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53:火の天使と水の天使 Ⅱ

グレイスとサバトの前に二人の天使が立ちはだかる。

天使の力は強大だ。

だからこそ強大な力を、それこそ悪魔を従えなければいけない。

 空は一点の曇りのない空からいきなり、雨雲立ち込める灰色の世界へと変貌していく。ソルエルと戦った時も同じようなことがマルレウスとヘルメウスの二人が出会ったことで起きているのかもしれない。

それだけでも強大な力だと痛感するけど、問題は彼らがその自然そのものと一体になれるという点だ。


「おらおら、どうした!! さっきまでの威勢が嘘みたいだぜ!」


マルレウスは炎となり、周りを囲む。彼の不敵な笑みだけが私を捕らえている。炎が壁となってサバトと分断されしまった。


「このまま蒸し焼きにしてさしあげましょう」


マルレウスの内側にヘルメウスが水となり、私に水蒸気を当てていく。水は私の肌を撫でて蒸発していく。まるでサウナにでもいるような空間となっていて体が重く、しかも相手に攻撃も仕掛けられない。


「水が蒸発して熱風が気持ち悪い! しかも、二人とも実体が捕らえられない!」


息をするのも熱くてしんどい。彼らはそれを知っていて連携プレイしてくる。さすが、五属聖とも言うべきだろうか。クソっ、頭がフワついて何も考えられない!


「諦めたらだめだ、グレイス!」


サバトが私の周りにまとわりつく炎を槍でわたあめのようからめとっていき、ヘルメウスの方へと槍を振り下ろす。振り下ろした瞬間、からめとった炎は、ぎらぎらと燃え盛りながらヘルメウスめがけて勢いを枯らさずに突き進む。炎はヘルメウスを飲み込み、竜巻となり、彼女の水分からだを搾り取る。


パァンッ!!


衝撃波に近い風がこちらに吹き寄せる。目を覆ってしまったので何が起きたかわからない。手を叩く音?

目を開くと、炎の竜巻はマルレウスの迫真の一本締めで鎮火されてしまったのが、彼が手を合わせていたことからわかった。


「足を引っ張んなつったろうが。ヘルメウス! お前がいると俺の力が全力で使えねえだろうが!」


「あら、意外と優しいのね。でもね、私の源はこの世界の水そのもの。そして、人間にも水分はあるのですよ。言っている意味はわかりますよね」


「ヘルメウス様、何を!?」

「うわぁ!!!?」

「し、しぼりと、ら......れ」


ヘルメウスが連れてきた騎士たちがバタバタと倒れていく。

濡れたぞうきんを絞るようにヘルメウスから伸びた触手のようなものが兵士の水分を、養分として吸い取っていく。


「あんた、非常食としてあの兵士たちをそばに置いていたの?」


「だから、なに? あなたたちは我々天使の格好のエサなの。契約するのはより上品で上質な魔力と寿命を得るため。あなた達は契約すれば私たちと同等の力を得たとぬか喜びする。ウィンウィンでしょう?」


「そんなわけがないでしょう!」


私はすかさず、使い方の分からない拳銃の引金を引いた。以前にマリスから魔力を吸われたような感触が体全体を襲った。貧血になった時体が浮いてしまうような恐ろしさ。拳銃から大きな弾丸が解き放たれたのがわかった。


だが、その大きな弾丸は二人の天使にかすりもせずにしなしなになって動けなくなった兵士たちを灰にしただけだった。私自身の魔力でこんな威力が......。薄れいきそうな意識でも平気で命が崩れるのが見て取れる。


『おい。あまり自分の体を酷使するな、グレイス・アルマン! その銃はおそらく、貴様自身の魔力を弾丸として生成し、発砲している可能性がある』


マリスが私の前に立ち、天使たちを見つめ笑みを浮かべる。マルレウスは額に血管を浮かべマリスに向かって火の矢を放つ。


「いまさらそんなちゃちな武器の使い方を知れたからといってどうというんだ! 劣勢のお前が笑うな!」


その攻撃はマリスには当たらなかった。よく見たらマルレウスの手は少し震えていた。もしかして怯えている?


『なら、なぜ貴様の顔から焦りが見える。彼女の攻撃に恐怖を覚えたからではないのか? 私は恐怖を感じることができる。これは私の好きな“死に怯える恐怖心”そのものだ! ではその命、もらい受けるとしよう。天使を食らえば私の姿も戻るかもしれんからな』


「だまれ!」


マルレウスは自分の炎で作り出した弓と矢をしまい、手刀で私たちの懐に攻め入る。それでも私たちはこの戦いを諦めない。体の動かない私を守護まもるようにサバトの長い槍の柄がマルレウスの手刀を防ぐ。


「この天使は僕が引き受ける! 君たちは水天使の方を!」


サバトは私たちからマルレウスを遠ざけた。ヘルメウスは二人に関心は示すものの動かなかった。マルレウスのことなんて心配してないの......? というより彼女はこちらの方に興味があるようだった。ヘルメウスはゆっくりとこちらに顔を近づけた。


「悪魔に恐怖するほど私たちは弱くはありません! うぬぼれるな、私は五属聖のヘルメぅ......」


怒りを覚えて激高したヘルメウスの体が急に自分の体形を維持できなくなっていた。女性のような出で立ちはズルズル、ドロドロと地に流れ出ていく。


「どうなってるの?」


『わからない。もしかしたら先程の貴様の弾丸の影響かもしれん。確実に言えることは、その天使はすでに死にかけている。死の恐怖が増大しているのを感じる』


マリスは自身の腕を鋭い刃物に変えてヘルメウスの命を刈り取ろうとした。だけど、彼女の最後のあがきか、すべての水分をマリスにまとわりつかせた。息が苦しい。彼に起きていることがダイレクトに私を苦しめている。だからといって私は悪魔と心中するつもりはない!


「魔力が弾丸なら弾丸を入れるマガジンは私自身。大きさも段数も決めるのは私の自由。だったら、自分の意志で自在に扱って見せる!」


引金を引くと、銃口からさっきよりもだいぶ小さい弾丸が数発放たれた。魔力切れは起きてない。原理は分かってないけどヘルメウスは水の形状をころころと変えていく。その様子は彼女自身が苦しんでいるように見える。

息苦しさがマシになった気がする。これならマリスも自力で出られるはずだ。


『ハハハハハ! 取り戻したぞ。私の顔、声、そして力!! そして、天使の力は私の力となった!」


自分の周りにまとわりついていた水のかたまりを食い破り、水しぶきに変えて現れたのはヤギのような頭蓋骨のような顔と、太ましく禍々しい二つの角を持った悪魔だった。


「あの時、最初に出会った時の姿形と同じ......。危険で恐れなきゃいけないのに、安心している私がいる。それがなによりも恐ろしい......」


マリスは恐れを抱く私をよそに骨をカタカタと音を鳴らしながら笑い続けていた。

恐怖と安堵の感情が入り交じり、混雑するもマリスを制御してサバトの元へと向かうグレイス。

そこには炎を取り込んで巨大になっていくマルレウスの姿があった。

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