなの結束が高まったみたいだしレイスガルド奪還作戦の会議を続けるわよ、この作戦は今後の戦いを有利を進めていくうえで重要よ。この意味、レイスガルドさんならわかるわよね」
レイア・レイスガルドは深くうなずき、淡々と説明を始めた。
「天使が一代で占領する前、我がレイスガルド領は騎士の育成と武器の流通に関しては一級品でした。火の国との交流もあり、レイブン王国の武器庫ともいわれていた時代もありました。今回の襲撃は土地の奪回もありますが、その武器庫の確保という側面があるのかと」
「当たり前だけど、初めてそんなの聞いた。サバトは知ってた?」
「いや、交流の歴史があったことなんて知らなかった。ただの隷属国家だとばかり......」
サバトと私が横やりを入れているとアリスが作り笑顔でこちらを見つめていた。あっ、すいません。
「しゃべっていい? 今の私たちの目的はソル街を奪還すること。いい? むやみに戦闘はしないのが吉だけど、もし邪魔なら数体は殺していいわ。何体かは交渉材料にしたいから生かして」
さすがに全員で押しかけるのは戦力の無駄だ。アリスは私、サバト、バベル、レイアさんの5人だけで先頭部隊を編成して残りはマルファスを筆頭に少数精鋭部隊として次鋒の守りを固めることにした。
これから始まるのはファンタジーの世界のRPGじゃない。生きるための戦いだ。
生きるための戦争が鼓動し、歩き始めている。
争いは人の疑念と恐怖心から生まれる。
あくまでその場しのぎではあるが同盟関係として活動を始める革命軍は恐怖を乗り越えカマルへと向かう。そこには蛇を宿す悪魔が彼らの前に立ちはだかる。




