63:最終拠点と分断
革命軍の拠点となったカマルの街にようやくたどり着いたグレイスたち。
新しい生活体系を整えようとする都市「エヴォリア」として最低限の繁栄を見せつつ、軍事拠点としての片鱗が見え隠れする。彼らは、革命軍を受け入れる。
だが、グレイスを歓迎している人間はそこまで多くないようだ。
革命軍の活動拠点であり、唯一悪魔や天使のいない場所となったカマルの街は、エルフの古い言葉で「新しい」という意味のエヴォリアと名付けられていた。このことはこの街についてエリエさんと会話していた時に聞いたことだ。
「ここ、周りが悪魔や天使がウロチョロしてる外界とは全然違うわね」
さっきまで自分たちを狙う人たちがいたことが嘘だったような空気感と安心感に身をゆだねていると、エリエさんが隣に立って人間が作業している風景を指さす。
「ここがきっと私たちの『新しい』生活スタイルになると思うわ。天使の恩恵を受けずに自分の力だけで生き抜くの。自然の恵みの循環さえ分かれば、魔法も力も必要ないからね」
「天使の恩恵を受けていないエルフたちの知恵が役に立っているってわけね」
自然は天使を必要としていない。だけど、天使はあたかも自分たちがいないとこの世界が成り立っていないという風に振舞っている。それはエルフたちが天使の加護なしで魔法を使えているのが証拠だ。獣人たちも、自然のことを本能で理解している。
エリエさんと談話していると、アリスの横に立っていたマルファスが獣人であるバベルに絡まれていた。そういえば、戻ってきたら覚えておけよって喧嘩吹っ掛けてたっけ......。
「よお、マルファス......。元気していたか? どうやらアリスの足は引っ張ってないみたいだな」
獣人であるバベルが首をパキパキと音を鳴らして牙をちらつかせている。
「アリスの足を引っ張っているのは隠密できていない隠密部隊では?」
「はぁ!? 誰がどんだけ説得してお前を仲間に入れさせてやったと思ってんだ!」
アリスが二人の肩をがっちりと掴んで笑顔で諫める。
「まぁまぁ、人目のある中で喧嘩しない。それより、 グレイスを含めて会議を開きたいからロンド呼んでくれる?」
成長したせいで少しいかついギザギザの歯がアリスの素晴らしくも恐ろしいチャームポイントになるなんて......。なんとなくアリスを見つめているとマルファスがしれっと背後をとってにらみつけていた。いやいや、何もしないって......早く呼んで来いよ。
マルファスとバベルはそれぞれ別の道に分かれてエルフ、獣人、そして人間の代表となる人物を一人ずつ読んできた。獣人はもちろん、バベルだが、エルフはオッカレ村長の息子であるロンド、そして人間には見知らぬ女性が立っていた。女性はどちらかというと私の母親くらいの年齢でありながらもスラリとした印象であった。そして彼女の特徴的な切れ長の目で他のメンバーを見渡している。
「アリスさん、彼女があなたの言っていた革命軍最後の要という人......ですか?」
切れ長の目の女性が丁寧な言葉遣いで私のことを聞いてきた。言葉の発し方が逐一品がいいことを鑑みるに貴族かなにかか?
「どうも、グレイス・アルマンです」
「なるほど、魔法使いの聖地アルマン領のご令嬢か。死んで悪魔と化したと噂になっていたがそうではなさそうですね」
「え? ああ、なんか昔そんなこと言われてたな。というか、追い出されたんでそんな大したもんじゃありませんよ。ところで、あなたは?」
そういうと彼女は少し切れ長の目を見開いて頭を下げた後、礼儀正しい挨拶をする。
「申し遅れました。私、ソルの町の中心として栄えていたレイスガルド領主のレイア・レイスガルドと申します」
「それで、レイアさんは人間の代表として革命軍に?」
「加担したというわけではありません。しかし我がレイスガルド領が悪魔の手に陥落していたところを助けてもらった恩義のため、そして取り戻すため一時的な同盟を組んでいます。中にはあなた方に守ってもらうことに不満を持つものもいますがそこは私が言い聞かせています」
うちってそんなにすごい家系だったのかなぁ......。小さいときに見放されて追放されたから覚えてないなぁ。そのあとは結局両親ともに天使に殺されていたし今となっては強さを図るものがない。
「とにかく、みんなこれからは私たちの土地を、自由を取り戻すための聖戦よ。相手は悪魔であろうと、天使であろうと関係ない。奪われたものは取り戻す。尊厳を、領地を、希望を......。バベル状況は?」
獣人の長であるバベルが前に出て獣人について話した。
「悪魔とも天使ともまともにやりあうのは分が悪い。だからこそ、両方が潰しあうようにするのが理想だ。そうするためには悪魔側へ交渉して同盟を組むか、戦いつつ天使の方へ向けさせるかの二択だ」
「天使側への交渉は......王様で無理なら無理だろうってことよね。でも、それは悪魔も同じなんじゃないの?」
私は単純な質問をぶつけた。
その時だった。数人の人間がピッチフォークを持って会議に乱入してきた。
「あなたたち! 我らの町を取り戻すまではおとなしくすると盟約したはずです!」
抑えているとは言え、限界があったんだろうな。私がいるっていうのがそれを助長してしまったのは言い逃れできない事実だ。私が彼らの同盟関係を分断してしまったといっても過言ではない。私がなんとかしないと......。 一人で考え込んでいると反旗を翻した一人がレイア・レイスガルドにたてつく。
「人間のあんたが俺たちになにをしてくれたんだ! 俺たちは、悪魔がいたからあんたについてきただけだ。悪魔をここに呼ぶだなんて気が触れているのか! 俺たちはあんたたちの政権争いやいざこざに巻き込まれるほどお人よしじゃないぞ!」
それに追従してもう一人の男がピッチフォークの柄の部分の先端を地面に叩きつけて威勢よく私たちに威厳を見せつける。
「自分たちの身は自分たちで守る! 悪魔と契約するだなんてもってのほかだ!」
多くの人間たちは悪魔に対し、嫌悪感を抱いていた。確かに、自分の住んでいた町を蹂躙した悪魔を目の前に味方にしてるなんて嫌だろう。でも、私は悪魔そのものじゃないしどうしたら彼らの怒りを鎮められるんだろう......。
争いの根は深い。
悪魔、天使、エルフ、人間、獣人......。様々な形の種族が混ざり合う中、人間はどう生きるのか。
グレイスはどう立ち回ればいいのだろうか。




