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52:火の天使と水の天使 Ⅰ

グレイスは悩む。

自由とは何か、束縛とはなんなのかを......。

過去の自分自身の境遇は不幸であったかもしれないが、悪い部分だけでもなかったのかもしれない。

 思えば、いままで自由なんて当たり前のことだと信じていた。以前のわたしの両親が面接に落ちて歪んで引きこもっていた時期に何も言わずに支えて自由にさせてくれていたことや、変わらずに接してくれていたことがどれだけ心を救っていたかここにきてよくわかった。

 グレイス・アルマンとして、ここに来てからというもの家系によって敷かれたレール、それに伴った才能主義の両親、しがらみから自由になったとたん訪れた新たな不自由......それらを振り払おうと幾度となく戦ってきた。それに対して称賛する者、反発する者......。多くのヒトに出会ってきた。それでも、私の心は変わらない。私は私の意志で自由を手に入れる。今はそれを手に入れられる力があると信じている。


「その銃、どうやって使うんだい? グレイス」


「決まってるじゃない。こうやって、マガジンをってあれ?」


エアガンでさえ使ったことない俺でさえ、銃にあるマガジンに弾丸をセットすることくらいは知ってる。でも、この銃にはそんな機構持ち合わせていない。マガジンを排出する機構もマガジン自体もないのだ。


「どうしたの?」


サバトが心配そうにこちらを向いてきた。


「マガジンがない。そういえば、弾丸ももらってないんだけど!? こんなの鈍器でしか使えないじゃない!」


火の国にある火山地帯はもうすでに見えないというのに変な汗が噴き出て止まらない。どうやって使うか、クルクに教えてもらわないまま出てきてしまった。


「落ち着きなよ! 君がなにを言っているかはわからないけど、君が思っている「銃」とは違う構造をしているんだと思う。僕は正直、そんな武器扱ったこともないし、王国でもみたことがないからわからないけど、魔石を使っているなら魔力をこめれば使えると思うよ。僕の槍から魔法が使えるのと同じようにね」


サバトの槍をしっかり見る機会なんてあまりなかったけど、彼の槍の刃と柄の間には魔石が輝いていた。


「魔法の使えるものは魔石を武器に埋め込むことで自身の魔法を武器に込めることができるんだ」



「俺たち天使も、重宝しているぜ? この世界のクズどもでも食料以外に役立てるところがあって驚いてるよ」


火の天使、マルレウスが首を鳴らしながら私たちに近づいてくる。無断で洞窟から出てきたのがもうバレたらしい。


「マルレウス!? いつの間に?」


「『いつの間に?』っじゃあねえよ。てめえ、労働さぼってどこ行く気なんだよ」


「私は他にやらなきゃいけないことがあるの! 私にはこれがある! この銃があれば五属聖のあなただって怖くない!」


ポシェットから素早く銃を取りだす。正直今はどう使えばいいのか、引金さえ引けば使えるのかさえ分からない。それでも、脅しとしては効くはず。


「銃か! 王国じゃあ金級でも選ばれたものにしか流通してない代物をどうやって手に入れたかしらねえが、気に食わねえ。クソ以下の役の立たねえ悪魔のくせに!」


「グレイスをその辺の悪魔と一緒にするな! 僕からすれば偽りの平和で人々をだまして、自由や意志を奪い取り食い荒らしてる君たちの方が役の立たない害虫だ!」


天使の元で悪魔を憎み、平和のために戦ってきたサバトの言葉とは思えない。ここまでの旅を経ていろいろ考えが変わってきたのかもしれない。私自身も変わり続けている。少なくとも今は今までとは違う。恐怖を乗り越えて、自由を勝ち取る。その日までは絶対に折れない。


だが、マルレウスは依然として平然とした態度を取っている。むしろ、余裕の笑みを浮かべている。彼の視線は私たちに向いていない。眼中にないとでも言いたいのかと叫びたくなったが、急に悪寒が走った。

背後を振り向くと、水の塊がバッシャ、バッシャと近づいてくる。そして、その後ろには騎馬隊が数人来ていた。

あれは、五属聖の一人水天使ヘルメウスだ。あいつも私たちのことを嗅ぎつけてきたのか!?


「あらあら、下級天使の元で駒にされていた槍士がよく言うわ。この世界は我々天使の名のもとに平和があることを忘れて吠えている。反逆者が英雄気取りとは、ここはひとつ水天使である。この私、ヘルメウスもお力を貸しますよ、お兄様」


「その呼び方をやめろと言っただろ! 俺は五属聖なんて肩書も家族もいらねえんだよ。だから俺は火の国へ行ったんだ」


「それはあなたが粗暴な天使だからウィナスお兄様にレイブン王国から追い出されただけでしょうに......。まあ、いいですわ。銀髪のデーモンテイマー、グレイス・アルマン。さあ、絶望しなさい。そして我々の供物になるのです」


「そんなものになんてならない! 私は供物でも、世界を正す戦士でもない。ましてや銀髪のデーモンテイマーでもない! グレイス・アルマンだ!」


「うるせえんだよ! てめえの名前なんて興味ねえ。ヘルメウス、俺の邪魔だけはすんなよ!?」


今まで出会った天使の覇気オーラよりも禍々しく揺らめく二つの魂。二人の強さが肌でピリピリと感じてくる。足を後ろにやってしまいそうな圧迫感、だけど、私は自分の足を前へと踏み出していく。


サバトも私の隣にいてくれている。マリスも戻ってきた。頼りにならないけど、ガラゴもいる。ケルベロスもフェニックスもいる。だから、きっと活路きぼうはどこかにあるはずなんだ。

激戦、始まる!

水の天使、ヘルメウスそして火の天使マルレウスがグレイスとサバトたちに立ちはだかる。

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