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61:わずかな食事と戦いの洗礼

追手もこない異常な静けさの中で、グレイス達は休息のため食事をとる。

だが、戦士たちに休息はない。

追手もなく異常な静けさの中、私たちはアリスとマルファスに連れられてレイブン城からカマル町へと戻ることにした。城から城下町に下っても、人間は一人も見かけず灯りもない家屋が私たちをじっと見つめているように感じる。


「革命軍が脱獄したっていうのに随分、追手は悠長だね」


サバトが胸をなでおろすも、アリスの顔はピリついていた。まるで脱獄すること自体も想定されていたような感覚にさえなる。


「泳がされているだけよ。まあそれでもいいわ、あの天使たちの青ざめる姿をみれるならね」


山のふもとが近くなると、余計に人気もモンスターも存在していない。瘴気がどんどん重くなってみんなの足取りが重くなっていく。


「それにしても、寒いな。なんというか、ねっとりとした冷たい風が包んでいるような......」


静けさの中からサバトの言葉だけが響いて行く。確かに風が気持ち悪い。上空にはエネルギーのようなものがぷわぷわと浮かんでいる。彼らは誰かの体を借りようと現世を彷徨っているのか?山登りはあまりにも険しいため、山を迂回しながらカマルへと戻る道を探して海岸線を遠回りで進んでいく。


「ところで、マルファスってどうやって知り合ったの?」


私はアリス達と話せなかった時間を埋めようと言葉を絞り出す。でも、結局この新人が一番気になる存在となっている。マルファスはアリスの目を見た後、口を開いた。


「私はカマルの街で倒れていた。地獄から這い上がり、その町にいた何者かの体に憑依したのだと思う。地獄にいたころも、この身体の持ち主の記憶も分からない。ただ、マルファスという名だけが自分自身に刻まれたかのように覚えていた。混乱し、倒れていた私を嫌悪することもなく助けてくれた。それがアリスだ」


そう......だったのか。悪魔という存在であるものの、人間の体と一体化している状態なのか受胎告知のように生命が宿る瞬間に人から生まれるのかわからないけど、彼らはそこまでして人間になりたがっているのだろうか?


「アリスはどうして彼を助けたの?」


「え? 別に理由はないよ。ただ困っている人がいたから助けただけ。魔人だって言われても私は悪魔に憑りつかれた人に助けられたのに邪険になんてできないよ」


「そっか......」


彼女の言葉に少し安心を覚えた。あの時私が助けていなければもちろん彼女は死んでいたかもしれないし、生きていたとしても悪魔と敵対するよう洗脳されるか、天使も悪魔も魔人もすべてを壊す存在になっていたかもしれない。嫌な役割は私一人で十分なんだ。すべてを壊す。邪魔な存在はすべて消す。それが私の自由。


考え込んでいると、ぐぅという音がなった。見渡すとサバトが顔を赤らめてお腹を押さえている。


「ははは、なんだかお腹減っちゃった。みんなでお昼にしないか? 警戒していてもしきれないんだ。腹が減っては戦いに備えられないし」


そういえば、最近ごはんを食べてなかったけど空腹感を感じたことなかったな。3日くらいなにも食べていないはずなのに......。


「食べている場合か、貴様。カマルにつけばたんと食料がある。さっさと足を進めろ」


マルファスは冷たい態度で先へ進んでいく。それに少しいら立ったサバトは彼の肩を掴んだ。


「君は半分悪魔だから栄養とか知らないのかもしれないけどね。人間てのは食料を食べないと歩くことも考えることもおろそかになるんだ! 食べることと休むことは人間に必要な休息だ!」


「......勝手にしろ。私はあたりを監視しているからお前たちだけで飯でもくってろ」


すると森の影のなかに消えていった。彼らとともにご飯を共にするのは久しぶりだけど、正直お腹はすいていない。でも、栄養だけはとっておかないと体力がもたないかもしれないし......。


「......じゃあ、私の作った簡易食で済ませましょうか。ちょっと待ってて」


彼女は鎧の中から鏡を取り出した。あれは、次元鏡? そこから荷物を背負った鳥が現れてその荷物だけをもらい受けてもう一度鏡に戻した。


「アリス、あなたテイマーに?」


「ううん、エリエお姉ちゃんに借りたの。ここなら荷物も取られないしって」


薪を集めてから焚火をした後、アリスは次元鏡から取り出したバックパックのような荷物から包みを3つ取り出した。中を開けるとパンに謎の野菜と肉が挟まっているが、これはサンドイッチ?


「適当にいた草食獣の肉に臭みとりの薬草をパンで挟んだものなんだけど......」


「ありがたくいただくわ、アリス。いただきます」


サバト、アリスとともに一口。............味がしない。野菜の青臭さも肉独特の風味も、パンも......。これはこういうものなのか? 味付けと言う概念ないの? いや、そんなわけは......。


「どうしたの、グレイス? アリス特性サンドイッチ、おいしくなかった?」


「ううん、おいしくてびっくりしちゃった。ちなみに味付けは?」


「塩コショウと愛情? かな......。へへへ」


そんなの余計にいえない。私になんらかの異変が起きている。それは分かった。でもなにが起きているというの? マリスを見つめると大木に寄り掛かっていた彼は私にニヤリと笑って見せた。


「マリス、あんたは食べないの?」


『悪魔はもとより食という概念を必要としない。恐怖と憤りと契約によってエネルギーを吸収している。人間のものを口にしたとしても......味はしないし、栄養は取れないな』


まるで私に言い聞かせているかのように私のサンドイッチを指さした。私が、悪魔と同じ様な存在になったとでもいいたいの? 不穏な考えが頭をよぎる中、奥から草むらをかき分ける音が聞こえた。もしかしなくても追手が火に気が付いて?


「アリス、火消して......。草むらから音が」


そう言い切る前にアリスは火を消して周りを警戒した。さすが、革命軍の大将といっただけある。


「マ、マルファスってやつじゃないのか? グレイス」


「彼なら、物音を立てずに帰ってくるわ。二人とも、構えて」


アリスは今にも消えかかりそうな声量でサバトに諭す。サバトは瞬間に顔が引き締まり、自分のアイデンティティである槍を構える。


「隠れても無駄なんだよ。なぜって? 俺はお前たちが見えるが、お前たちは俺を絶対に見ることはできないからだ!」


突然、サバトの体が天高く舞い上がる。攻撃を受けているというの? いったいどこから!?

少しだけ、もやもやした陰がサバトのいた方からアリスの方へと走っていく。あれがサバトに攻撃した敵? なら、この銃でアリスに当たらないようにまずは下の方に当てる!


「ぐはぁっ!」


男のような野太い声が聞こえるとともに吹っ飛ばされた拍子に全様があらわになった。透明になる天啓ギフトとでもいうのか?


「そこにいるのは誰? 手をあげて投降しなさい!」


私が男の方へさらに近づいて銃を突きつけるも、男は逆上して喚き散らす。


「よくも......よくもよくもよくもよくもよくもよくも! 悪魔ごときが天使様から受け継いだギフト、【カゲロウ】を見破りやがったな!! だが、貴様らはすでに我ら、カゲロウ一派の術中! 逃れることなどできんわ! カマルの街を天に返すため、命を天に!」


よく目をこらすと人影が私たちを囲んでいるようにも見えた。アリスやサバトには見えていなさそうだけど私とマリスは見えているみたいだ。ていうか、マルファスは一体なにをしてるの?


突如現れた透明化の天啓を持つ「カゲロウ一派」と名乗る者たち。

彼らはなんのために戦うのか?

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