49:魔石イオと鉱山
マルレウスによって魔石採掘場で強制労働させられようとしているグレイスとサバト......。
二人が待ち受けるのは灼熱の悪魔だった。
ろうそくの揺らめいた明かりが洞窟探検を不安にさせる。前に進んでも、ろうそくがあったとしても暗闇は訪れる。
カン.....カン......カン......。
奥から何かを叩いているような音が聞こえる。
「なんかここ変な匂いがしない?」
「匂い? 僕は特になんにも感じないよ」
『それは死の匂いだな。死を連想する場所があると悪魔はそれを匂いで感じ取れることができる。お前も私と同じような能力を手に入れたみたいだな』
「これが、死の匂い......。気持ち悪い」
「そりゃあ、死臭がするわいな。ここじゃあほとんどのドワーフたちがイオを掘って命を落としとる」
一人のドワーフがランプのようなものを片手に持って現れた。もう片方の手には鉱石を掘るつるはしを握っている。持つ腕は小さくても丸太のように太く、たくましい姿だった。
イオ......。初めて聞く名前だ。
「イオ、それって何ですか?」
ドワーフが答える前にサバトが静かに答え始めた。
「魔石イオってのは炎の魔法を司る魔石で、その爆発力で銃という武器を作ることができるらしいんだ」
こんなにもファンタジックな世界なのに、銃が存在するのも不思議だった。ソルエルを倒した光も魔法だと思っていた。でも、違った。実弾の銃じゃなくて魔石から銃が開発されたなら少し納得がいく。この銃が天使に対抗する手段とでも言いたかったのかな......。
「さぁ、わかったらお前らもぼさっとしてねえで働け!!」
そういうと彼が持っていたつるはしが投げられた。
「ほれ、屈強そうなあんちゃんも」
ドワーフは腰につけていた少し小さめのつるはしをサバトに渡した。渡されたからと言ってすぐにできるわけがない。私は単純で基本的な質問を投げかけた。
「どうやってみんなその魔石を掘り起こしてるの?」
「ただただ、経験あるのみとしかいいようがないのう。だが、おめえさんの死臭を嗅ぐ能力があればいけるかもしれんねえ」
そういった後、ドワーフは何事もなく仕事に戻っていった。明かりは遠のき、再び暗がりが訪れる。
そうして、私たちは再び取り残された。
「こんなのやってられないよ。さっさと逃げよう」
サバトがつるはしを投げ捨てようとした瞬間、ドワーフが鬼のような形相で駆け寄ってきた。
「こぉらーーーーーーー!! 道具を適当に扱うんじゃあねえ!」
「うわぁ! なんだぁ!?」
「『なんだぁ!?』 じゃあねえわい! きさんは敵前で武器を投げ出して逃げるか? 逃げんとやろ! つるはしはわしらの命同然! ちゃんと使え、働け! ここじゃあそれがルールばい」
ドワーフは自分の身長以上に高く飛び上がり、サバトの頭を叩いた後彼につるはしを拾わせた。
「確かに、僕自身も武器を投擲することはあるけど、投げ捨てて逃げる剣士なんてなりたくない。グレイスを守るって誓ったんだ。だからこそ、この槍はあるんだ。すまなかった」
「それでいいんだよ。さぁ、仕事再開といこうや......。『くーろいはねがおっこちた♪ さばくにくろい はねおっこちて はなさいた♪ はなさいて みがなって からすがないた♪ からすは くろいはね おとしていった~♪』っと」
あの曲......。マトハルに来た時にもドワーフの武器商が歌っていた。
「あなた、その曲をどこで?」
「なんだ? カラスの羽っていう民謡しらねえのか? レイブン王国から教えられた歌やで?」
レイブン王国の? そんなの初めて聞いた......。
「ホントなの? サバト」
「僕も初耳だよ。王国にそんな民謡が伝わっているなんて」
サバトでさえも知らない王国の秘密......。王国民のはずなのに伝わっていない伝承? なんの歌なの......。つるはしを振り下ろしながら考えていると突如として爆発音が聞こえた。
鳴りやまない耳鳴りと地鳴りが私たちを襲う。ドワーフたちはいつもの事だと言わんばかりに冷静に現場へ急ぐ。
ゴゴゴゴゴゴ......。
「誰かがまた悪魔のしっぽを切りやがったな! とっちめてやる」
私たちの監視を務めていたドワーフは独り言を言い残して他のドワーフたちと共に爆発現場へと向かっていく。
「グレイス、今彼悪魔がどうって......」
「行ってみましょう」
『死の匂いある所に悪魔は潜む。ガラゴやメレークもそうだ。そして、私が貴様に誘われたのも......』
悪魔は死に対して敏感な生き物らしい。彼らは死を糧にして生きている。人を生物を殺すことを楽しんでいる。だからこそ、こんな場所にいるんだ。『死の匂い』がきつくなってきた。同時に熱波がこちらの肌をひりつかせる。
『近いぞ。それにとても大きな力を感じる。気を付けろ』
マリスが静かに私に話しかけるとさらに熱風が洞窟の奥からこちらに吹き付ける。ドス、ドス......。という足音と共に炎の襟巻をまとったトカゲのような生き物が目をぎらつかせてこちらをにらみつけている。
『我は、灼炎の悪魔サラマンドーラ......。我が眠りを覚ました愚か者は誰か! 紅蓮の炎で死の恐怖を味合わせてやる!!』
私の背丈位もあろう顔がこちらをむいて近づく。これまで多くの悪魔と対峙してきたけど、ここまで威圧感のある悪魔は初めてだ......。私とサバトは初めて悪魔に対して恐怖を抱いていた。対して、ドワーフたちは恐怖などものともせず、勇猛果敢に、いや無謀にも悪魔に挑んでいく。
「みんなやめて! 死んでしまうわ!!」
「ここで誰かが死ぬなんてことはいつものことじゃい! 恐怖は包丁や剣と同じよ。使い方を知らなければ自分を傷つける。だから、恐怖そのものをしっかり見ろ! なにが自分の体を震え上がらせているか。それを扱え。恐怖をものにしろ! そして、勇気という剣に変えて見せろ! 天使を、悪魔をそして恐怖を断ち切るならなぁ!」
ドワーフはサラマンドーラの足蹴にされ口から吐く炎に焼かれていく。ボロボロになっても、腕が折れても、足が食われても戦い続けた。いままでの私を見ているみたいだった。これまで無謀と言われても戦い続けてきた私がここで立ち止まるわけにいかない。
「マリス、力を貸して」
『あの悪魔で楽しむとするか......』
久しぶりに闇が私を包み込み、力が大きく膨れ上がるのを体で感じていく......。
サラマンドーラの威圧とマルレウスの恐怖を重ねた二人。
五属聖を倒すため、すべての天使を倒すため二人は恐怖に立ち向かう。




