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50:サラマンドーラとグレイス

サラマンドーラを目の前にして恐怖を乗り越えて戦いに挑むグレイス。

だが、彼を倒すことに本当に意味はあるのだろうか。

マリスが私の中に入ってくる。私と同じような恐怖が流れてくる。悪魔でも恐怖を感じているのか、それとも私自身の心が反響しているのか......。どちらにせよ、それを乗り越えるしかない。


『恐怖を乗り越える? 我々はその言葉が一番許せない。希望だの、勇気だのと自分をたきつけ恐怖を抑え込むことこそ愚直。恐怖はただ、支配されるか支配するかのどちらかだ! 私は恐怖きさまを支配してやる、サラマンドーラとやら』


マリスの言葉が私から聞こえてくる。恐怖を乗り越えることが愚直だなんて、いままでどれだけ勇気や希望で物語の主人公が戦い抜いてきたか知らないのか? でも、恐怖を支配することも、勇気に変えることも根本的には変わらないのかもしれない。


『それもまた、愚直というものだ。悪魔よ』


『貴様が死に恐怖する姿を見るのが楽しみだ』


だが、相手は炎を操る悪魔だ。マルレウスと同じように体表が炎で覆われているなら素手で戦っても意味がない。マリスも同じことを考えていたのか、水の魔法を利用して拳に纏わせる。


『水で体を覆ったのか。だが、弱すぎるな......』


「効いてない!?」


『ヘルメウス同様、弱点を突いた魔法を繰り出すだけでは芸がないと言うことか......。面白い! ならばこれならどうだ!』


水の魔法から今度は火の魔法に変えたと思うと背中から炎の柱が顕現した。柱の端が手のように五つに分岐して拳となってサラマンドーラを捕らえる。サラマンドーラの首を絞める炎の手。熱が私にも伝わってくる。


だが、サラマンドーラはその炎さえを取り込んで大きくなっていく。炎の手をつかみ取り、エリマキを大きく広げ、目をメラメラと燃やしていた。じりじりとこちらにすり寄ってくる。サバトが槍から魔法で凍らせても止まることはなく、意味もなく蒸発していく。


「グレイスの炎で自分の火力を増やしているって言うのか!? 逃げてくれ、グレイス!!」


「サバト、私は逃げないわ! ここでくじけてちゃ天使をすべて倒せるわけがない! 武器がなくても、たとえ不利だとしても諦めない! マリス!」


『私がただただ炎の魔法を使ってこの悪魔を巨大化させたと思うなよ? 周りを見てみろ。そこかしこに火をともせば爆発する危険な魔石ばかりだ。お前が力を使えば使うほど、それが地雷となる!』


その瞬間、洞窟に埋もれていた複数の魔石から光が発せられ、爆発していく。爆発の衝撃により、大地は揺れ、岩石がサラマンドーラを直撃していく。予想外の不意打ちにサラマンドーラは痛々しい叫び声をあげて岩陰へと消えていく。逃がしてはいけない。ドワーフたちが安全に働いていけるように、私たちが天使を倒せるくらいに強くなるためにあの悪魔を殺さなければならない。


『悪魔は殺す必要はない。不必要に深追いするな、グレイス・アルマン!』


「あんたは結局、悪魔が殺されるのを見たくないだけでしょ。ガラゴの時だって殺しはしなかった。だけど、私は違う。必要のないものは排除する。自分の目標に立ち塞がるものを乗り越えってみせる。だから、あれは必要のないものなんだ」


私から離れていくマリスをよそにサラマンドーラが放つ独特な明かりを元に洞窟を進んでいく。悪魔も天使も必要ない世界にさえなれば私はどうなっても構わない。みんなが住みやすい世界に私が変えるんだ。そう意気込んで足取りを早めるもなぜかドワーフが私の前に立ち塞がる。


「やめんか! サラマンドーラは悪魔ではない! 確かに悪魔と呼ばれているが、自然をつくりなす精霊なんじゃ! マルレウス殿も了承している。イオの発掘のために、わしらのためにここは一旦退いてくれ! 彼奴きゃつはわしらにとって必要なものじゃ」


どうして? あんな奴がいたらあなた達はまた危ない目に遭ってしまうのに......。目を鋭くさせてドワーフを見つめているとサバトが私の手を握ってきた。


「グレイス、戦いにとらわれちゃいけないよ。君は今、ここにいる誰よりも悪魔のような顔つきをしている。君がなりたかったものはそうじゃないだろ?」


ポシェットの中にある次元鏡を見つめてみた。私がうっすらと移っている。ぼさぼさになってしまった銀色の髪の毛、疲れ切った眼、そして自然と食いしばったままの口元......。つりあがった眉を手でギュッと元に戻した。大きく口を開け、そしてゆっくりと閉じて両手で顔を覆い、少し頬を叩いた。


「そうね......。ごめんなさい。ちょっと戦いが多くて疲れてたみたい」



「疲れとるなら、今日はこれ食べて寝れ」


ドワーフが金属製の箱から白い煙を出して青白い球体を取り出してきた。これは、食べ物なの?


「これは?」


「水や塩、この辺で取れる果実を固めたもんよ。熱のこもる作業が多い場所じゃけえ、こういう補給品が必需なんや。口ん中放りこんでみい、スッキリするで」


言われるがまま、私は人差し指と親指に挟まるくらいの飴玉くらいの大きさの青白い球体を口の中に放り込んだ。シャリッという音ともに絶妙なしょっぱさと甘酸っぱさが口に広がり、唾液が刺激される。口当たりは悪くなく、真夏に食べるアイスやスイカのような清涼感につつまれた。


 サバトもドワーフに勧められて口に含んだ。こういう食べ物は初めてらしく目を見開いてこちらを見ていた。初めてアイスを食べた子供みたいで可愛かった。


「ほら、おめえも食ってみ!」


『わ、私は悪魔だぞ』


「知るか、そんなもん! 同じ釜の飯くえりゃ悪魔も人間も関係ねえ。世界を作ったとはいえ同じ生きもんじゃろ」


住む世界も食べるものが違っても同じ生き物という当たり前の感覚......。神に等しい力を持っていたとしても根底は変わらないということだろうか。彼らはそれを本能で、いや長くここに住んでいたからこそ知っているのかもしれない。


 そんなことよりも、少し気になる言葉があった。『世界を作る』? それは悪魔が? それとも天使が?

疑問は興味に変わる。


「世界を作ったって言ったけど、それってどういう......」


「わしらは細かいことはよくわからんが、遺跡を調査してる変わりもんがおってな。そいつが悪魔と天使がこの世界を作っただのどうのと言うとった。話したかったら明日くらいに会わせてやるわ。今日はもう遅い、休み」


優しいドワーフに言われるがまま、洞窟を後にして近くにある彼らが雑魚寝している寝床に連れていかされた。宿屋のようにベッドなんて言うものもなければかれらの寝息がうるさくて環境は悪いが、ここまで休む暇もなかった私たちが寝るには十分だった。



ドワーフたちに連れられて変わり者のドワーフ「クルク」のいる遺跡へと連れられたグレイスとサバト。そこの壁画に移された世界の謎とは!? マリス、君は一体何者なんだ?

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