55:黒い城と風の天使
火の国を後にするグレイスたち。
立ちはだかる、負傷の兵士。
そして、新たに彼女らを待ち受けるのは風の天使だった
一つの犠牲が払われた結果、水の天使そして火の天使をなんとか倒せることができた。
「あの子、悪魔のくせに変わってたわね。女子供には手を加えたくないとか、すんなり手を貸してくれたりとか......。ガラゴ、もっと話したかった。あなたともっと旅をしたかったな」
「しょうがない。僕たちは先に進むしかない。彼の犠牲を無駄にしないためにも」
今でもポシェットの中から「おい、俺様は生きてるぜ!?」と明るく言ってくれるかとポシェットの中を覗くも、そこには次元鏡しか入っていなかった。サバトは、ポシェットの中の空虚を見つめる私の肩に手を置いた。確かに、変えることのできない過去を嘆いても仕方ない。
「行きましょう」
二体の亡骸を背にして火の国はドンドンと遠くなる。そんな中、私たちの背後から片足を引きずっているような足音が聞こえる。誰かが私たちを追いかけている......?
「クソッ......。待てっ! お前たちを、連行する! 悪魔の、反逆者どもめ」
息も絶え絶えにしながら一人の男が後ろ手に語り掛ける。黒い羽のレリーフとカラスがあしらわれた黄色のメダルを胸の左側につけた騎士がボロボロの状態で歩いていた。
「あなた、まだ生きてたの!? あなたの上司は死んだのよ!?」
「ジョウシ? 私が忠誠を誓っているのはレイブン王国国王、ビルデ・レイブン国王だ! ヘルメウス様......いやヘルメウスは王国に繫栄をもたらす天使というだけだ」
『グレイス・アルマン、私はこの世界に少し興味が沸いてきた。この者のゴキブリ並みの生命力に免じてこいつに連行されてみようではないか』
確かに、私たちはこの世界を知らな過ぎているかもしれない。天使のことも悪魔のこともなんとなくでしか理解していなかった。この世界のなりたち......。ドワーフのいた火の国で見た遺跡ではカラスつまりルシエルがこの世界を創ったってなってたけど、じゃあ天使はなんでこの世界に我が物顔で住みついているの?
「まあいいわ。少し、この国の主に会ってみようじゃないの。えっと、あなた名前は?」
「悪魔に名乗りたくはないが名誉に国の名誉にかけて名乗らせてもらう! 私は、王国直属黒羽騎士団銃装兵兵長、キックス・レオパルド......。うっ」
生きていたとはいえ、ヘルメウスに体力を奪われているのか体が十分に動かせていない。この人に少しでも恩を売っておけば、きっと今後の天使探しにも役立ちそうだ。
私たちはキックスの言う通りに王国を目指すことにした。いや、目指すと言うより連行か......。彼の体力は使い方が雑かもしれないけどフェニックスの羽を利用させてもらった。彼はヘロヘロの状態だったのがたちまちにして活力を取り戻していく。引きずっていた足も元通りになって、私たちの前を威勢よく歩き始める。
「さっきまで死にかけてた人間とは思えないわね」
「助けてくれたことは感謝するが、私は使命を果たさなければならない。国王様が君をさがしているのだ。白銀のデーモンテイマーを」
ガラゴに初めてつけてもらった異名。初めの頃は好きじゃなかったし、今でもこそばゆい感じはあれど彼のつけてくれた名前が浸透していると思うと勝手に口角があがってしまう。
「グレイス、レイブン城が見えてきたよ! 城下町までくるのは初めてだよ! いや、観光できてるんじゃなかったよね、ごめん」
初めて見る漆黒のレンガ造りが青空を衝く城と白壁の家屋のコントラストが特徴的な城下町の風景に目を光らせつつも、ふと我に返るサバトにちょっとほっこりしつつ私はその禍々しくも平然と建つ漆黒の城をながめる。
「王国では黒が高貴な色とされ、白は庶民の味方「天使」の色とされている。さあ、中に入れ。最低限の恩人への配慮として特別に錠前は無しで謁見させてやるのだ。私の言うことくらいは聞いてくれよな」
キックスが城の内部に入れといわんばかりに背中を押し、ずいずいと国王のいる謁見の間へと連れて行った。国王は椅子に座ってひじ掛けに肘をついていた。
「国王様、白銀のデーモンテイマーを連れてまいりました」
国王はこちらを冷たく見下ろす。
「して、君の他にもいた騎士たちは? 五属聖様は? もしかして彼女に?」
「五属聖が一人ヘルメウス様、そしてマルレウス様が彼女の手によって葬られました。他の騎士がいないのは......彼女ではなくヘルメウス、様のいけにえに」
そういうと国王は立ち上がりこちらに歩みよる。荘厳な黒のマントに身に着けた青年の顔がはっきりと見える。こういう異世界の王様はひげを蓄えているおじさんくらいだと相場は決まってるからここもそうだと思ってたけど違ったみたいだ。国王はうつむくキックスのあごをもちあげて左右に勝手に動かした。
「そうなのだな。君は恐れを抱いているかもしれないが、天使のいけにえになることは名誉なことである。天使と我々は安寧の契約によって守られているのだ。契約にいけにえが必要だと彼らも唱えているからこそ、これは尊い犠牲である。解放され、自由という恐怖にさいなまれる彼らの魂に安定とやすらぎを......」
「お言葉ですが、彼らに犠牲をいけにえを捧げてまで守ることがこの国のため、人々のためとなるのでしょうか? そこまでするほど悪魔というは我々を襲う敵なのでしょうか?」
「天使に疑問を抱くなんて美しくないですね。団長はもっと我々に美しいほどの忠誠心を見せてくれていたというのに部下がこうも醜い悪魔にそそのかされては困ったものですね。陛下」
部下の疑問にあからさまに気分を悪くして顔をしかめる国王をよそに、言葉の片りんから美しさを感じる凛とした声が響き渡る。そしてなんの前触れもなく美少年が国王の背後から現れてきた。私は、あの顔を知っている。私の家に来ていた天使だ!
「ウィナス様、おいでになられていたのですか!? いやはや、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
ウィナスは美しい髪をなびかせてフゥと艶めかしいため息をつく。
「大丈夫だよ。天界十二使もだいぶ減ってしまったこちらも醜態晒してるしね。だからこそ、風の天使ウィナスは君に天啓を送ったんだ。ビルデ国王......」
彼らの体から漂う覇気のようなものが肌をなぞり、けば立たせる。彼らは契約しているのだとはっきりわからせてくるようだった。そして、彼の怒りの闘志はこちらを捕らえて離さない。
時代は動き始める。
革命の白い翼が開くとき、戦争が始まる
次回「街をつつむ黒い羽と革命の白い翼」




