59:牢獄と王の言葉
ガイウスの圧倒的な能力に投獄されるグレイスと革命軍一行。
そのようなことも知らずグレイスは一人、夢を見る。
彼女の見た夢はなんなのか......。
そして、王は国民になにを語るのか。
ここは、どこだ?
なにがあったんだ?
私は確か、ガイウスという天使と戦っていたはず......。
『諦めろ、グレイス・アルマン。運命は変えられない』
なにもない空間に突如として仮面の男、ノマドが現れた。
『あんたはなにが目的なの?』
『運命へと貴様を導くためだ。そして、私の運命を戻すために戦っている』
『あなたの言いなりになるつもりはない!』
支離滅裂な言葉が続いて行く。彼が何を言いたいのかわからない。夢なのか、向こうが何かしらの干渉をしているのかわからないけど、彼は私の夢の中を縦横無尽に移動していく。
『私はかつて大きな力があった。いずれ貴様にもわかる。私と貴様は密接につながっていると......。私には貴様のすべてがわかる』
『他人のあんたに何がわかるの!』
すると彼はおもむろに仮面を取った。そこには以前、ここに来る前いつも鏡で見ていた顔が見える。
『貴様は私だ。私の名は――――』
「嘘だ!!」
「わぁ! どうしたの、グレイスお姉ちゃん! 落ち着いて!」
そこにいたのはアリスだった。みんなも少し意気消沈気味に座っていた。どういうこと?ここは、牢屋みたいに見えるけど......。
「え? どうなってんの......」
「私たち、掴まっちゃった。ごめんなさい、役に立てなくて」
どうやらガイウスの手によって私たちは捉えられてしまったみたいだ。あんな驚異的な力があれば脱出できるわけがない。
「いえ、みんなが私のために来てくれたってだけでうれしいわ。それで、私たちはガイウスにやられたの?」
アリスはうつむいたまま頷いた。みんなが口を閉ざしてうつむく中エルフ族の魔法使い、キオナが口を開いた。
「一方的な蹂躙だった。君が立ち向かった後、ボク達も続いたんだ。でも、彼がハンマーを地に打ち付けた途端、私たちは宙に舞い上がり、制御できない状態に......。プカプカ浮かぶ君をハエを叩くように地面にたたきつけた。その後、駆けつけた兵が私たちをここに連れてきた。私たちはガイウスが君を打ち付けた衝撃で同じように地面にたたきつけられたものの、君が一番重傷で3日ほど気を失っていた」
人を復活させる魔法に、おそらく重力を操る魔法か......。とんでもない天使だ。牢屋に入れられた多くの革命軍の人たちはキオナの言葉に意気消沈する。私を助けたばっかりにみんなボロボロだ。だからこそ、私がなにか喋らなくちゃ......。それにちょっとでもいいからみんなと話したい。
「そうだったのね......。でも、みんなが元気そうでよかった。いや、元気じゃないか......。話、変えよっか。こんなときに悪いんだけど、ちょっと聞いていい? アリス、成長しすぎじゃない?」
「えっ、そう? 竜人族じゃ成長は遅い方だと思うけどなあ。私、グレイスより身長越しちゃったかも! それにほら」
アリスが立ち上がった後、手を差し伸べて立ち上がらせた。確かに、彼女の頭は私の目線より少し上だった。というより、やっぱりその大きな胸に目線が行ってしまう。自分はそこまでないんだけど、別に羨ましいわけではない......。自分の目線を振り払っているとアリスは、ひょいと両手で私を持ち上げた。
「うわわわわ」
「あなたをこうやって持ち上げられる! 私、あなたを守りたくて強くなったんだよ? みんなに頼み込んでいっぱい勉強したんだよ! ......ぐすん」
彼女の瞳にたまる涙がこれまでの彼女の訓練の過酷さと私を失った不安感を物語っていた。
「一人にさせて、不安にさせてごめんね。頑張ったね。ありがとう」
私は彼女を精一杯抱きしめた。今の私が彼女にしてやれることはこれしかない。
「革命軍が持ち上げた英雄がどんな人間かと思えば、悪魔憑きとは......。そりゃ魔人をも従える肝が据わっている訳だ」
穏やかな空気が流れる中、一人嫌味たらしく口をはさむ子がいた。こんな子、初めて見た。エルフ族でもバベルのような獣人でもなさそうだ。
「えっと......。君は?」
「マルファス......。あの狂人パンドラと同じ魔人だよ」
魔人......。 一体なんなんだ、この種族。
「あなた達魔人ってなんなの?」
「世界に悪魔、というより悪しき魂があふれ出し人間の生命に憑依した。そんな中、多くの生まれた人間は悪魔のような容姿となったと言われている。王国はそれらを魔人と呼んで迫害している。そして、これから王国は人間に戦いを乞うことになるだろう」
そういうと、マルファスは水晶のようなものを取り出した。キオナがそのそばに杖を立てると城内の映像が映し出されていた。これは、ビデオカメラみたいなもの? にしても、何でもありすぎじゃない?
「天使の技術の一つで城中に同じような水晶があるんだ。それを今傍受してるとこなのさ。グレイス、これはボク達が見ているだけじゃない。ここの国民全員が見ている声明だ」
キオナが説明しているとぞろぞろと玉座に天使や人間が集まってきた。国王が玉座に座る中、途中離脱したと思っていたウィナス、私たちを牢屋に閉じ込めたガイウス、そして仮面の男ノマドのような人間も映っていた。
「ガイウスは分かるけど、ウィナス......いつの間に戻ってきたの? それに、あれはノマド?」
『全国民よ、通信結晶を通して聞いて欲しい。そして、見て欲しい。我々は、これまで以上の未曽有の危機に瀕している!悪魔の襲来とそれに伴った魔人の誕生である。......汝、隣人を愛せよと天使様は申された。だが、その時代は残念ながら閉ざされた。我々は隣人を悪魔かもしれないと疑わなければならないのだ!』
王の言葉は重く辛く、だが人々に希望を与えたいという思いが乗っていた。でも、どこかの誰かを悪魔だと思って過ごさなくちゃいけないなんて......。みんながみんなを監視しあう自由のない世界になるだけじゃないか......。私でさえこの新しい世界で悪魔に監視されてるようなもんで嫌なのに、みんなが同じ思いしていいわけがない。 だが、私の思いは届かず、王と天使の言葉は続く。
王は国民を立ち上がらせるため言葉をかける。自身の保身のため、そして天使の恩恵をうけるため。
国民は真実に目を背けて国のため剣を取るか、それとも自由のためその刃を向けるか......。




