51:遺跡と悪魔
古代のレイブン王国のことが描かれた壁画があるという遺跡へと案内してもらったグレイスとサバト。
そこで見た創生の神話とは?
彼女が背負う運命とは?
洞窟で働くドワーフたちの寝床から起き上がると、昨日から私たちの周りを世話してくれていたドワーフが待ちくたびれているようだった。
「お前ら、全然起きんの」
「早起きするタイプじゃないし、いままで全然休めてなかったっていうのもあるのかも」
サバトと一緒のタイミングであくびをしていると、ドワーフが私たちのお尻を叩いて遺跡の方へと歩かせていく。
火山地帯にあった洞窟を抜け、製鉄所を抜けて、岩肌の多いデコボコ道を進むと、石造りの遺跡が見えてきた。遺跡は角ばった印象で、マヤ文明の遺跡のようだった。
「クルク、お客さんが見えとるぞ!」
「はぁ? 遺跡巡りとは酔狂なやつもいたもんやなぁ......」
小人のドワーフにしては少し大柄で、短めのひげをはやした顔をなでて私たちを不思議な目で見つめる。私たちは彼に遺跡について話を聞いてみた。
「天使と悪魔についての遺跡があるって聞いたんですけど......」
「おまえ、悪魔使いか?」
「ええ、まあ......。マリスは見えてるよね。私と顔がそっくりな人。それが私の悪魔よ」
私は隣にいるボサボサ髪の同じ顔の自分を指さした。マリスは私の指をはねのける。
『悪魔に指をさすな、無礼者。それに、私が見えていることは冷たくて丸いものをくれたそこのドワーフで証明済みだろう』
口論をいつものように繰り広げていると、クルクと呼ばれたドワーフがマリスの方に近づいて肌をぷにぷにと触った後、なぜかテンションが上がり始める。
「おお! 貴様が悪魔なのか! それにしても、わしの見た壁画とはちょいと違う見た目じゃな」
『グレイス・アルマン、この男をどうにかしろ。私の貴重な実態を触ってくるのだが』
「それは自分でやって。そんなことより、壁画について詳しく教えて」
「おおよ! お前らがもしかしたら創世の堕天神ルシエルの生まれ変わりという可能性があるからな」
そういうとクルクは遺跡を案内してくれた。人一人がぎりぎり通れる通路を幾度となく曲がっては進みを繰り返して、ようやく大きく開けた場所にたどり着いた。そこには蛇や鳥のような動物と人間が描かれた壁画だった。文字はなく、ただ絵だけが四方の壁にびっしりと掘り起こされる。
「四面創世図。ここは昔の王の墓とされていて、その王の要望により、彼の繁栄と国に伝わる神話を墓に書き起こされているらしい。半分くらいは劣化していて見れたもんじゃないが、もう半分である始まりのほうは解読済みってえわけよ」
「どういう内容が書かれているの?」
「カラスは楽園、今でいう天界の使者の一人だった。ある日、カラスが自身の黒い羽を天界に落とすとそれから天使が生まれた。天使は喜び、彼ら自身で同胞を増やした。だが、増えすぎた人口に耐え切れず、カラスを天界から追いやった。カラスは新たな楽園を探した。そして見つけたのが今のわしらのいるところって感じじゃな」
「そのカラスと言うのが、始祖の天使と言われるルシエルってことかな? でもそれがグレイスたちとなにか関係があるとは思えないんだけど」
サバトが首をかしげているとクルクはさらに話をつづけた。
「現代にはそのルシエルはどこにもいない。天使にマトハルをも追い出されたときに怒りで我を忘れて暴れてしまった。それを収めるために悪魔を退治する聖なる弓矢が放たれた。赤く光る矢じりがルシエルに届き、封印という形となった。天使と悪魔が混在するこの時勢に自分を追いやった世界への復讐のためルシエルが復活を試みているとするとそれを止められるのは聖なる弓矢とそれを持つ、戦士」
クルクは唐突に壁画を指さした。そこには女性のような長い髪をもった人間が弓を放ち、大きな化け物を打ち倒す場面が描かれていた。でも、復活だなんてなんでそんなことわかるの? ここにはルシエル破滅と戦士の子孫が王国を作ったことしか描かれていなさそうのに......。
「ルシエルがどうして復活すると思うの?」
「悪魔は人間を破滅へと導こうと冥界から這いよってきとる。天使も、自身の保身のため人間を利用し破滅を呼び起こそうとしている。それらを憂いた人たちが頼む綱は天使でも悪魔でもない始まりの天使。もしくは、天を衝く弓矢だろうな。レイブン王国の人間は前者を選んで祈りを捧げ始めた。わしらは後者を選んだということじゃ。そして、その弓矢をわしらの力で最大限兵器化させたのがこれじゃ」
クルクはここまで連れてきたドワーフに耳打ちをして何かを取りにいかせた。しばらくしてからドワーフが戻ってくると、その手にはアイスまがいのようなものを入れていた大きなカバンを持っていた。ドワーフがカバンを開けるとそこには銃口の長い拳銃が入っていた。
「これって、銃?」
「おお、よく知ってるな。わしらが鍛錬した鉄、魔石イオ、マルレウスの火やヘルメウスの水を利用して制作した魔銃じゃ。こいつの威力は天使を穿つ。運命の戦士よ、復讐に捕らわれたルシエルを」
「ああ、そういうお堅い縛りとか、運命とかそういうの嫌いだから。だって、私そういうのから自由になりたいから戦ってるんだもん。ま、いただけるもんは頂くけどね」
「おい! お前が運命の通りに」
「グレイスは運命通りに動くことはないけど、ルシエルが立ちはだかれば自由のために戦います。僕も彼女と共に自由を歩みたい。そのためなら悪魔をも利用してるんですから」
「こんなやつにしか頼めないとは心配だが、運命の戦士に渡すつもりだったしまあいっか」
クルクはため息をつきながらも銃を渡してくれた。変に拗れなくてよかった。これで、五属聖も倒せるかもしれない。私は銃をポシェットに入れて火の国から旅立つ。
運命は自分で切り開くもの。
そして自由は勝ち取るもの。
彼女たちは自分の意志で再び火の国からレイブン王国に戻ることにした。




