62:戦いののろしとカマルの街
戦いは、戦争はすでに始まっている。
自由を勝ち取るための戦いか、
悪魔にそそのかされたが故の不易な消耗か......。
私たちの帰路を邪魔するカゲロウ一派と名乗った男。確かに今悪魔の目を借りっぱなしだったからか、妙な人影がいくつか見える。3人、いや4人か?
彼らがカゲロウという天啓を天使からもらった集団......。同じ能力を複数人がうけることもあるんだな。そんなの初めて見た。
「あんたも見えてるのよね。マリス」
『あの馬鹿みたいに走りまわっている連中のことか? 見えているが、それがどうした』
「そう......。ならいいわ」
彼らの攻撃が見えてないアリスやサバトに当たる前に全員仕留めないと、後々不利になる。ならここで全員私の手で殺すしかない!
「何かがこちらに向かってきてる!? マルファス、あの子どこでなにをやってるの?」
人影は次々とアリスたちを襲う。それを私が一人ずつ掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返した。アリスの言う通り、マルファスはどこで油を売っているんだ。彼が見張りをしていたんじゃなかったの?
「お前たちに恨みはないが悪魔を倒せば国から報酬が出るのだ。往生せい!往生せい!」
森のざわめきと共にカゲロウ一派の一人が叫びだすと複数人の声で「往生せい」とこだまが走っていく。
どれだけ彼らは金が欲しいんだ。彼らの金のために死ぬわけにはいかない! 死ぬなら自分の意志で!
「みんな集まって! 背中合わせになるのよ! それなら私がみんなの目になれる!」
「そうはさせんぞぉ! ウワバミ、ロウミツ! であえ!」
二人組が私に集まってくるサバトとアリスの背後を取ろうとしてくる。だけど、そうはさせない。私の目の前で誰の殺させはしない!
「サバト、アリス! 槍と剣を持って振り返って! 背後から敵が襲ってくる!」
すべてを言い切る前に二人は後ろを向いた。サバトはリーチの長い槍を持っていたので位置は悪かったが振り払うことができた。だけど、問題はアリスだ。剣の長さだと相手に避けられやすい。とびかかってきたっていうのにそのカゲロウ一派の一人はさらに上へジャンプした。重力をも無視した動きに驚きつつもアリスの元へ駆けつける。
敵の自由落下が先か、それとも私の脚力が追い付けるか微妙なところだった。彼女に近づくたび走馬灯のように、あれだけ前の世界で死にたいと思っていた自分が懐かしくよみがえってきた。独りよがりな死の欲求......。それでも、生きてきた。生きてきたからこそ彼女たちと出会えた。そんな彼女たちの命を私が奪っていいはずがない!
「黒魔術マリオネット! この影術から逃れられると思っているのか?」
私がアリスにたどり着く前に影から突如としてマルファスが現れる。彼はなんの詫びもなく、カゲロウ一派の二人を黒いもので縛り付ける。
「な、何が起きているんだ!? 我らカゲロウの不意打ちを打ち破れるやつなど! ......! さっき追い払ったやつか!?」
「透明化......。ガイウスによる土属性の魔法の応用といったところか。だが、こいつらの弱点は熱。こいつらの体温だけは悪魔の目を持つものには見える。悪魔は色が見えず、体温で生物を認識しているからな」
え、そうなの? 私の目もマリスと契約をしてから彼らが見えたり、モノクロに風景が見えているのも全部悪魔の目だから......!?
「悪魔の目......」
『今更契約を解除してくれとすがっても無駄だ、グレイス・アルマン。我々と契約したら最後、二度と解除できない。それが、悪魔に魂を売るということだ』
「ひどいって罵っても、どうせ『悪魔』だからそういうリスクは承知しとけって話よね。はぁ......マルファス、そいつらそこで縛っておいて」
銃口を縛り上げられているカゲロウ一派の一人に向ける。
「あんたたち、天使に騙されてるのよ? それでもお金が大事なの? あいつらはいつか私たちに刃を向けて食事にしようとしてんのよ?」
「そんなこと知らん! 我らは明日をも知れぬ身。食う食われるも同じ。自然の理と思えば、今を生きることが先決であろう! 貴様らこそ悪魔に騙され、戦争と飢餓を引き起こそうとしているだけだ! 戦犯は貴様らだ!」
銃声が森林に鳴り響く。カゲロウ一派の一人は声を失った。さらにもう一人に銃口を向けた。
「あなたは? なにか言うことある?」
「破滅するぞ。この世界が......」
「破滅して当然の世界よ。自由に生きることを許されないなんて」
孤児は食料。大人も定期的に間引き。さらには天啓で純粋なる魂を選り好んでいることがわかる。この世界の人達はこの家畜制度になれすぎている!
バンという音とともに弾丸が少し炎を帯びてカゲロウ一派の一人は火だるまとなって燃え尽きる。
ただの銃弾のはずなのにどうしてこうなったの? まあ、別に殺せたならなんでもいいけど......。
サバトとアリスは鼻を抑えていた。どうやら相当クサいらしい。でも私にはまったくわからない。いや、分からなくなってしまったのかもしれない。五感がどうとかじゃなくて人としての何かが......。
「貴様ぁ!! ウワバミとロウミツを! ここはカゲロウ一派、殿のカイギュウが相手になって」
「カイギュウ様! ここは私、ゲッコウに」
「どっちでもいい! さっさとかかってこい!」
うざったらしい忍者ごっこにイラっときてカゲロウ一派の残りの二人を挑発した。影はいままでよりずっと濃くて見やすくなっている。4人の時より能力が弱まっているのか?
「うっすらだけど僕たちにも見える! アリス!」
「オッケー! マルファス、援護して! 私たちが剣と槍で確実にとどめをさせるように!」
「承知」
マルファスは再度黒魔術を使ってカイギュウとゲッコウを縛り付けた。
カイギュウはマルファスの一連の能力を見たとき、その能力について心当たりがあるみたいだった。
「おまえのその能力、知っているぞ! 魔人が禁忌だと言ういわれはお前にあるのだな! まさに悪魔の所業よ!」
彼の能力を知っている? 天啓だから知っているという意味なのか、それとももっと別のものなの?
どうにせよこの人の死に際の世迷言にすぎない......。
「ええ、自由を取り戻すためにも悪魔の所業をこなさないといけないわね。だから、大義のために死になさい」
アリスとサバトはカゲロウ一派の二人にとどめを刺した。やっとこれでひと段落できる。カマルの街に帰ることができる。草道をかき分けていると街並みに出てきた。戦っている間に町に近づいていたみたいだ。
「大変な目にあったね。でももう大丈夫。ほら、もう街だよ。私たちが守っている最後の拠点カマルの街あらため『エヴォリア』よ」
そこにはエルフ、獣人に加えて人間が数人ひっそりと暮らしていた。カマルの街は私の知っている街とはずいぶんかけ離れていた。街の外には住民以外を寄せ付けないような木製のバリケードに見張り台と急ごしらえでありながらも戦略的拠点のようになっていた。ここが、最終防衛ライン......。
疑念と悪意は感染する。
人が不安な時期に限ってそれらは加速する。




