56:街をつつむ黒い羽と革命のきざし
キックスに捕まりはしたもののレイブン王国の王と謁見することとなったグレイスたち。
王はなんのために彼らを捕まえたのか......。
国王は非常に敬虔な天使崇拝者ってのはよくわかった。それに、天使と契約してるみたいだ。異様な殺気と魔力を感じる。
ウィナスは不適な笑みを浮かべる。
私が生まれた家で初めて会った時も、降魔郷で再び出会った時も、美しくも妖艶で、怒りがこみあげてくるあの笑顔を浮かべていた!
「あんたが私の母を殺した! フロストのときもそうやって笑っていた......。今度は何を企んでいる! 誰を殺すつもりだ!」
ウィナスは笑みを絶やさず優しく語り掛ける。
「殺す? いやいや、そんな美しくないことはしていないさ。ただ、美しい魂をそのままいただいているのさ。君の母の純粋な心と悪魔への興味とはいえフロストのあくなき探求心......。後始末を要求されなくとも彼らは十分にぼくの美にふさわしい存在だったんだからね」
ウィナスの元へ駆け寄り、拳を振るおうとするも足が重い......。なぜか、関節が痛い。目も、ぼやけて見える。
「どうしたんだ? グレイス......」
「え? サバト、ごめんなんて言ったの? 音の攻撃を受けてたみたい......」
サバトの声が近くにいるはずなのに遠くで呼びかけているみたいに小さい。これは契約した王様の能力だというの?
「グレイス、下がって! ここは僕が引き受ける!」
ぼやけつつも見えるサバトの背中はとても頼もしかった。でも、このままじゃダメだ。敵の攻撃方法がわからないのにむやみに戦っちゃダメなんだ。
「向かってくるのか......。銀級が、この国の王に! ならば、相応の覚悟をしろ!」
見えない......。視界がモザイク処理のかかったビデオのように不鮮明だ。そうだ、マリスに見てもらおう。
「マリス! 今私はどうなってるの? サバトはどうなってるの?」
…………
返事がない。またどこかに消えてしまったの? 私を置いてどこに逃げたっていうの? そもそも今の彼はどこまで私の体から離れていられるの?
「返事をしなさい! マリス! 今どこにいるの?」
『少し黙っていろ! 悪魔の私でさえ、今起こっていることが飲み込めんのだ! いいか、今のお前はなぜか年老いて見える! いつ、どうなってそうなったのかはわからん。サバトも今、王に苦戦している。この王、タダ者ではない。今まで出会った契約者とも違う。私の目を貸してやる、さっさとその能力とやらを見極めろ! グレイス・アルマン』
マリスの気配が消えると目の前の景色が明るく広がっていく。ただ、色がない。サバトの青みがかった髪の色もビルデ国王の金の絹糸のような長い髪も白黒に移る。これがマリスの見ている世界なのね......。
サバトはビルデ国王から出てくる黒い影のようなものと槍で対峙している。少し押されている。ていうかさっきより国王が若くなって、筋力も増している? ような気がする。
「銀級の割にはやるな! だが、このビルデ王の影使いの魔の手から逃げられん!」
もしかして......あの影に触れて、私の体があんな風になったの? もし、そうだとするなら敵の能力は相手の若さとか筋力を奪い取る?
「サバト、その影に絶対に触れちゃだめよ! 私と同じように力を、若さを奪われる!」
「嫌な予感がしていたのはそのせいか!? あの影も魔法で実態化してるなら氷で動きを止められる! エレメンタルアイス!」
槍が地面に刺さるとその地点から凍てつく寒さと共に周りを凍らせていき、ビルデ国王の影と足元を凍らせた。
「行け、ケルベロス! その牙であの王をかみ砕け!」
ビルデは動かずに目を閉じている。何か策でもあるのか? すると、マリスが何か危険を察知したかのように慌てだす。
「待て、何か妙だ! 変な音が聞こえる!」
音なんて聞こえない......。いや、しまった。私は今、老化していて耳が聞こえにくいんだった!
パリンという大きな衝撃音とともに、ビルデ国王を足止めしていた氷が彼を取り巻く風で飛び散っていく。
「ギフトを、使いこなせるようになったね。王様♡」
ウィナスは王に近づいてそのか細い手で王の顔を自分に向かせておでこにキスをした。王は祈るように握りしめた後こちらを振り向き、私たちに自分の能力をh家ら貸す。
「私のギフトは『時間』だ。人間は人間の決めた寿命という名の時間に囚われている。だが、相手の『時間』を奪ってしまえば、私は人間が到達することのない未来を、永劫を常に絶頂で見られるというわけだ! 帝王とはこういった天啓をうけたものを指すのだ。貴様らには理解できまい、悪魔の手下よ!」
強い......。自分の能力が老いることも、劣化することもなく相手を弱体化させるなんて......。たしか、天啓の代償って寿命だよな? 寿命を奪える能力があればそれって無敵なんじゃ......。
王の能力に絶望しかけたところにさらに仕組まれていたかのように厄介事が現れる。王国の衛兵の一人が私たちの前に進言してきた。一体何しに来たんだ!
「失礼いたします! 陛下、大変です!」
王も私と同じような怒りを一兵士にぶつけた。
「私は天使様からもらったお役目を果たそうとしているのだ! 一体なんの用だ!」
進言を伝えにきた衛兵は兜を脱いだ。その瞬間、頭からちらりと角が見えた。だが、容姿は人間みたいだ。今までの悪魔とは違う。何者なんだ?
「役者を揃えに来たんですよ。ねえ、天使様」
悪魔のような彼は天使、ウィナスに目配せをした。ウィアンスは高らかに笑い始めたかと思うとよくわからないことを言い始めた。
「パンドラ、厄災を運ぶ悪魔である君が来たってことは、ようやく芽が出たんだね。革命軍が、愚者の行進が始まったんだね......」
革命軍? なんの話だ!? すると、ドドドドッという戦車が突き進むような音がしたと思うと城の地面に転がるがれきの一粒一粒が小刻みに揺れている。地震? じゃないよな......。
城の窓からのぞくと、街の通りに白い翼を模した旗印をはためかせて馬にまたがるエルフや獣人の姿が見えた。数千、いや数万か、彼らは一直線にこちらに向かっている。これは、敵なの? それとも......。
王の目的とは......。
風の天使、ウィナスの目的とは?




