46:水の天使とデーモンテイマー
マトハルに着いたとたん、もろもろ事件に巻き込まれていくグレイスとサバト。
二人は天使を捜すためにひとまず探索をしようと思った。
修道女を倒した後、新たなる手掛かりを求めてさ迷い歩く。サバトいわく、ここには五属聖の一人であるヘルメウスと呼ばれる水を司る天使がいるらしい。
「本当にヘルメウスがここにいるの?」
「さっきの修道女がヘルメウスの天啓を受けたって言ってたから間違いないと思うよ」
サバトと城の方へ向かっていくと水の音がポチャン、ポチャンと聞こえ始めた。上を見上げても雨雲のようなものは見当たらない。にしても床がじめっとし始めている。水の音がなぜかこちらに近づいてきているように聞こえる。それに伴って水しぶきを掛ける馬の足音が聞こえる。
「まさか、王国かかえの勇士団か?」
水が意志を持っているかようにうねうね動きながら馬に乗った人間の間をくぐっていく。水のかたまりは人型になってこちらに近づいて話し始めた。
「銀髪のデーモンテイマー、ようこそレイブン王国の首都マトハルへ。ここには異教の取り調べにきたのですがどうやらより大物が釣れたようですね」
絵画で描かれるような神が着ていそうなローブを身にまとい、顔や手は水で出来ているように見える。天使の輪を背中につけた神々しい、近寄りがたい存在だ。
「あんたが、水の天使......」
「水天使、ヘルメウスと言います。グレイス・アルマン、あなたをソルエル、カマルエル、そしてオムエル、ファムエルの神殺しの罪により断罪します! 異教のルシエル教徒はみなさんで捕まえられるでしょう?」
ヘルメウスは、そういうと王宮の騎士たちは散り散りになり去っていった。というか、さっきであった修道女は金級の勇士だというのに国から認められていない信仰を広めていたというの? 考えがまとまらない間にサバトが珍しく天使に怒りをあらわにした。
「僕はあなた達天使の方がよっぽど異端な存在だと思う。守るふりをしておきながら残虐に殺して食っているじゃないか。僕は分からない......。どうして人間を食わなければならない! どうして僕たちなんだ?」
「疑問なのですが、家畜はそのように口答えはしますか? したとて家畜を飼っているあなた達はどう答えますか? 答えられませんよね。それと同じです。我々天使が生きるためにあなた達をむさぼる。貪り食うために必死に守り、育てているのです。魔力が高いほど美味、知能がいいほどより聡明に、筋肉があるほど優秀に我々は進化できるのです。あなたも私と同じ天使とともに戦ってきたはずです。何をいまさら」
「確かにその時はなにも分かってなかった。自分が食われる対象でなかったからどうでもよかったんだ。でも、実際に天使が牙をむいてきたときに気づかされた。あなた達が僕たちにとって守護者ではなくただの捕食者だということを......」
「それを分かったとしてもどうにもなりませんよ? 人間は我々のためだけに生きればいい。降りかかる火の粉を取り払い、我々に食われるという人生を」
「やっぱり天使とは話が合わないみたいね。さっさと倒して自由になるわよ!」
ヘルメウスが水を思うままに操り始める。水を使う相手ではフェニックスだと戦いが不利になるかもしれない。ここはケルベロスで様子を見よう。ポケットの中から次元鏡を取り出してケルベロスを呼び起こした。
「ケルベロス、あいつを蹴散らせ!」
ケルベロスは三つの顔をふんだんに使ってヘルメウスを自慢のギザギザした歯で捕らえようとする。だが、フェンリルとは違って魂を捕らえることはできない。やはりやみくもに戦っても意味がないか。ヘルメウスの体に突進を仕掛けても体ごと水に変わり、あたりの家の壁に激突させられてしまっている。ケルベロスは必死に立とうとするがふらついている。私はケルベロスに駆け寄って頭をなでつつ回復させる。
「実態のない水にどうやって戦えばいいの?」
「やみくもに戦っても君が苦労するだけだ。グレイス、ボクが水の魔法を応用させてあいつを凍らせてみる。その後はケルベロスでかみ砕いてくれ」
「わかった」
彼の言う通り、ヘルメウスの攻撃をかわしながら時間稼ぎをする。
「攻撃が当たらないからと分かって防戦一方ですね。私はそんなに暇ではありませんよ」
水の勢いは私たちを軽く吹き飛ばせるほどに強い。かすっただけで顔に傷がつく。正直、交わす体力も限界に近い。
『グレイス・アルマン、逃げだけでは天使を倒せないぞ』
「分かってるわよ! 今は話しかけないでくれる!?」
遠くで見守るマリスの余計な一言で逃げ足が遅くなってしまった。
「しまっ」
「グレイスは僕が守って見せる! エレメンタルハイドロアイス!!」
目の前に放たれていた水流から凍っていき、最終的に天使自体を凍らせていく。
天使は動けない今がチャンスだ!
「今だ、ケルベロス! ヘルメウスをかみ砕け!」
かみ砕く瞬間、稲妻が走る。ヘルメウスは粉砕し、氷塊となっていた。
「やったか?」
「......!? 見て、サバト。氷が動いて行く!?」
城下町のきれいなレンガ造りの地面に散らばった氷と水がカタカタと揺れ始めた後、一点に集まっていく。これが天使の力とでもいうの?
「中々、いい連携でした。魔力も上質で食べごろでしょう。ですが、あまり智恵の方は期待できませんね。残念です、食べずに処理してしまうのは」
ヘルメウスが元に戻り、水を一点集中させて勢いよくうち放つ。土魔法で厚い壁を作るも勢い止まらず穴をあけて私たちめがけて一直線に走る。 もうだめだと思った瞬間
『あきらめるのか』
二つの声が聞こえた。一人はマリスだ。だが、もう一人は別の咆哮から聞こえる。聞き覚えのあるような声。その声の方向に目を向けると仮面をつけた人間が盾をもって現れた。私たちはその男を知っている。執拗に私たちに絡んできては消える謎の男、ノマドだ。
「お前はまだ、死んでもらっては困る」
そういった後、ノマドは盾を構えると辺りが魔法の壁に包まれていく。勢いののった水は壁にはじかれていく。
「ここは一旦退くぞ!」
このメンバーのリーダーであるかのようにふるまうノマドに若干の不満はあったが、今の私たちに倒せるか不安だ。仕方なくここは彼の言うことを聞いて、言われるがままその場を後にした。
五属聖を目の前にして、今まで以上に強い力を見せつけられ撤退せざるを得ない状況になったグレイスとサバト。二人の目の前に現れたのは謎の仮面の人物、ノマドだった。




