58:革命軍とともに脱出せよ
グレイスたちの前に現れたのは、過去に彼女が助けた竜人アリス率いる革命軍だった。
彼女たちはグレイスに感化され自由を追い求め戦いを挑む戦士となっていた。
彼女たちの悲劇は続く。
混沌は混沌を呼んだ。
私は王国の人間について、天使について知りたいことが山ほどあると言うのに、親の仇であるウィナスは忽然と姿は消してしまうし、今度はパンドラという魔人が現れてしまう。
革命軍、特にアリスに会えたことはうれしいけど、国を守る兵士たちに囲まれているこんな状況じゃ出られるわけがない。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ウィナスという絶対的戦力と、王の卓越した契約魔法が封じられた状況で動ける兵士たちはいない。見てよ。天使を探していたり、私たちを恐れの目で見ている人たちが多いんだから私たちに刃は向けない」
だけど、アリスの言葉の通りには運ばず、真っ先に国王が動いた。
一人の兵士の槍を無理矢理奪い取って見せるその姿は、勇猛果敢というより投げやりに近い。
「恐れるな! うろたえるな! 決して悪魔に隙を見せるな。それが奴らの狙いだ!! あの悪魔どもを捕らえたものは金カーツ50枚を贈呈するぞ」
「き、金カーツ50枚......。通常の2倍だぞ? 一生遊んで暮らせるんじゃ」
「いや、一生遊んで暮らせるは言いすぎだが1年くらいは余裕で遊んで暮らせるな」
「よ、よし! 行くぞ!!」
絶えず押し寄せる人の波。我先に私たちの首を討ち取らんと醜く争い、こちらに刃を向ける。
『フッ、人間とはつくづく愚かで醜いな。まるで地獄だ』
「傍観してないでお前も手を貸せ!」
私は革命軍とともに囲まれていた。ここで捕まるわけにはいかないし、少しでも早く天使を殺したい。
「どけっ! 私の邪魔をするなぁ!!」
テイマーの師匠であるエリエが自分の相棒であるバジリスクを繰り出して相手を翻弄していた。
「バジル、つむじ風を起こしてあの人たちを追い払って!」
多くの衛兵はバジリスクの起こす風に巻き込まれて行き吹き飛ばされる。踏ん張ったとしても一瞬で私たちが手を下すまでもなかった。
「エリエさんのバジリスク、小さいのにすごいですね」
「あなたの持ってる凶暴なモンスターたちには敵わないわ。グレイス」
そう言われても実際、モンスターとの連携は彼女の方が断然うまい。もっと彼女から学ばないと......。
多くの兵士を吹き飛ばしていき、回廊を走り去る。サバトの氷漬け攻撃も相まって追ってくる人間も減ってきた。ただ一人を除いて
「君たちはこの城から逃がすわけにはいかない! それが王命!」
銃口を向ける銃装騎兵のキックス。
「キックス......。あなたとはなにか分かり合えるような気がしてたけど」
「黙れ悪魔め! 私は騙されはしない。 金ではなく、王国の名誉のため、貴様をここから逃がすわけにはいかない!」
彼の言葉にアリスが反論し始める。彼女が一番つらい目に遭っているはずなのにその雄姿はボロボロになった私よりよっぽど英雄のようだ。例えるならドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のようだった。
「グレイスは悪魔なんかじゃない! あなたたちが進行してる天使の方がよっぽど悪魔よ! 私の居場所だと思ってた施設も食料保管庫みたいなもんだし、エルフの村も焼かれた。天使がいる限り、私たちは幸せになれない。グレイスも幸せになれない。なら、立ち上がるしかないじゃない!」
「天使様の恩恵のため、犠牲はつきもの。食物連鎖と同じだ! 私たちはあの異形の神に屈するしかないんだ」
キックスとアリスがいがみ合い、にらみ合う中、一人の大男が自分の身長くらいあるハンマーを持ってドンッと突っ立っていた。
「キックス、悪魔と話をしても意味はない。彼らは我らと思考も倫理観も違うのだ。いつまでたっても分かり合うことのできない水と油なのだ。だからこそ、話し合いではなく果たしあいでなくてはならないのだ」
「五属聖のガイウス様......!? いつ、おいでになられたのですか?」
「ウィナスに頼まれて先ほど降りてきた。まったく、この人間界というところは血生臭く、醜い場所だな。だが、嫌いではないぞ? ふっふっふっ」
こいつが、五属聖の4人目? 図体がいままでの天使よりも何十倍もありそうだ。ていうか、回廊の縦横ギリギリの大きさってデカすぎでしょ! ドワーフのようなもじゃもじゃのひげで分かりにくいけど、口角が少し上がったような気がする。天使でも価値観って全然違うんだな。
「はぁ。なにより、あなたが来てくれたのなら我々の士気も上がります! ぜひ、我々と共に......ぐっ」
懇願するキックスに血管を浮かべてその大きな手で彼の体を掴む。
「士気というのは君たちがあげるものだろう? 人間の武人と言うのはこうも落ちぶれたのか? キックス、君は他よりも断然ましだと思っていたが見当違いだったのかもな」
聞いたこともないミシミシミシという音とともにキックスの顔が青くなる。
「あんた、その人を放しなさいよ! 仮にでも部下じゃないの?」
「人間は部下ではない、我々の駒に過ぎない。駒が我々の力のみを頼るのはとても不快だ。武人とは駒扱いされようと自分の足で立ち、自分たちの手で部下を鼓舞するものだ。人間の可能性とやらはどうした。もっと足掻いて見せよ!」
プチッという音とともにガイウスの拳から流れる血は私たちに彼の圧倒的な力を見せつけた。魔法なんかじゃない、ただの握力だ。いままでの天使の比じゃない。
「グレイス、あんなの無視してアリス達の拠点に行こう! 今度は僕たちがすり潰されてしまう!」
「そうだよ、早く私たちの拠点に」
サバトとアリスが私をせかす中、すでに王の術中の外で、老化現象も収まっているというのに足が震えている。動けない。
「おっと、ついカッとなって潰してしまった。君にはまだやることが残っているよ。さあ、地上の生命エネルギーにより復活せよ。【レクイエム・リボーン】」
彼は呪文のようなものを唱えると、さっきまで跡形もなく潰された肉の塊がひとつに集まっていく。かたまりは土偶のような形へと変形していく。さらに、ガイウスが息を吹きかけると、顔が出来上がり髪が生え、体が出来上がっていく。生まれたままの姿、つまり裸になってキックスは再び生まれ落ちたのだ。
これはまずい。こいつがいたら、どれだけ兵士を倒したとしても復活するってことじゃないか......。
「私は、一体なにを? なぜ、裸に?」
「とりあえず、ここはまかせて着替えて来なさい」
そういうとキックスは走ってどこかへ去っていった。
こんなとんでもない奇跡を目の前で見せられたら、どうしようもない。でも、自由を勝ち取るためには前に進むしかない!
ドスンッ!
突如として目の前が暗転した。
悲劇は連鎖していく。衣服のほころびが直らず、広がっていくように......。
革命のノロシは下ろされた。だが、天使の圧倒的な力に彼女たちは牢獄に捕らえられてしまうのだった......。




